17.告白より
夕陽が西側の山へと沈む。海の向こうの故郷とは反対側に沈んでいく太陽に、一抹の寂しさを覚える法寺。
駐屯地のテントの上官が寝泊りするテントに足を運んだ。
「中井尉官補佐、お話があります」
これまでとは違い、芯の通った声がテントの中まで通る。
「ん? どうした?」
中井美和は、片手に缶ビール、もう片手でテントの入口を開き、顔を覗かせていた。
まだ封は切っておらず、幸い酔ってもいないようだ。
「実は、俺の話なんですが…」
「まあ長くなるだろうし、中入れ。 お前20超えてたっけ?」
「え、あ、まあ21ですけど…」
中で一緒に飲ませる気だ。そう思った法寺は思わず苦笑いをしたが、男並みに強い力に押し切られ、恐る恐る中に入るハメになる。
酔いそうになる雰囲気を堪えながら、法寺は自身の能力についてのすべてを話した。
中井は予想に反して、話を始めた途端に缶ビールから手を話して黙って彼の話の一部始終を聞いていたのだった。
「そっか、思ったより真剣な話でびびったよ」
中井美和は眉を潜めて、両手を組む。
「そして、あんたは、この能力を、今後どうしていくつもりなの?」
「戦場での…戦略に、役立てたいです。そして、理不尽に取り残されたご遺族の方々に…戦友たちの最期の言葉を届けてあげたいんです」
法寺の揺るぎない瞳は、中井の瞳の奥側を覗き込む。
それはまるで、未来を見据えているかのようだった。
その日の夜、月は半月にも満たない程度の大きさだが、それでも周囲に何もないこの地の夜空には映えており、星が瞬く。
「志場大尉、先程、法寺理貴からすごいこと聞いちゃったんですよね」
中井美和は法寺といた頃とは少し様子が異なった。顔は赤く、意識は朧だ。
つまるところ、酔っている。
「なんせ、死者と話す能力持ってるらしいですわ…うん、別に他言しちゃいけないって言われてないから大丈夫ですよ」
「あ、おう…」
中井の紅潮した頬が、高揚する気分を体現していた。
「私気づいたんですよ、彼を利用すれば、この地での戦い、かなりうまくいくんじゃないかなって」
志場大尉は表情を変えた。
中井の表情も、先程までの朧なものとは異なっていた。
「そうか、では、彼を軸にした作戦隊を作らなければならないな」
志場はテントのライトを消し、中井と別れを告げる。
闇夜にまぎれた表情は、確かに、不敵な笑みを浮かべていた。
―翌朝。
法寺理貴は目覚めた。テントからうっすらと入ってくる灯りに目を細め、身体を包んでいたタオルケットを引き剥がし起き上がる。
「おい、崇人起きろ」
そう言って左手で眠い目をこすりながら右手を隣に伸ばすが、そこに親友芹沢の姿は無かった。
空虚な目覚めだった。
数分後、鐘がなる。
朝の全作戦部隊による集会の合図だ。
上着を早急に拾い上げ、テントを走って出ていく。
「諸君、敬礼!」
ひとりの少尉が声を上げた。目の前に立つ志場魁皇大尉よりも少し早くに敬礼をする全兵士。
「諸君、おはよう。 昨日の二つの作戦、ご苦労だった」
志場大尉が口を開き、話を始めた。
「早速今日執行する作戦について指示したいところだが、本日は早朝から来客者がいらっしゃるので、その方の仰せ言をまず」
そう言って志場大尉は左を向き、とある三人の方に目を向けた。
「諸君、敬礼!」
またも先程の少尉の声が響く。法寺も周囲に合わせて敬礼する。目先に立つのは、見慣れた姿の男と、右隣のハゲた男、そして左隣の女性。
何を隠そう、真ん中の男は少佐だ。佐官の立ち姿など、リアルタイムではなかなか見れない法寺は思わず目を見開いた。
「相馬淳矩少佐、近藤悠太曹長、伊野梨香子伍長の三人に、我々の今日の作戦方針を説明していただきます」
どうやらこの三人は、志場大尉率いる作戦部隊のいる激戦区から遠く離れた安全地帯―いわゆる中央司令部から派遣されてきたらしい。
とは言ってもここは法寺らの国の同盟国。彼らも戦地に派遣された存在という点では、ここにいる人たちとなんら変わりない。相馬淳矩少佐は、咳払い一つして口を開いた。
「とある作戦を決行したい。そして、この作戦で激戦区での戦闘を終わらせる」




