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第3話 数字を操作する能力


 白い空間。

 三浦悠斗は、目の前に立つ女神を見つめていた。

「それでは、あなたの能力を決めましょう」


「はい!」


 悠斗は期待に胸を膨らませていた。

 ここまでの説明によれば、自分はこれから異世界へ転移するらしい。


 しかも――。

「SSR以上、確定なんですよね?」


「ええ」


「URとか、LRとかもある?」


「ございます」


「マジか……!」


 悠斗は拳を握った。

 そして始まったガチャ。

 光が渦巻き、カードが一枚ずつ現れていく。


 R。

 R。

 SR。


「……」


 悠斗の顔が少し曇る。

 そして最後の一枚。

 眩い光が弾けた。


「UR……!」


 悠斗は目を見開いた。

「うおおおおお!」


 女神は穏やかに微笑む。

「おめでとうございます」


「URって、かなり上ですよね!?」


「はい。非常に珍しい能力です」


「どんな能力なんですか?」


 女神がカードを差し出す。

 そこに記されていた能力名は――。


UR『数字を操作する能力』


「…………」


 悠斗は数秒、黙った。

「……数字?」


「はい」


「数字を増やせる?」


「その通りです」


「それだけ?」


「それだけです」


 悠斗はカードを眺めた。

「……微妙じゃないですか?」


 女神は首を傾げる。

「そう思われますか?」


「だって数字ですよ?」


 剣が強くなるわけでもない。

 魔法が使えるわけでもない。

 時間を止めたり、空を飛んだりするわけでもない。

「せっかくURなのに……」


「ですが」


 女神が静かに続ける。

「数字には、様々なものがありますから」


「……?」


 悠斗は少し考えた。


 そして。

「あ」


 何かに気づいたように顔を上げる。

「能力値とか?」


「可能です」


「お金とか?」


「可能です」


「経験値とか?」


「可能です」


「……好感度とか?」


「可能です」


「…………」


 悠斗の目が変わった。

「マジで?」


「はい」


「好感度、増やせるんですか?」


「数字として表示されているものであれば」


 女神は笑顔のまま答えた。

「増やせます」


「…………」


 悠斗は拳を握った。

「これ、当たりじゃん」


「そうですね」


「UR、めちゃくちゃ当たりじゃん!」

 悠斗の顔に笑みが広がる。


「異世界でハーレム作れるじゃん!」


「どうでしょうね」


 女神は穏やかに微笑んだ。

「それは、あなた次第です」


「よっしゃあ!」


 悠斗は勢いよく拳を突き上げた。

「行ってきます!」


「ええ」


 女神は静かに頷いた。

「どうぞ、楽しんできてください」



     ◆



 次に悠斗が目を開けたとき。

「……ここは?」


 目の前に、大きな校舎があった。


 校門。

 桜並木。

 行き交う生徒たち。

 そして、悠斗と同じ制服を着た少女。


「あの……」


 少女が声をかけてくる。

「あなた、転校生?」


「え?」


「今日から同じクラスだよね?」


「あ、ああ!」


 悠斗は少女を見た。


 長い髪。

 整った顔立ち。

 そして、少し恥ずかしそうな笑顔。

「私、春香。よろしくね」


「よろしく!」


 悠斗は即答した。

 そして――。


 視界の端に、数字が浮かび上がった。

春香

好感度:12


「…………」


 悠斗は固まった。

「どうしたの?」


「いや……」


 悠斗は数字を見つめる。

「……見える」


「何が?」


「いや、なんでもない」


 悠斗は笑った。

 そして、指を動かす。


12 → 100


「…………」


 数字が変わった。

「できた……」


「え?」


「いや、なんでもない!」


 悠斗は思わず笑みを浮かべる。


 これだ。

 この世界。

 どう考えても――。


「ギャルゲーじゃん……!」


「何それ?」


「こっちの話!」


 悠斗は笑った。

 そして、その日の放課後。

「ねえ、悠斗くん」


「ん?」


「よかったら……一緒に帰らない?」


「え?」


「なんとなく、悠斗くんと話したいなって」


「…………」


 悠斗は心の中で叫んだ。


 来た。

 来たぞ。

 異世界転移。

 URチート。

 美少女。


「俺、勝ち組じゃん……!」



     ◆



 それから数日。

 悠斗は、数字の力を試し続けた。


美咲

好感度:18 → 100


玲奈

好感度:21 → 100


由紀

好感度:15 → 100


「……すげえ」

 数字は、悠斗の思い通りに増えていった。


 さらに。

テスト成績:72 → 100


「よし」


 次は――。

運動能力:64 → 100


「これもいける」


 そして。

所持金:3240 → 1000000


「…………」


 悠斗は画面を見つめた。

「俺、金持ちじゃん」


 さらに。


幸運:58 → 999

「…………」


 悠斗は笑った。

「何でもありじゃん」


 放課後の教室。

 悠斗はステータス画面を眺めていた。


春香 100

美咲 100

玲奈 100

由紀 100


 誰もが自分に好意を持っている。

 誰もが優しく接してくれる。

 学校生活も楽しい。


 昼休みには女の子たちと弁当を食べ。

 放課後には一緒に帰り。

 休日には遊びに誘われる。


「……最高じゃん」


 悠斗は笑った。

