7.会議より
「ちょっ、作戦中止ってどういうことすか!!?」
兵士歴二年と少々、まだまだヒヨっ子と大差ない青年、芹沢崇人は上司の言葉に思わず反発した。
「作戦隊長の指示だ。とりあえず前線も方で何か危険でもあったのだろう」
「前線のこと、補給係の俺らの元には伝わってこないですよね」
上司である曹長の言葉に渋々頷くしかない芹沢。部隊長である曹長本人も、この意向にイマイチ納得ができていなかった。
「帰還者は何名だ? 中井大尉補佐」
作戦未実行のまま急遽撤退することになった中井美和大尉補佐率いる激戦区殲滅作戦第一部隊。
構成員の8名が死亡。一名を現地に残しての撤退となった。
「私含め12名の帰還です」
隊長の中井美和は淡々とした口調で志場魁皇大尉に告げる。
「未帰還者の消息の判断は可能か?」
「一名を除き可能です。7名の死体はこちらまで運びました。一名の死体と兵士一名を現地に取り残しております」
互いに表情も声色も変化しない。手馴れた様子だ。
「ご苦労様」
「いえ、これより作戦部隊の者で作戦会議を開きたいのですがよろしいでしょうか」
志場大尉に頭を下げる悪魔的な女は、冷徹な表情を一貫したまま、提案する。
その提案を取り下げることもなく、志場は承諾した。
「え、これから激戦区殲滅作戦会議を行う。先程は想定外の攻撃に遭い、作戦決行に至れなかった」
中井美和の言葉を皮切りに、作戦会議が行われた。全15部隊の各部隊長が集っている。
「どのような攻撃でしたか? 被害は?」
右手を上げ、質問をしたのは、先程芹沢と会話していた後方補給部隊長、堂島茂邦曹長だった。
「…激戦区内に、先遣隊の気配を感じたため、偵察を向かわせたところ、区内突入前に、敵監視兵に発見されたらしく、偵察に向かった兵士一名と指示が通らなかった兵士7名が死亡した」
質問者の堂島を始め、他の部隊長も怪訝な顔をする。
「指示が通らなかったというのは?」
「あたしの指示を聞くよりも先に配置から離れ逃走した者がいずれも背中を撃たれ即死した」
中井の言葉から句読点が消える。眉をひそめている。
「帰還者は12名でしたね? 現地に一名残した理由を伺いたいのですが」
またも堂島が問う。中井の眉は更に目と近くなる。
「これは現地に残る決断をしたのが何を隠そう兵士本人だからです。法寺二等兵卒自身たっての希望です」
彼女自身、先ほどのもどかしい会話を思い出し、顔を苦くする。
「ん、また不可思議な奴もいるもんだな」
「ですねー」
静粛さは消え、各部隊長それぞれが思い思いの言葉をそれぞれ述べている状態だ。
そんな中、ひとりだけ表情を変えずに下を向く初老の男がいた。
「そいつぁ…心当たりがあるなぁ…儂の部隊の部下の同期かも知れん」
真面目に会議を行おうとしている中井や堂島を始め、雑談を繰り広げる部隊長たちもその初老の男に視線を注いだ。
「どういうことですか、茨城師団長」
中井の声に、顔を正面に向け、彼女と目を合わせた初老の男、茨城白棘。
師団長。尉官、曹長、伍長らよりも下位ながらも今作戦の一部隊を任されている男だ。
「うむ……何せ『死体に執着する男』と聞いておるからのぉ…前線に出向きたがるのもそれが起因しているらしい」
茨城の言葉が、中井の記憶の靄を吹き飛ばした。
「…はい、確かに。法寺二等兵卒は…敵陣近くで倒れた阪井一等兵の死体の回収のために現地に残る選択を取りました」
中井の気だるそうだった声に活気が戻っていた。
「死体に執着って…マッドサイエンティストかよ」
「飛んだサイコ野郎だ」
「ネクロマンサーじゃね」
そして、雑談する頭の悪そうな者達の言葉にも活気が戻る。
「そうか、置いてきてしもうたか。 儂は置いてこんほうが良かったと思うんだがなぁ」
茨城の言葉、視線、手の動き、素振り、その全てが謎の説得力を中井美和ら各部隊長に訴えかける。
雑談する者達の声も自然と止まった。
「各部隊長に告ぐ、これより、『緊急救助用特別部隊』を編成する!」
異例の決定に、会議参加者は一線に中井に注目した。




