3.激戦地より
刹那、死を覚悟した。
逃走を諦め、床に這い蹲る選択をした法寺。
地と同じ高さから見えた視界は、阪井の軍靴のみ。
ゆっくりとこちらに向かっていた。
これが世の言う走馬灯らしい。
藁の楯をぶち抜く銃声。火薬の臭い。
鉛が何かを貫く音は止まった。
鼓動はまだ聞こえる。
法寺理貴はまだ、生きているようだ。
「やけに落ち着いているじゃないか」
後ろから落ち着いた声が聞こえた。
「伊達に前線経験してないな」
中井美和も右斜め後ろで伏せていた。
「私の指示が聞こえないほどテンパった奴がいたらしい。ほら、後ろを見てみな、駐屯地の方を向いて這い蹲ってやがる」
6.7人の同志がそこに血を流して倒れていた。いづれも先ほどの弾丸を貫かれた者たちのようだ。
これでは作戦など続けることもできなさそうだ。
「阪井をどうしますか」
「どうしようもない、ここに放置して一旦撤退しよう」
中井に問う部下。それに答える彼女。納得ができない法寺。
「さ、阪井さんをここに放置ですか!?」
思わず声を荒げた。中井の表情は変わらない。
「あの距離まで行った瞬間に多くの何かが阪井の存在を察知して銃弾をカマしてきた。どう考えても今助けに行ったらあんたまで死ぬ」
正論だ。
「一旦引いて作戦を練り直す。あたしの考えが甘かった、それについては謝る。 しかし、あんたはもうちょっと『わかる』やつだと思っていたんだけどね」
軍人:中井美和の表情は尚も変わらない。周りも彼女に同調しているせいか、反抗心は沈められていきそうだ。
「法寺、既に数人殺されている。これ以上の被害を出してまでたったひとりを救うのは得策ではない」
「善人だがなんだか知らねえが、こっちで真っ先にやられるのは善人だ。覚えとけ」
「…そう、ですか…」
彼の抵抗は完全に押さえつけられた。確かに正論だ。正論なのだ。
それは、あの死体(阪井裕人)が何もできない木偶だった場合のみに限る。
しかし、彼は、あの塀の中を見た唯一の存在。
「でも俺は、俺ができることをしたいんです! ここで何もしないまま彼を放置することだけはしたくない!!」
なぜこんなにも、今日会ったばかりの一等兵に執着するのかは誰も理解できなかった。
その真意は彼にしかわからない。
「わかったよ、その代わり、あんたが生還したとしても作戦に参加させることはないでしょ。駐屯地で志場大尉とお留守番でもしていて」
12人は死体を拾い上げ、一気に撤退していく。そこにただひとり取り残されてしまった法寺理貴。
右手にマシンガンを構え、左手で右腕につけられた家宝である腕輪を撫でる。
大きくため息を吐くと、布切れを器用に頭に巻いた。軍帽とヘルメットは既に脱ぎ捨てられている。
「阪井さん、俺はあなたの『声』が聞きたいんです」
身を屈め、蜂の巣となった藁製のブロックを越え、法寺は阪井の元へ全力疾走した。




