28.局面より
同盟国の西側で、領土の取引をしている間にも、南側では相変わらず激戦が繰り広げられていた。
敵兵は一度降伏しそうになっていたとは思えないほどの渋とさがあり、どうも攻略に時間がかかりそうな雰囲気ではあった。
その雰囲気を打ち砕こうと、ロケットランチャーを使い、敵援軍に攻撃した法寺理貴。
敵全体に隙ができたことで、自衛軍は一気に畳み掛ける好機を手に入れた。
そして、法寺は、後藤晴久伍長の遺体を安全なところまで運んできたところだった。
「ちっ…死んで尚被弾させてしまうとは…申し訳ないなあ…」
法寺は額の汗を拭いながら悔しそうに呟いた。
「ちょ、法寺二等兵卒、どうしてここに?」
話しかけてきたのは、春山三等兵卒。一応法寺と同年にアカデミーを卒業した男である。菅武明特等兵らと同じ部隊に配属され、たった今菅らと共に東側に逃げてきたところだったようだ。
「春山か。ちょうどいいところだ。 後藤さんの遺体、看ていてくれないか?」
「見ていろって、ふざけたこと言うなよ! ここだって安全ってわけじゃないんだぞ!」
「でも、第一線から退くことができたのは、この人のおかげだぞ」
「んなこと言ったって、上司とは言えど、死んだ人を見ているなんて余裕ねえよ」
春山と法寺の会話を黙って聞いている菅特等兵。
「菅さん、いいですよね?」
「構わんよ」
汗をびっしりと掻いていたこの男は、未だ右手に家族の写真を握っている。
まだ能力を使ったわけではない法寺も、なんとなく後藤の気持ちを理解したようだった。
凶音が響く。気づけば、法寺の放った小型ロケットランチャーによる爆風と爆煙は、もうヘリの周囲からは消えていた。
「あら…しぶといな…」
未だホバリングを続け、窓からマシンガンを撃ち込んでいた。
「法寺、行くのか?」
「ああ、当然だ。今こうやって話している間にも中井さんたちは戦ってる。俺達だって戦わなきゃ」
法寺はそう言って、後藤を菅らに預け、激戦地へと走っていった。
――もし仮に、ここで俺がヘリを撃ち落としたらどうなる…?
足を踏みとどめた法寺。
ロケットランチャーを構えた。
ここで打ち落とすつもりだ。
風は不思議と感じなかった。いや、だからこそ冊と塀の広がる北西側からの風に変わったということがわかる。
ならば無問題だ。自衛軍が戦闘している箇所に落下することはない。
「ぶっ殺してやる!!」
再びロケットランチャーをヘリへと打ち込んだ。一発目よりも近い距離から放った弾丸は、大きく弧を描き、ヘリへと向かっていく。
援軍のシンボルであるヘリを打ち落とせば、間違いなくこちらの士気は上がる。
勝利は近い。そう確信した法寺。目で必死に弾頭を追った。
―爆音…前方からではない。後ろからだ。
振り返る法寺に、過去を思い返させる断末魔が襲いかかる。
急激に熱風が彼を多そう。
―熱いッ!!
脳内が単純な言葉で埋め尽くされてしまう。思考の余裕も残されてはいない。
「痛ェ…痛ェ…」
焼け野原にいるかのような臭いが彼の鼻を襲った。
嫌いな火薬の臭いに何だか似ていた。
次々と聞こえる爆音は、聴力を奪うかのようだ。
周りに人間の姿は無い。あるのは、黒人形のように姿の見えない何か。
後ろにいたはずの、春山、通野、菅…彼らもそれと変わらぬ姿に変わり果てていた。
目を、鼻を、五感を疑った。
「ふざけんな…何が起きたんだよ…菅さんは…後藤さんは…ほかのみんなはどうなるんだよぉ…」
自分の意識すら危うい。腕の先が焼けるように熱く、皮膚は焦げていた。
――ユキ、カンベェ…崇人… 中井さん、志場さん…柴田さん…
朦朧とする意識の中で、尊敬する友人、上司の名前を脳内に巡らせる。
痛む全身に鞭打ってなんとか寝返りを打つ。
青空が見えた。
「ごめんな…カエデ…」
必死に伸ばした右手は、空色に霞んでいった。




