22 天から来たる海賊『天柱雲から落ちた水滴、帝国基地に風穴を開ける!!』
アネニス合衆国議会 軍事予算特別委員会 第三分科会 非公開審議
速記録 AE1253年11月14日 於:議事堂地下第五会議室
※本文書は委員会規則第7条に基づきAE1353年まで機密指定。
委員長 バーネット
○ 開会する。本日の議題は浮揚機関研究計画、通称ゼニス・マニュフェストの進捗と予算追加の可否だ。まず現状の問題点の報告を。
技術局長 ハリス
○ はい。現在確認されている問題点は大きく二つです。第一に量の問題。我々がヴァルデンから非公式ルートで入手したレンガ―――天空要塞に用いられている物とは特性の違いがあることから、こちらの技術者はKVariteと呼んでいますが、その保有量は0.5ヤーノにすぎません。グレンデル規模の機体を製造するには実験機を含めて最低でも3倍は必要となります。
委員 トプソン
○ 追加調達はできないのか。そいつを横流ししたというヴァルデンの協力者のルートはどうなっているのか。
委員長 バーネット
○その件に関しては不可能と伝えておく。入手ルートは閉ざされた。
委員 トプソン
○それは情報部の失態だろう。そもそもノウストラルの件からして、彼らはヴァルデンに一杯食わされ続けている。宝石箱だけ掴まされて浮かれているうちに本当に価値ある宝石は別ルートで運ばれていたんだ。現状の原因はそれだろう。
技術局長 ハリス
○トプソン委員、あれはあれで成果がなかったわけではありません。我々は表面の被膜の解析だけで15の特許をとっており、今もってその真価を掴むべく研究を進めています。
委員長 バーネット
○技術局長は関係ない話は慎むように。第二の問題点を。
技術局長 ハリス
○共鳴干渉問題です。KVariteは複数を近接配置すると互いに干渉しあって出力が相殺されます。それ自体はヴァルデンのレンガも抱えている問題であり、結果としてグレンデルはスケーリング問題をクリアするためにあのサイズにならざるを得なかったわけです。しかしKVariteは発生させる反重力の出力の低さから、グレンデルと同じスケールをとっても上昇させることはできません。
委員 ケネット
○君たちの技術力の問題ではないのか? こちらのレンガも電力を注ぎ込んだだけ強い反重力を返すと、そう説明されたが? ヴァルデンと同じ浮遊力を保証したのは君自身だ。
技術局長 ハリス
○発電機自体の重量を抱えさせなければその通りです、外部から電力を供給した実験では理論値通りの出力が得られています。KVariteも注ぎ込む電力を増やせばそれだけ反重力を増大させます。ですがそのためにはより高性能で巨大な発電機を使う必要があります。より重量と燃料を積み込めばの話です。
委員 トプソン
○発電機ではなく蓄電池だとか、そういったものを積んで飛ばすのでは駄目なのか。発電機よりははるかに軽いだろう。
技術局長 ハリス
○稼働時間が30分でよいのならば可能です。あるいは機体を木と布で組んで、まったくの武装を有しないのであれば。
委員長 バーネット
○話にならんな。ヴァルデンはすでに天空要塞の二号機スルトを完成させつつある。情報部が掴んだデータによれば航続時間はひと月に達するらしい。本当であればこのアネニスを攻撃して帰れるだけの性能を持っているということだ。
委員 ケネット
○あれだけの予算を注ぎ込んで判明したのは天空要塞は作れないと、我々が手にしたレンガはヴァルデンの2級品だと、そう言いたいのかね。
技術局長 ハリス
○いいえ、ケネット委員。私はKVariteの持つヴァルデンのレンガとは異なる特性を説明したいのです。あれは恐らくロンブルを飛ばしていたのとはまた別の使い方がされていたのでしょう。KVariteは出力よりも反応速度と方向制御に特化しています。大きな力を一方向に発生させるのではなく、小さな力を三次元的に、素早く、連続して―――――
委員長 バーネット
○ 技術局長。ここは予算委員会だ。機体の性能論は然るべき場でやってもらいたい。大統領の意向もある。これより予算継続の可否について採決する。
(審議終了)
『イル・グリード』AE1256年5月2日 緊急増刷 本日三刷
【見たかヴァルデン! 天柱雲から落ちた水滴、帝国基地に風穴を開ける!!】
読者諸君、聞いたか! 見たか?