「俺の異世界生活、始まったわ」


 そのとき。

「悠斗くん」


 春香が声をかけてきた。

「今度の日曜日、空いてる?」


「もちろん!」


「じゃあ、一緒に――」


「うんうん」


 悠斗は頷く。

 頭の中では、すでに次の予定を考えていた。


 もっと好感度を上げる。

 もっと金を増やす。

 もっと能力値を上げる。


 そして――。


「最終的には、全部カンストさせるか」


 悠斗は楽しそうに笑った。

「好感度も、能力値も、金も……」


 少し考えて。

「999999くらいまで」


 悠斗は一人で笑った。

 この世界で、自分にできないことなどない。


 ――そう思っていた。






それから一週間。

 三浦悠斗は、すっかりこの世界での生活に慣れていた。

「悠斗くん、おはよう!」


「おはよう、春香」


 教室に入れば、春香が笑顔で迎えてくれる。

「今日のお昼、一緒に食べようよ」


「もちろん」


 その隣では、美咲も手を振っている。

「悠斗、放課後は暇?」


「暇だよ」


「じゃあ、一緒に帰ろうよ」


「いいね」


 少し離れたところでは、玲奈と由紀もこちらを見ている。

 悠斗は笑った。


「……順調だ」



     ◆



 昼休み。

 悠斗は一人で教室を出ると、ステータス画面を開いた。


学力:100

運動能力:100

人気:87

幸運:999

所持金:1,000,000


「うん」


 悠斗は満足そうに頷いた。

「いい感じだな」


 そして、まだ上げていない数字を探す。

「人気……」


 悠斗は指を動かす。

人気:87 → 999


「よし」


 次。

幸運:999 → 99999


「これも」


 さらに。

魅力:72 → 99999


「……完璧」


 悠斗は画面を眺めながら笑った。

「俺、この世界で無敵じゃね?」


 そのとき。

「悠斗くん?」


 後ろから声がした。

「うわっ!」


 振り返ると、春香が立っていた。

「何してるの?」


「いや、ちょっとステータスを……」


「ステータス?」


「こっちの話!」


 悠斗は慌てて画面を閉じた。

 春香は不思議そうに首を傾げたが、すぐに笑った。

「じゃあ、お昼一緒に食べよう?」


「おう!」


 悠斗は春香についていった。



     ◆



 午後。

 体育の授業。

「次、三浦!」


「はい!」


 悠斗はグラウンドに立った。

「百メートル走だ」


 スタートの合図。

 悠斗が走る。

「速っ!」


「三浦、速すぎだろ!」


 悠斗は一位だった。


「…………」


 悠斗は記録を見る。

100m走:12.8秒


「……」


 悠斗はニヤリと笑った。

 そして、数字を操作する。

12.8秒 → 9.8秒


「…………」


 記録が書き換わった。

「世界記録とかも、いけるのかな」


 悠斗は小さく呟いた。



     ◆



 放課後。

 悠斗は一人、教室で考えていた。

「数字を増やせる能力……」


 最初は、ただのハーレム能力だと思っていた。


 だが違う。

 これは――。

「この世界そのものを、数字でいじれる能力なんじゃないか?」


 好感度。

 お金。

 能力値。

 人気。

 幸運。

 記録。

 経験値。

 レベル。


「数字で表示されているものなら、全部……」


 悠斗は笑った。

「俺、もしかして神様よりすごいんじゃね?」



     ◆



 その日の夜。

 悠斗は自宅のベッドに寝転びながら、ステータス画面を眺めていた。


春香 好感度:100

美咲 好感度:100

玲奈 好感度:100

由紀 好感度:100


「……」


 悠斗は少し考えた。

「100じゃ足りないよな」


 指を動かす。

春香 100 → 999999


「よし」

美咲 100 → 999999


「次」

玲奈 100 → 999999


「あと一人」

由紀 100 → 999999


 画面を眺める。


「完璧」


 悠斗は満足そうに笑った。

「これなら、誰を選んでも俺のこと好きだろ」


 しかし。

 少し考える。


「……いや」


 悠斗はニヤリと笑った。

「誰か一人を選ぶ必要もないか」


 全員から好かれている。

 全員と仲良くできる。

 誰も自分を嫌わない。


「ハーレム……」


 悠斗は天井を見上げた。

「最高じゃん」


 そして、もう一度ステータス画面を見る。

 まだ数字は残っている。

 まだ上げられる。


 もっと。

 もっと。


「…………」


 悠斗は指を伸ばした。

 その瞬間。

 画面が止まった。


「……ん?」


 数字が消える。

 代わりに。

 画面の中央に、白い文字が浮かび上がった。




【警告】




「……え?」


 悠斗の顔から笑みが消える。

 その下に、さらに文字が表示された。




不正な数値操作を検出しました。




「…………」


 悠斗は画面を見つめる。

 さらに一行。




ゲーム内の整合性を維持するため、処理を開始します。




「処理……?」


 悠斗が呟く。

 しかし、それ以上の説明は表示されなかった。


 ただ。

 最後に一行だけ。




しばらくお待ちください。




「…………」


 悠斗は画面を見つめたまま、動かなかった。

 やがて。

「……まあ、いいか」


 悠斗はベッドに倒れ込んだ。

「明日になれば、直ってるだろ」


 そう呟いて。

 目を閉じた。


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