33.被害より
法寺理貴は、先程まで激戦地だった箇所に来ていた。ここにも敵からの爆弾は落下したらしく、その被害は生々しく、倒れる兵士たちに映っていた。
「…なんてことだ」
開いた口が塞がらない。惨憺たる光景は、その顔が物語る。
「あ、あなたは…柴田さんですか?」
法寺は、目の前に立つ体格のいい男を指して言った。しかし、顔はこげて真っ黒で、目と唇の色しか確認できない。
「法寺…よかった…」
目の前に立つ男は、確かに柴田の声を発しており、そして法寺をしっかりとその目で確認すると同時に、力なく伏した。
「柴田さん!!」
死んでいる雰囲気でこそなかったが、場所が場所であるため、いつ死んでもおかしくない状況だ。それに、中井や堂島など、まだまだ安否確認ができていない仲間も大勢いる。確か後方部隊に衛生班がいたはずだと、法寺は少し煤を被った通信機を取り出した。
「こちら前線部隊、ユキ、聞こえるか?」
通信先は、春野雪、茨城白棘らがいる後方部隊。
「はい、さっき爆発音がしたけど、理貴らは大丈夫なの?」
通信機の向こうのいつもと変わらない声を聞いて安心した法寺。しかし、少しも現状は良くはなっていない。
「俺は大丈夫だが、かなり被害が出てる。救護に駆けつけて欲しい」
「敵の状況をわかるかぎりで教えて」
「ほとんど撤退したみてえだ。戦闘してる様子がまるで伺えねえ」
「了解。今すぐ向かうわ」
通信機をしまう。柴田の様子を見たあと、辺りを見渡す。数m先に数名の人影を見つける。
目の先にいたのは、堂島茂邦曹長だった。彼は座り込んで、倒れる人を看ているようだった。
「中井さん! 中井さん!」
俄かに聞こえる声から察するに、どうやら倒れている人は中井美和らしい。
「堂島さん!」
法寺自身そこに駆け寄り、中井の状態を見る。
「法寺くん、無事だったのかい!?」
堂島は顔に汗を流しながら安堵の表情を浮かべた。どうやらいくつもあった不安の一つが今ここで解消されたらしい。
「はい、しかしこれは…」
中井は顔の右半分に火傷を負い、右腕から大量の血を流していた。堂島の方は、爆風を逃れたおかげで今こうして無事でいるわけだが、中井を止血しようと奮闘しており、気が気でない様子だ。
「先程救護班を呼びました! 数分で到着すると思われます!」
「そうかい、さんきゅ…」
堂島も慌てている様子だ。目の前の中井は、依然として目を開かない。
―死んでるわけ…ないよな。
嫌な予感が頭をよぎる。柴田は生きていた。彼女も生きていると信じたい。
死体の生臭さを今になって感じ始めてきた。やはり被害者が出るのは免れなかったようだ。
「曹長! けが人他数名発見しました!」
甲高い声が響く。
「高見特等兵ですか?」
「法寺くん! 生きてたのね!!」
中井が倒れるところにやってきたのは、高見蓮華特等兵。堂島同様に、大した怪我をしていたわけではなかった。
「中井さんの容態は…?」
高見が視線を落とす。その先で目を閉じる中井の顔は、赤黒く焼けていたが、徐々に青白くなっていた。
「死なせちゃダメだ…中井さん!!」
堂島は叫んだ。虚空に響く声に、高見も法寺もできることはないかと辺りを見回す。
一つ、誰のかわからないカバンを見つけた。
「そういえば、この前線部隊に、補給兵や衛生兵は加えてなかったのですか?」
「いないはずだわ…何てったって武器を持たずに前線に参加するなんてほぼ自殺行為だもの…」
法寺は、そんな高見の言葉に頷きながらも、藁を掴むようなつもりでそのカバンの元へと走っていった。
「…水! 包帯!」
水と包帯を見つけた。これだけでも、何もしないよりはマシだと判断した。
「堂島さん、これ」
法寺はカバンの中に入っていた水の入った未開封のペットボトルと、包帯を取り出した。
「法寺…」
「ユキが来るまでの数分間、俺らにできることをやりましょう。 絶対に、助けますよ」
「ああ」
堂島の顔つきは、法寺の言葉につられて、しっかりとしたものに変わった。




