26.戦地より
「おい、お前まさか…」
小型ロケットランチャーを担ぐ法寺理貴二等兵卒に、柴田恭則特等兵は恐る恐る訊く。
「こいつでヘリを打ち落とします。 今は北東の風…撃ち落としても南西へと流れていくのでこちらへの被害はほとんどありません」
法寺は高々と語る。
「しかし、ここからでは少し遠いよ、もう少し近づいてからにしたらどうだい?」
安岡は慎重だ。そう言って法寺に接近をすすめる。
「だが、あの戦火の近くに向かうのも危険だ。 流れ弾が飛んでくる可能性だってある」
「それに、ヘリの真下の林に、既に歩兵の援軍が到着している可能性だってあります。 多少撃ち外すリスクを負ってでも、ここから撃つのが安全です」
法寺はそう言って構えた。迷いはほとんどない。
弾を込め、トリガーを引く。
ここまでおよそ10数秒。葛藤など微塵もない。
ロケランの弾丸は、打ち上げ花火のような大きな音を立てながら、ゆっくりと弧を描く。
「何だあれは!」
敵軍の視線が、それに注がれた。
「いまですよ柴田さん! 敵に隙ができました!!」
法寺は叫ぶ。既に敵軍の元へと走り出している。
「おあッ! 待てッ!」
安岡二等兵卒は、法寺二等兵卒に対して畏怖の念を抱いていた。
行動の一つ一つに迷いが無さすぎる。かといって向う見ずというわけでも、リスクなどを全く考慮していないわけでもない。
―恐ろしい男だ…法寺理貴…
隙ができた者達は、法寺と柴田からの攻撃を受け、倒されていく。
「お前、まさか…これが狙いだったんじゃ…」
「そう簡単にヘリは撃ち落とせませんからね」
ロケランの弾丸は、ヘリの数m手前の林の中で爆発を起こす。
爆風に煽られる二機のヘリは、互いに距離を取り、少し南側へとずれていった。
「よしっ! ヘリが動けぬうちに畳み込むぞ!!」
中井が叫ぶ。
法寺と柴田の援護によって、敵を幾人か一気に倒したという事実は、自衛軍たちの士気を高めるのに、少し貢献したらしい。
手榴弾を投げ込む法寺。距離をとって敵軍が爆風に呑まれていくのを確認すると、別の方角へと銃弾を打ち込む。
前線慣れしている彼は、こういった集団の中での戦いに長けていた。もちろん、少年兵との戦いで見せた一騎打ちなるものも苦手ではなかったが。
敵軍の体制は崩れかけていた。状況すらまともにつかめてはいない。それでも攻めの手を緩めない自衛軍たち。
「どうなってやがる! ヘリはやられたのか!?」
戦いの最中で、倒れる後藤伍長の姿を見つけた法寺。
―後藤さんだ!!
敵を牽制しながら、後藤の元へと駆け寄る法寺。
彼の息がないことを確認する。
「畜生ッ…!」
法寺は死体を睨む。幾つもの銃創が、痛々しく後藤の身体に残っていた。
その傷の黒血色の血が早くも血餅となっており、皮膚は爛れ痛々しいピンク色となっていた。
「法寺! その死体を連れて退却しろ! 護衛は柴田と俺に任せろ!」
堂島曹長の叫び声がした。法寺は彼を見て頷き、後藤の死体を担ぐ。
嫌いな火薬の匂いと、血生臭さが鼻を刺す。それは、ひとりの人間だったものを抱えていたとは思えないほど、何だかとても軽く感じた。
「後藤さん…あなたの最期の言葉、聞かせてくださいよ…そして、その言葉、菅さんたちに届けなきゃッ!!」
法寺は、後藤を背負って菅らのいる東側へと走り出した。背後から聞こえてくる発砲音や爆発音が耳に入らないほどの全力疾走で。




