第2話 時を操る者
目を覚ますと、そこは真っ白な空間だった。
「……ここ、どこだ?」
青年、水野蓮は辺りを見回した。
壁もない。
床もない。
天井もない。
ただ、どこまでも白い。
「お目覚めになりましたか」
「うおっ!?」
振り返る。
そこに立っていたのは、長い金髪の女だった。
白い衣。
大きな翼。
「女神……?」
「はい。私は女神です」
「やっぱり!」
蓮は目を輝かせた。
「もしかして、異世界転移!?」
「ええ。そのようなものだと思っていただいて構いません」
「マジか!」
蓮は拳を握った。
「じゃあ、俺もチート能力とか貰えるのか!?」
「もちろんです」
女神が手をかざす。
すると、目の前に巨大な画面が現れた。
そこには、一台のガチャが描かれている。
「……ガチャ?」
「はい。一度だけ、こちらを回してください」
「一回だけ?」
「ただし、SSR以上が確定しています」
「SSR以上!?」
蓮の目が輝く。
「URとかLRもあるのか!?」
「ございます」
「よっしゃあああ!」
蓮は迷わずレバーを握った。
「こういうの、一回だけって言われたら、やるしかないだろ!」
「そうですね」
女神は微笑んだ。
「では、どうぞ」
「いくぜ!」
ガチャガチャガチャガチャッ!
画面が激しく明滅する。
SSR。
UR。
そして――
SSR。
「……ん?」
蓮が首を傾げた。
画面には、金色の文字が浮かんでいる。
――SSR。
「お、おお……!」
蓮は少しだけ落ち着きを取り戻した。
「まあ、SSRでも十分だよな!」
「ええ」
「で、能力は?」
「こちらです」
画面に文字が表示された。
『時を操る能力』
「…………」
蓮は固まった。
「…………は?」
「時を操る能力です」
「いやいやいや!」
蓮は画面を指差した。
「これ、SSRでいいの!?」
「はい」
「時間だぞ!?」
「はい」
「時間を止めたり、戻したりできるんだろ!?」
「そのようなことも可能です」
「強すぎない!?」
蓮の顔が一気に明るくなる。
「これ、実質最強じゃん!」
「そうかもしれませんね」
女神は穏やかに微笑んだ。
「では、転移先の世界の説明をします」
「おう!」
「あなたが向かう世界には、世界を裏から支配している者がいます」
「……世界を?」
「はい」
女神は淡々と続ける。
「その者は闇の力を操り、多くの人々を苦しめています」
「なるほど……」
蓮の表情が引き締まった。
「そいつを倒せってことだな?」
「ええ」
「任せろ!」
蓮は拳を握った。
「時間を止められるんだ。そんな奴、楽勝だろ!」
「そうですね」
女神は微笑んだ。
「きっと、そうなるでしょう」
「よし!」
蓮の身体が白い光に包まれていく。
「行ってくる!」
「はい」
「世界を救ってくるからな!」
「お気をつけて」
光が強くなる。
蓮の姿が消えていく。
「…………」
白い空間に静寂が戻る。
女神は、しばらく何もない場所を眺めていた。
そして――
「さて」
小さく呟く。
「どうなるでしょうね」
◆
「うおおおおおお!」
蓮の声が響き渡った。
「異世界だぁぁぁ!」
目の前には、巨大な街。
そして――
「なんだ……?」
街の中央に、大きなスタジアムがある。
そこから聞こえてくるのは、大勢の人々の歓声だった。
「いけえええええ!」
「回れえええええ!」
「ぶっ飛ばせえええええ!」
「…………」
蓮は呆然とした。
「……なんだ、これ?」
スタジアムの中では、二人の少年が向かい合っていた。
その手には、奇妙な道具。
そして中央には――
一つの円形の台。
「まさか……」
蓮は目を凝らした。
少年の一人が叫ぶ。
「いけっ!」
次の瞬間。
金属音を響かせながら、二つのコマが猛烈な勢いで回り始めた。
「うおおおおおお!」
「負けるなぁぁぁ!」
「…………」
蓮はしばらく黙っていた。
「……これが、世界を裏から支配してる奴の力なのか?」
その問いに答えるように。
観客席から、ひときわ大きな歓声が上がった。
「ダークブレーダーだぁぁぁ!」
「来たぞぉぉぉ!」
蓮はゆっくりと拳を握った。
「……なるほど」
時間を操る能力。
世界を裏から支配する存在。
そして――謎のコマ。
「面白えじゃねえか!」
水野蓮は、スタジアムの入口に立っていた。
「……ブレードバトル?」
「はい!」
受付の少女が笑顔で答える。
「この世界では、とても人気のある競技ですよ!」
「競技……」
蓮はスタジアムを見渡した。
観客席は満員。
実況席まである。
「なるほどな……」
蓮は頷いた。
「こいつを極めた奴が、世界を裏から支配してるってことか」
「はい?」
「いや、こっちの話だ」
◆
数日後。
「いけえええええ!」
「回せえええええ!」
蓮はブレードを構えていた。
「始め!」
合図と同時に、二つのブレードが弾き出される。
高速で回転し、激しくぶつかり合う。
「うおおおおお!」
蓮は叫んだ。
だが――
「遅い」
蓮が指を鳴らす。
世界が止まった。
観客も。
実況も。
相手のブレードも。
すべてが静止する。
「……」
蓮は歩き出した。
止まったブレードを眺める。
「これ、どうすればいいんだ?」
少し考える。
「まあ、いいか」
蓮は専用ランチャーを手に取った。
「これ、もっと回転力を上げられるよな」
――シュッ!
