23.走る男より
―まだ間に合うはずだ…!
息を切らしながら柵の南側まで走る法寺。
柵の北側の後ろの方で待機していた彼にとって、南口は最も遠い箇所であった。
それでも走るペースを緩めない。
柵の西口を超えた。
数人の影を見つける。
「り、理貴くん!?」
そのうちのひとりは、同期の春野雪だった。彼女は法寺の影を捉えると、追ってくる。
―追ってくるんじゃねえッ! お前は後方だろ!!
「やめなさい春野くん」
走り出す春野雪を止めたのは、初老の男性の声。
「い、茨城さん…」
「彼のことだ。何も心配はいらんよ」
「…はい」
茨城白棘師団長の説得力ある言葉に、生返事を返す春野だったが、心の奥にはまだ腑に落ちていない部分があった。
数秒経って走ってくる柴田を見て、その不安はさらに募ったが、口には出さず、ぐっとこらえた。
「理貴くん…」
春野は止めたい気持ちをこらえた。
「待ってる人がいるのに無茶するなんて、信じられない…」
―後藤さん…もうちょっと待ってくださいよ…お願いですからッ!!
法寺の大腿筋が悲鳴をあげる。もう5、600mは短距離走のようなダッシュをしている。
常人なら筋肉が痙攣を起こしてしまうレベルだ。
それは柴田も同様だった。
―法寺! 早まるなァ!!
法寺はこれからの自衛軍の作戦方針を大きく変える存在だと思った柴田。
しかし、法寺は今、自ら命を戦場に投げ打って賭けようとしている。
これはなんとしてでも阻止しなければならなかった。
作戦遂行のため、軍の未来のため、この国や祖国のため、そして、自分のため。
また冷たい風が南から吹いてきた。
向かい風をも避けていくようなスピードに、自身の耳が、風切る音を感じ取る。
「うおおおお!!」
冊に沿って方向を変える法寺。南口までもうすぐだ。
―間に合ってくれッ!!
無酸素運動には限界がある。
酸欠状態に近い彼の身体は視界を暗く沈ませる。
赤紫色の残像がぼやめいてくる。
なぜ自分がこんなに必死に走っているのか。という思考の余裕もなかった。
ただ、こんなときでも聞こえてくる音は、いつも決まって鮮明な、銃声の音だけだったのだ。




