27.西より
「どうして…こんな寂れた南方の駐屯地に援軍がくるんだ…」
志場大尉は一歩後ろから首をかしげていた。
不気味な敵の戦略に、身震いする。
「あ、やっぱ大尉もそう思いますか?」
その隣で首の後ろで手を組んで座っている近藤悠太曹長。相馬少佐と共にこちらに来た男であった。
楽観的な彼の口調は今の雰囲気とはとてもあっているとは言えない。
「あ、タバコいります?」
ライターとタバコを取り出してこちらを向いた彼だったが、志場は右掌を見せて断る。
「大尉って禁煙家でしたっけ?」
「いや、今吸える気分じゃないだけだ」
少し不機嫌そうなのを察したのか、それ以降は黙っていた近藤曹長。
しかし、狼煙のような煙が数本上がったのを見てまた話しかけた。
「相馬少佐ってば上の人たちからの連絡ばかりとって俺たちに全く構ってくれないんですよ。ひどいですよね」
近藤は、話の核を隠しつつ、何かを伝えようとしていることをなんとなくではあるが察した。
「何が言いたい?」
「…いえ、せっかく大尉と話す機会なんですから色々話したいなあって」
胡散臭い笑顔だ。ハゲのくせに。
「おい、ハゲ。俺はそういうこと聞いてんじゃねえんだ」
「こええっすよ。俺はただこの状況に不満があるだけなんですよね。後ろから見ている状況といい、こんなところに援軍がくることといい」
ハゲのくせにしっかり考えていた。
志場は彼を見くびっていたことを恥じた。官位相当の思考はある模様だ。
近藤は何やかんやいいながらもタバコは吸っておらず、志場の隣で冷静に分析している。
「やっぱ、上の思惑が絡んでそうですね」
近藤がゆっくりと伸びをすると志場の表情を伺った。
「黒田曹長! 伊野梨香子伍長から連絡が来ております」
そう言って電報を受け取ったひとりの男が、『黒田曹長』という名の男の元へと向かう。
「ありがとうございます前島軍曹。内容を教えていただきたいのですが…」
「法寺理貴二等兵が、例の能力を周囲に暴露した模様です」
黒田曹長の側近、前島ドルン軍曹。ドルンという極東の島国に似合わない名前が付けられているのには理由がある。
彼は、この地に派遣されていた自衛軍の男と、現地の女性との間の子であり、ここで育ち自衛軍に入隊した男だ。
そのため、誰よりも現地になれており、現地語を扱う男だ。
「理貴がか…」
今現在黒田らは、国境近くのそこそこ頑丈な建物内部の会議室のようなところにいる。
彼らも、法寺らと同じ小国に派遣されている兵士であった。
しかし、彼らがいるのは、法寺らのいる南側ではなく、西側である。
ここでもかなりの激戦が展開されていた。
しかし、それが今、この場で終焉を迎えようとしていた。
「あ、ディーンさんですか」
「君がクロダかい?」
現れたひとりの男に対して深々と頭を下げた黒田曹長。
前島も同様に頭を下げている。
「君が終戦調停に掛け合ってくれるのはこちらとしても好都合だ」
「ええ、まあ。これ以上の戦闘の続行は互いにデメリットしかありませんから」
ディーンという敵国の重鎮と、黒田曹長が談笑しながら語り合う。
「では、この建物を含めた周囲の土地の支配権と引換に、あなた方の撤退を申したいのですが」
黒田が手を組みながらディーンの方を向いた。ディーンは頷く。
「話がわかる男だな。私はこの土地さえ手に入れば良いのでな」
話を終え、黒田とディーンは握手を交わす。
「ここでの話はどうか内密に」
「君の考えていることはわからんねえ…軍師さんよ」
ディーンの言葉を聞いて、黒田はにやりと笑っていた。