昨夜、神様がタルキアに気前のいい贈り物をしてくれた!
ヴァルデンの駐留軍基地が燃え上がったんだ! 壊滅だ!
誰がやったって?
タルキア空軍? ヴァルデンに尻尾振ってる腰抜け首相が許可するはずがないよな。
イルミアか? また一人抜けするために戦闘機を溜め込んでる卑怯者がそんな太っ腹なわけがない。
そいつは天柱雲からやってきたのさ。
昨日の正午、聖影被りの大祭を迎えていたモンテ・アルヴォ山、そこに立ち込めた霧から九機の航空機が現れた。
そいつはランチェッタ車ほどの大きさの水滴型をしていた。奇妙なことにプロペラがない。だけど空気を切り裂く音をさせて飛んでいった。そのまま一直線に基地へ向かい―――――ドカンだ!
倉庫が吹き飛んだ。停泊中の艦艇が傾いた。対空砲がへし折れた。
慌ててヴァルデンのファルケーⅡが全機スクランブルをかけた。
ああ、そいつはわざと見逃されていたのさ。滑走路だけは攻撃されていなかった。
当然、数十のファルケーが空を飛んでその水滴を追いかけた。
どうなったか?
その水滴はピタリと空中に止まった! そのままファルケーが通り過ぎるのを待って―――――今度は追う側になった!
水滴はファルケーがどれほど速度を上げてもぴったりとくっついて離れない。ファルケーが振り切ろうと急旋回すれば、水滴はすうっと最短距離でスライドした。
ファルケーがびっくりしたところに機関銃をお見舞いだ。帝国機が一機、二機と黒煙を引きながら落ちていく!
タルキアの空で九粒の水滴が数十のファルケーをつぎつぎと落としていく。
奴らは必死に逃げ回るが、水滴のすさまじい機動性能には敵わなかった。
ファルケーⅡは直進しかできない猛牛で、水滴は悠然と待ち構えてひらりと躱すマタドーラだ。
そして闘牛の最後はマタドーラの剣の一刺しだ。
水滴は腹を開いてワイヤーを射出した。その先についた鉤爪が生き残っていたヴァルケンの隼を引き裂いた。
隼たちは羽根をもがれて落下していった。
全てだ。全てのファルケーⅡが墜落した!
タルキアの空がタルキアの元に戻ってきた瞬間だった。
ヴァルケンを追い払った謎の九機の水滴は編隊を組んで大きく一周した。ゆっくりと悠然と。地上のオレたちは手を振って、叫んで、泣いた。
やがて九機は北の雲の中へ消えていった。あっという間のことだった。追える者は誰もいなかった。
この水滴に関して政府は「我が国は当該航空機との関わりを一切有しない。まったくの無関係である」と発表した。
ならば奴らは何者だ? 旗もなく、部隊章もなく、今まで見たことのない形状で、空を思うがままに暴れまわった、あの水滴は!?
彼らの代わりに答えよう。あれは空の海賊だ!
市民諸君。我らの祖父の祖父の時代、シーマーレ海に旗なき船が走っていたことを覚えているか? イルミアやリュミエの商船に襲いかかり、軍船を撃退したのはタルキアの勇敢な海の男たちだった。
イルミアの女王が抗議してもタルキアの王は「海賊がやったことだ。我が国とは無関係である」と突っぱねた。
腰抜け首相にだってそれくらいできるだろう? 彼らは空の海賊だ。そう言ってやれ。広大な空の海を自分の物だと勘違いしたヴァルケンを喰らうために雲の向こうからやってきたのさ。
さあ震えろヴァルデン!
グレンデルは元の渓谷に閉じこもるがいい!
雲には近づくな!
空の海賊がやってくるぞ!




