2.出発地より
芹沢崇人と別れた青年兵、法寺理貴。
右手にマシンガン、左手は重力に従ってぷらんと下ろして歩いていた。
「法寺、お前、前線経験は?」
「二,三度ほど」
目の前に立つ男、志場魁皇大尉という上官の問いに応える。
「じゃあ、お前は作戦に当たり、前線中の前線、そこの美和くんの直属隊に一時的に加入してもらう」
志場の言葉の先に立つ女性、中井美和が笑顔でそこにいた。
白い肌で、鼻筋が通っていて、目は切れ長な美人だ。しかし、飲んだくれと言う噂だけが独り歩きし、少なくとも法寺の周りの評判は決して良くはなかった。
「よ、よろしくお願いします」
「おう」
男勝りなその口調に、少し気恥かしさも覚えた法寺だが、頭を下げているので表情は見えていない。
「作戦の内容を覚えているか?」
中井の言葉は先程自身が芹沢に言った言葉と同じだった。
「『抵抗者は容赦なく殺せ』ですよね」
芹沢と同じように答えた。しかし、異なるのは表情。氷のような冷たい視線で中井を見ていた。
「んー、いい面構えをしているわ。志場センパイ、ありがとうございます」
指でOKサインを作って笑顔になる中井。この表情を『いい面構え』と評するのは、差詰悪魔か彼女くらいだろう。
つまるところ、中井美和は悪魔のような女性ということだ。
「あたしは中井美和大尉補佐。 この激戦区殲滅作戦隊の筆頭を務める。こういう場では、志場さんの言うことが第一だが、戦場ではあたしの言うことを第一に行動してもらう」
権力を振りかざす上官といった感じも抱くが、彼女のポテンシャルの高さもうかがわせる。
今から、激戦区殲滅作戦第一部隊の21名が戦場へと足を運ぶ。
兵士になって早二年。法寺理貴はこの激戦区に派遣されてから幾度となく戦争を経験した。
二,三度の前線経験も積み、同期の中でもなかなか実力がある部類として見られていた彼だった。
戦績を得ていくにつれ、芹沢などの戦友も幾人か出来た上に、志場をはじめとする上官にも顔を覚えてもらえたのだ。
そんな彼には、一切他言していない、常人にはない特殊能力がある。
「あんた三年目? 将来に期待が持てるね」
荒野を踏み歩く軍靴の音。駐屯地は既に見えなくなり、激戦地帯はどんどん近づいている。中井美和は緊張をしている様子も見せない。
彼女の言う、『将来に期待が持てる』というのは、出世する、金持ちになる、戦場で活躍すると言ったことを確約された存在だという意味ではない。
横3縦7列で歩みを進めていく彼らが向かう先には命の奪いをしている現場がある。
将来に期待が持てるという本当の意味は、幾多の敵を殲滅し、自身の命を平定のために捧げられそうな存在だという意味であることを、薄々ではあるが、ひよっこながらに法寺は感づいていた。
「とりあえず、ここらの戦力7割削ぐまでは撤退禁止、自ら命を絶ってでもここを制覇するよ」
中井美和が後ろの20人に向かって叫ぶ。そこには部下しかいないから強気なのだろうか。
否、彼女は相手が上司だろうと自分が作戦部隊長を任されたら、こういう態度をとるに違いない。
激戦地帯は一歩々々近づいていた。もう、すぐそこに塀や堀が見えていた。
銃声が聞こえている。既に極秘の先遣隊でもいるのだろうか。
全員が低い体制を取り、物陰に身を隠す。
「阪井、見てこい」
「はっ!」
中井の指令で、法寺のすぐ後ろにいた阪井裕人一等兵が腰を上げた。
「既に先遣隊が戦闘している可能性がある。先遣隊の確認をしたら戻ってこい。敵に見つかった場合は赤い煙弾を上げろ」
戦地へと進んでいく阪井の背中に言うと、阪井は振り返って右手で敬礼し、踵を返して再び戦地へと向かっていった。
塀と塀のわずかな隙間を目指して進んでいく彼だったが、突如振り返り、右手を大きく煽って引き返してきた。
中井が思わず立ち上がる。何か大声を上げたのはわかったが、法寺は阪井の焦る姿に目を奪われていた。
死相が出ているかのようだった。
次の瞬間、無数の銃弾が彼の背後から向かってきていた。
コメントでご指摘を頂いたとおり、二三度→二、三度に修正しました。
ご指摘ありがとうございます。




