9.応援より
「中井さん、あれ!」
中井の言う、精鋭三人。後藤晴久伍長、柴田恭則特等兵、高見蓮華特等兵。
その中の紅一点、高見蓮華の声を聞き、中井は彼女の指差す晴れ渡る上空を見上げる。
「スプリンクラー搭載ヘリ!?」
中井は怪訝な顔をする。このような荒地にスプリンクラーが何故必要なのか。
「わかりませんが、とりあえず行ってみましょう!」
堂島の声を聞き、全員が頷いてヘリのある元へと前進した。先程より走るペースは上がっている。
ちょうどその時、法寺理貴はひとりの少年兵、トロイと命懸けの戦いを行っていた。
少年兵の短刀裁きはそこらの兵士よりも素晴らしいものだった。既に法寺も二つほど傷をもらっている始末。
法寺理貴も決して肉弾戦が苦手というわけではない。寧ろ彼は優秀な部類だ。
装備からサバイバルナイフを取り出し、右手に持つ。応戦体制に入った。
ひと呼吸置いて再び短刀を振るってくる少年兵。顔の周辺に現れては消え、現れては消えを繰り返す。
法寺もサバイバルナイフで巧みに牽制する。少年兵トロイもあと一歩がどうしても届かない。
短刀を大きく振った。それを背筋を使って避ける法寺。カウンターとも言えるナイフによる正面突をその幼き顔にお見舞いした。
「うわぁ! 痛え!」
頬から血を流す少年。まだ10歳前後の、母親が恋しい盛りである。
そんな彼がひとりで、20そこらの青年相手にタイマンを挑んでくるのだから感心だ。
「わりぃけど…攻撃仕掛けてきた時点で少年兵だろうと老年兵だろうと手加減したくは無いんでな」
手加減したくはない。これは半分嘘であった。
彼には手加減などしている余裕がなかった。それくらい、この少年兵トロイの体術は法寺を苦しめるものだったのだ。
痛みを堪えながら立ち上がるトロイ。涙と血が顔面上で交わっている。
「ちっ…英才教育生かよ」
引き気味に、それでいて不敵に笑う法寺理貴。右手の腕輪を光らせ、サバイバルナイフを再び構えた。
その右手首に、鉛が飛んできた。
「うぁっ!」
衝撃で右手首が大きく弾かれた。腕輪がなければ吹っ飛んでいたであろう右手をまじまじと見つめていると、遠くから声がした。
「うおおおあああああ!!!」
もう一人の少年兵、ジョンの加勢である。天は今、健気に戦う少年たちに救いの手を差し伸べようとしていた。
「2VS1かよ…そりゃねーぜ」
余裕そうに言ってはみたが、実際に余裕などどこにもなかった。二人分の装備を持っているとは言えど、同時に二人分の装備を扱えるほど器用ではない。
そんな者が入れば、すぐにでも昇進しているに違いない。
目が血走っている二人の少年兵。完璧に殺すつもりだ。応戦は不適と判断した法寺。逃げる体制を取る。
その頃にはもう、彼の目の前まで二人が迫っている。
トロイの持つ短刀が目の前を掠めた。ナイフでジョンの方を切りつける。拳銃の構えられた右手首を傷つけた。
それでも彼は拳銃を手放さない。
死の一文字が法寺の脳内を過ぎった。ここまで不幸な死に方など無い。
「ありえねぇわ…」
目の前で二人の少年が自分の頭をめがけて拳銃を構えている。
THE ENDというやつだ。どうあがいても倒せない。
「ありえねぇよな…マジで」
一人の男の声がした途端、目の前の少年の手元の拳銃は弾かれ遠くへ飛んでいた。
手首を抑えながら、二人の少年兵はもがいている。
脳内が整理し終わるよりも先に、法寺は思わず弾丸の飛んできた方向へ目をやる。
「そんな死に方しちゃダメだろ法寺よ」
「あんた、初老の師団長に感謝するのね」
ライフルを構えているのは、別の部隊に配属されていたはずの芹沢崇人二等兵卒、そして自分をおいて撤退したはずの中井美和大尉補佐だった。




