19.代替案より
志場大尉は、堂島曹長の意外すぎる言葉に思わず黙ってしまった。
まさか、自分の作戦をここで晒すことになろうとは、と考えている。
「そうか、それなら志場大尉、作戦を頼む」
志場は思わぬ提案に、頭の中を整理した。
―俺は堂島には一言も作戦について言ってないはず。中井くんが言うとも思えん… まさか、彼なりのハッタリ!?
昨晩法寺の能力を知ってから確かに作戦を練っていた。
それは紛れもない事実だ。
しかし、それは法寺が能力を周りに晒し、それを実証し、周囲が納得し、信用してからやっと成り立つものだ。
こんなところで高々と述べたところで笑われるのがオチだろう。
そんなとき、法寺と、その後ろに立つ春野雪と目があった。
彼らは、亡くなった芹沢崇人の同期だったはず…
「わかりました」
志場は決心した。
「その前に…法寺理貴くん、ちょっと前へ」
志場魁皇大尉は、法寺理貴二等兵卒を呼び出した。
法寺は生返事で応えると、志場の元へと向かう。
「実はだ…みんなに言わなければならないことがある」
前にたつ志場大尉の声に、全員が目を注ぐ。
「ここに立つ法寺二等兵卒は…目を、耳を、五感の全てを疑うような異能を持っている!」
「!?」
法寺は驚愕した。法寺だけでない。春野も、中井も、そして『異能』などという聞きなれないワードを聞いた者たちもだ。
「法寺理貴二等兵卒は、死体に触れることで死者と対話する能力を持っている」
志場大尉の言葉に、一瞬現実と解離したような感覚が全兵士を襲った。
「これまでの、第三南地域防衛戦、南東激戦区域制圧戦、そして、今回の第四南地域防衛戦の前線に立ち、前線で散った戦友たちの発することのできなかった最期の言葉を聞いてきたようだ」
この言葉に、ひとりの兵士が声を挙げた。
「そ、それなら、南東制圧戦で死んだ俺の先輩の死に際も知ってるってことか!?」
彼の揺るぎない眼光が、法寺をじっと捉えていた。
法寺は大きく頷いた。
「ほとんどの兵士の死に際は見てきました。その際には、絶対に伝えなければいけなかったであろうメッセージもあったのかもしれないです」
彼の言葉に、先程声を挙げた兵士の表情に、少し希望が見える。
「でも、俺は、この能力の存在意義を軽んじていました。故に、この能力について他言することに、あまり積極的ではなかったのですが、この度、親友芹沢の死を期に、この能力を戦地でもっと活躍させる必要があると感じたのです」
「待て、実証もできてねえ能力のことだらだら喋られても困るんじゃボケ」
とある少尉の声だ。
「実証済みだ」
その少尉の声に返したのは、中井美和大尉補佐。
「私や志場大尉でも知らなかった先遣隊の存在を知る方法は二つ、中を見たものから尋くか、敵から尋くか。そのどちらも、私たちには不可能だ」
「しかし、彼にはできる。彼は捕えた少年兵の死後、この能力を使用し、今後の作戦に役立つであろう情報を大量に入手したのだ」
中井の言葉には、芯があり、不思議と説得力を生んでいた。
茨城白棘師団長を彷彿とさせる落ち着きっぷりに、志場も安心した様子で彼女を見ていた。
「これらのことから、今後の彼の利用価値を考慮し、激戦区への爆弾投下作戦を却下し、『囮作戦』を決行したい」
見張りは全て少年兵。いずれもが、『訪れた兵士ひとりも逃すな』という命令を受けている。
この作戦は、それを利用するのだ。
「まずは、重装備の兵士数名が冊の回りで待機。少年兵に気づかれたら装備で攻撃を防ぎつつ、距離をとって逃げていただき、そのあいだに、離れた箇所から別の部隊が襲撃及び柵内への突入を行います」
法寺の口から作戦の概要が語られた。志場、中井ら上官が肯定的であるがゆえに、多くの兵士がその作戦の決行に賛同した。
「では作戦部隊の構成に移ろう。 正午過ぎには出動だ!」
志場大尉の言葉に、士気の高まった兵士たちは大声を上げた。
法寺は、確かに気分が高揚していた。未だに胸の鼓動が聞こえる。
―俺の能力が、こんなに大勢に受け入れられているッ…少佐にも…
志場もまた、同じく高揚していた。
―俺の作戦を、みんなは受け入れてくれたか…よし
志場は、昨晩と同じような不敵な笑みを浮かべた。




