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DIE A LOG  作者: さまー
1章 ~Voice From The Frontline~
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16.芹沢崇人より

「阪井裕人さんって知ってるか?」

「一等兵の?」

落ち着いたところで、法寺は春野に話しかけた。

「あの人さ。めちゃくちゃ中井さんに従順でさ。とにかく真面目で堅実な人だったんだよ。なんで死んだと思う? 目の前に立つ敵がまだ幼い子供だったから撃てなかったんだってさ」

阪井一等兵の死の真相を聞かされた春野は黙って聞いていた。

「その幼い子供は、実は俺を襲った少年兵二人で、ジョンとトロイって言うんだけどさ。そのふたりは、味方に口封じのために殺されたんだ」

「…」

「ジョンにはさ、病気の母と幼い妹がいるんだ。そいつが一度中井さんらに殺されそうになったとき、トロイが庇ったんだ」


二人の少年兵の話を、春野に語り始めた法寺。

トロイとジョンは8歳の頃から少年兵として働き始め、家族を半分人質に取られた状態で労働をさせられていた。

貧しい家庭だったふたりは、満足に生活もできなかったが、兵士をすることで、賃金が手に入るということで頑張っていた。

そんな二人にはある制約があった。

『敵を取り逃がしたら処罰』というものだった。

そして、取り逃がしたのが、法寺理貴。彼だった。


ひとりで駐屯地に戻る法寺を襲撃したが、結果的に捕らえられる形となってしまった二人。

絶体絶命の状況の中で、自分たちを助ける方向に話を持っていこうとした芹沢が、二人にとっての英雄に見えたらしい。

ところが、味方に見つかってしまい、口封じのため、処罰のために撃たれるトロイ。

運良く銃弾を逃れたジョンだったが、死にゆく友を見殺しにしようとする法寺らに怒りを覚え、唯一の英雄だった芹沢も、上司には逆らえず、トロイの救出は困難と見られた。


「そのときさ、ジョンはこう思ってたんだ。ここまで戦ってきた友人が殺されたのだから、仇討ちをしようって…」

法寺はそのことを話すと、春野の方を見て笑った。

「友達を思う気持ちは、少年兵だろうと、なんだろうと、子供であり、ひとりの人間であるのには変わりねえんだなあって思うんだ」


結局、ジョンは仇討ちに失敗し、それを助けに行った芹沢も死亡した。

「俺もさ、できれば仇討ちしたかったんだ。でもさ、怖くてそれができなかったんだ。今の俺を責める罪悪感って…これが原因なんじゃないかなって思うんだよ」

「…そうだよね…、その場で友達が殺されて、何もできないってのは悔しいよね」

春野は重たく口を開いた。

法寺は尚も続ける。

「10歳のガキでもできたことが、俺にはできなかったんだ。しかもさ、そのことを芹沢は一切死んだあとも責めないんだわ…」


「畜生だぜ…ああ、俺ってホントに何がしたいんだろ…こんな能力持ってても、何の意味もねえのかな…」

女々しさが前面に現れていた。法寺はやるせなさに呆れ、絶望していた。

「…説明してあげようよ」

絶望の淵に立たされた法寺に伸びる一本の手。

「私は少し救われた。理貴くんは前線と私たちを繋ぐ伝達係であり救世主よ」

救世主の登場だった。春野雪が今、必死に法寺をその奈落の底すら見えない、永遠の下り坂から引っ張りあげようとしているのだ。


「確かに仲間を失った悲しみは消えない。でも、理貴くんの力のおかげで私は、少し救われた。芹沢くんも阪井さんもそれぞれ誰かの役にたとうとしているってわかったから…」

役に立とうとしている人物の命は決して無駄にはならない―と言っているかのようだった。

「理貴くん、その能力のこと、みんなに伝えよう。それで救われる人がたくさんいると思うの。 前線からの届かない声を、みんなに届かせてあげなきゃダメなんだよ!」

法寺の死んだ目に、精気が戻る。

「生きがいを失っているのなら、私は、そのことを生きがいにしてほしい。それでさ、戦争で理不尽に死んでく人たちの思いを、この理不尽な社会を変える原動力にしていこうよ!」


行き先が照らされた。暗く閉ざされた上り坂の頂上は、今、春野雪という同期の少女によって照らされている。

木陰から身を乗り出す法寺。

「わかった。俺は『最前線からの声』を届ける」

陽光が、やたら久しく、そして眩しく感じた。

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