一度引く。
――シュッ!
もう一度。
――シュッ!
さらに引く。
――シュッ!
まだ引く。
――シュッ!
まだまだ引く。
蓮は無言でランチャーを何度も引き続けた。
「……よし」
そして――
「再開」
時間が動き出す。
ガキィン!
「うわあああああ!」
相手のブレードが吹き飛んだ。
「勝者、水野蓮選手!」
「…………」
蓮は拳を握った。
「よっしゃあああ!」
◆
地区大会。
水野蓮、勝利。
県大会。
水野蓮、勝利。
全国大会。
水野蓮、勝利。
「すげえ……!」
「何者なんだ、あいつ!」
「一度も負けてないぞ!」
蓮は次々と勝ち上がっていった。
相手がどれだけ強くても。
どんな特殊なブレードを使っても。
時間を止めてしまえば関係ない。
「次は世界大会だ!」
「おおおおお!」
会場が沸き上がる。
蓮も拳を突き上げた。
「世界一になってやるぜ!」
◆
そして――
世界大会決勝。
蓮の前に、一人の男が立っていた。
黒い服。
手にしているブレードも、禍々しい黒。
「俺がダークブレーダーだ」
「お前が……!」
蓮は身構えた。
「世界を裏から支配してる奴だな!」
「そうだ」
男は不敵に笑った。
「このブレードで、すべてを闇に染めてやる」
「そうはいくか!」
蓮はブレードを構える。
「俺の時間操作能力で、お前を倒す!」
「来い!」
「いけえええええ!」
二人のブレードが放たれる。
激突。
火花が散る。
「ここだ!」
蓮が能力を発動する。
世界が止まった。
蓮は歩く。
相手のブレードを見る。
位置を確認する。
そして、自分のブレードを少しだけ動かす。
「よし」
時間を戻す。
ガキィィィン!
黒いブレードが弾き飛ばされた。
「なにぃ!?」
「俺の勝ちだ!」
蓮は拳を突き上げた。
「うおおおおおお!」
観客席が爆発するような歓声に包まれる。
「世界一だ!」
「最強のブレーダーだ!」
「新たな英雄の誕生だ!」
「…………」
蓮は拳を上げたまま、しばらく黙っていた。
そして。
「……あれ?」
ふと、我に返る。
「俺、いったいなにやってんだろう……」
世界を救うために来たはずだった。
闇の力を操る者を倒すために来たはずだった。
それなのに。
今やっているのは――
「コマ回し……」
蓮は呟いた。
観客席からは、今も歓声が響いている。
「世界一だ!」
「新チャンピオンだ!」
「おめでとう!」
「…………」
蓮は頭を抱えた。
「俺のSSR……」
時間を操る能力。
世界を止めるほどの力。
それを使って。
「コマ回し……」
◆
白い空間。
女神は一人、巨大な画面を眺めていた。
そこには、世界大会で優勝した水野蓮の姿が映っている。
「…………」
女神は静かに画面を閉じた。
「SSR……」
そして、少しだけ微笑む。
「見事な使い方でしたね」
女神は次の画面を開いた。
そこには、新たな日本人の姿が映し出されている。
「さて」
女神は穏やかに微笑んだ。
「次は、どんな能力になるでしょうね」
【転移者記録 No.002】
氏名:水野 蓮
能力:SSR「時を操る能力」
判定:適性あり
転移先:ブレードバトル世界
結果:生存
戦績:ブレードバトル世界大会 優勝
備考:時間操作能力を用いて、世界大会を制覇。
女神コメント
「SSRの力を、最後まで正しく使いこなしていましたね」




