14:いざ、(有)ウェムラ邪眼工房
「ん? 売り出す?」
肉と山草を炒めたものを口に入れながら、俺は応える。
いいからお前も食ったらえーのに。
「あぁ、いえっ、気を悪くさせたなら謝ります。ただ、ふと思いついたことなのですが」
ハッと我に返り、慌てたように言い加えたストレイン。
その左目を赤く光らせたまま、言葉を続けた。
「アキュラ殿が作った武具の数々、ここひと月、全て見せてもらいましたがどれも素晴らしいものでした。もちろんこの邪眼も」
己の右目を指差しながらストレインは語りかける。
「しかし、作った後のことは何か考えがあるのでしょうか」
そう問いかけられた俺は食べる手を止めた。
ーーむ。
たしかに。
この世界に来てから、とにかくものづくりものづくり。
生きるため、そして生前の思いを遂げるために。
がむしゃらに、ただ作りたいものを作ってきた。
だがーー
「ここまでの物を、小屋に眠らせて置いたままではあまりにも、その……もったいないというか」
本当に思いつきで提案したことなのだろう。
途中で恥ずかしくなったのか、最後はゴニョゴニョと言葉を濁していた。
実際、ストレインに会うまでは……。
正直なところ、俺は何も考えていなかった。
クマ吉の邪眼が完成するまでのんびりこの生活を続けようと思っていた気がする。
いや、完成してからもどうするかなんて気にしていなかったな。
山の主を狩ってから、いずれは町に下りようかとも考えていたが……。
多分俺の性格上、下りる下りる詐欺になっていた可能性も高い。
図鑑のアンロック条件なども気にはなるが、そこまでだ。
ものづくりを後回しにしてモンスターハントに勤しむほどじゃない。
俺は子供の頃から、図鑑コンプリートには手を出さない派なのである。
とかなんとか色んな事情(面倒くさい)を理由に、好きなことだけを考えてきたワケだ。
だが今、ストレインの指摘を受けて、なんというか考えさせられた。
神様から素敵アビリティ貰っといて山でヒッキー生活ってのも……なあ?
ストレインが俺の返答を待たずに、何やら真剣な面持ちで話し始める。
「それにアキュラ殿。僕はこの右目の邪眼に、命を、人生を救われました。例えでもなんでもなく、アキュラ殿の作り出した物によって未来を救われたのです」
ストレインが感極まったように震える。
ちなみにその右目は邪眼じゃなくて魔眼な。
「魔法による治癒では不可能な傷も多い。この世界には僕と同じように苦しんでいる人間がたくさんいるのです。そんな人々に希望を与えるため、アキュラ殿の作品を世に放つのもいいのではと」
ストレインの持つ竜化の魔眼がカッと輝く。
その体から溢れ出る粒子が俺の頬に触れて消えた。
商売か〜……。
まあ、お金は多いに越したことはないのは世の常だが……。
できればストレインの魔眼がちゃんと問題無いか確認したいところだ。
だが、当の本人はヤル気満々である。
もしかしたら、失敗する可能性に対しての不安を塗りつぶしたいのかもしれない。
しかし。
一見さんお断りの山中に隠れた名匠の製作工房ーー。
うーむ、なかなかいいんじゃないか!?
頭にアホみたいな妄想キャッチコピーを浮かべながら、少し考える。
この世界の事情はここ1ヶ月ほどの間、ストレインからある程度聞き及んでいる。
大陸諸国の戦争が頻発していることや、王族・貴族と庶民の格差社会。
人と魔物との関係性や、魔法の稀少性などなど。
前の世界では一切関わり無かったことばかりである。
だが、エシュタルに住んでいる以上、もう無関心ではいられないのだろう。
ちなみに魔法に関しては、ストレイン曰く習得は難しいとのことだった。
持って生まれた適性があり、それを形にする才能を持ってようやく使える代物だとか。
エシュタルにも魔法使いは一握りしかいないらしい。
じゃあ魔力はなんなんだと聞いたら、全ての生物が持っているものだと。
魔法を使わない人間にとって、魔力は気、みたいなもんらしい。
魔力を身に纏うことで、ちょっと丈夫になったり強くなったりする。
ストレインのおかげで俺も魔力を感じ取れるようになったよ!
俺の魔力量自体は常人より少し多いくらい。
これじゃ、異世界無双は厳しそうだ。
魔法は知らんし!
まあ、せっかくストレインと契約もしてることだし、職人としての更なる高みを目指して……。
頑張るぞい、してみるかぁ。
俺は椅子から立ち上がり、ストレインに向かって言った。
「そうだな。よし、決めた。やるか、ストレイン」
「おお! さすがアキュラ殿!」
「お前には素材の調達以外でも色々とやってもらう。忙しくなるぞ、勝手に倒れるなよ?」
「お任せを。アキュラ殿に救われたこの身、存分にお使い下さい」
やれやれ。
こっちは心配してるんだけどな。
呆れながら、食事の後片付けを始めた俺。
横ではストレインが、ああっ、まだ食べてませんよ僕は!とか訴えてきているが無視だ。
「そういえば、店の名前はどうするのですか?」
冷めて固くなったご飯をかじりながらストレインが尋ねてきた。
「そうだな……有限会社、うえむら……あ、いや、ウェムラ邪眼工房。資本金は今ある自作ユニークウェポンと竜化の魔眼ってところか」
「有……限、がいしゃ? 何か意味のある言葉なのですか?」
「意味なんて無い。気分だよ気分」
ハッハッハ、っと俺は笑う。
そうして、明日からの小屋の改築作業を頭に浮かべながら、焚き火を消したのだった。




