25.援護より
上空を見上げて絶望した法寺。
一瞬勝利を確信したのだから尚更だ。
「何で…援軍が…」
「援軍だ!!」「援軍が来たぞぉ!!」
下がりに下がっていた敵軍の士気が再び上がった。
これは、自衛軍たちにとって、思ってみない誤算だった。
―こんなボロボロの冊で作った駐屯地に、援軍を裂くほどの価値があったのか!!?
柴田は目を疑った。
降伏したはずの敵軍たちは、武器を再度掲げ、反抗にでた。
「まだ俺達は終わっちゃいねえ!! 勝ったァ!」
槍が、高見蓮華の頬を掠める。
「うっ!」
甲高い悲鳴に近い音。中井が反撃に出る。
「この野郎!」
「いきがるなよクソアマァ!!」
中井の片手剣を弾く敵兵。
「形勢逆転ッ!!」
敵兵は先程までの葬式のような雰囲気を完全に払拭していた。
―このままじゃやられるッ! そういえばッ!! 後藤さん…
法寺はこの戦況を見ながら、倒れる後藤晴久伍長の遺体を見つけた。
菅特等兵らを庇って銃弾を一気に浴びた代償を、全身に受けている。
臓器が飛び出している。見ていられない。
「柴田さん…後藤さんを…回収したいです!」
法寺は隣にいた柴田恭則に訴えかけた。
さすがの願いにも、柴田は口を縛ったままだ。
―バカ野郎…前線の中井さんらが命懸けで戦ってる中で、後藤さんの遺体を回収するためだけに敵軍の中に突っ込めるかっつの…
柴田はそう考えていたが、法寺の死体への異様なまでの執着と、彼の能力柄、目的の重さは理解していた。
「無理だ。でも、『今は』だ。 必ず俺が身体を張って回収してやる。お前はそこで待っててくれ」
「いえ、柴田さんはサポートしてくださるだけで構いません。俺が行きます」
法寺は、左手で、大切そうに右腕につけられた腕輪を触る。
「俺は…自分の力で確かめたいんです。その人が、何を思って、何を為そうとしたか。 後藤さんは、最期に何か叫んでいるように見えました。その言葉はなんだったのでしょうか」
法寺の言葉は、独り言のようにも聞こえた。しかし、それは何かを訴えかけていた。
誰かに―とかいうわけでもなく。
一歩、踏み出した。
「やめろ」
大きな声で、法寺を止めた柴田。
「いい加減に気づけ。お前は軍の一員だ。確かにお前のような能力を持つものはいない。でも、お前と同じ気持ちはみんな持ってる」
「確かにそうです…でも、これは俺のエゴなので…」
「エゴじゃねえ。お前の意志は、志場さんが認めてくれただろ」
援軍が加勢し、敵軍の勢力は増した。
圧倒的に優勢だった自衛軍も、今は押され気味だ。
ヘリからの射撃は、群衆を無差別に打ち抜くのに便利だ。
「くそっ! あそこで倒れてるのは後藤か!?」
堂島茂邦曹長が叫んだ。二次前線部隊も、今は敵軍と最前線で戦っている最中だった。
「はい! おそらく!!」
後藤を見ながらひとりの兵士が応える。堂島は一つ舌打ちをすると、マシンガンで敵を打ち抜いた。
―キリがねえぞ…中井さんらは大丈夫なのか…法寺くんも…
「おい、お前」
「あ、はい!」
柴田恭則特等兵に呼ばれ、ひとりの男、安岡幸次二等兵卒が返す。
「お前、後藤伍長を尊敬しているか?」
「…はい」
安岡は、引き返して敵軍に突っ込む後藤の後ろ姿を見ている。
「じゃあ、菅たちはそう思っていると思うか?」
そして、安岡は、柵内での指示が遅れた後藤の姿も知っている。
「そうは思いません…」
安岡はそう言ってうつむく。
「菅さんは、誰よりも生きたがっていた。春山くんも通野くんも…だから、彼ら三人は、後藤さんを『部下をも危険に共に巻き込もうとする上司』としか捉えてないと思います」
彼の言葉は、法寺の心にも棘となって刺さった。
「でも、最期に敵軍に突っ込んでいく勇姿を僕は見ました。その姿を見られただけで、後藤さんは…誰よりも…部下想いな人だったと…」
安岡の目には、不思議と涙が溜まっていた。
「行きましょう、俺たちも援護しに」
提案したのは法寺理貴。
「あんな戦地の真ん中にいたんじゃ、せっかく見せた勇姿を、俺たちにしか知らせないまま終わってしまいます。とっととこの戦い、終わらせましょう」
法寺理貴は、重たそうなロケットランチャーを担いだ。
片手で担げる分、小型で軽量だが、威力は少し劣る。
それでも、空中のヘリを打ち落とすには、十分な威力を発揮する。




