第16話 セレマリンにて
「それじゃ、ベリアちゃん! よろしく頼むわね!」
「あぁ、任せろ」
ウァルナは殊勝だった。これから死ぬかもしれないというのに、その様子を全く見せない。
いや、全くではないか。
たまに、マグティアの方を切ない目で見ているのだ。
マグティアは気づいてか気づかずか、スルーしているが。
「海の中に火か……」
普通にやれば、発生させることもできない。
「……なにか、透明なカバーをするか?」
熱が伝わる、透明な素材。
「割れないガラスをイメージするか」
そして、燃え尽きない火を。
「創像!」
そこには、ガラスに包まれたコンロサイズの火があった。
(そうだ、ガラスが割れたら燃え尽きるようにしておかないといけないな。酷い火事になるから)
「これはいくつ作ればいい?」
「1万個頼みたいわ!」
「わかった」
コピーアンドペーストで、1万個作る。
「できたぞ」
「ありがとう〜! それじゃ、今夜は泊まっていってね! あぁそう、ここじゃなくて───────」
「───────上に宿をとったわ!」
「上?」
「客船よ!」
「そうか。感謝する」
「ありがとー!」
「それじゃ、最後に……もう少しだけ足掻かせてくださいね」
「ん? 何か言ったか」
ガチャン!!
すると突如、上から鉄格子が落ちてきた!!
「ありゃー笑」
なんと、マグティアが閉じ込められてしまったのだ。
「マグティア! 今助ける!!」
「マグティア様ー!」
と思ったら……
バキ、バキ!! バキャッ!!
「っ、え?」
「え??」
マグティアは格子を素手で壊し始めた。
「ダメだよ〜、悪いことしたら笑 ボクが怒ってないうちにやめな?」
馬鹿力過ぎないか?? 鉄格子だぞ??
威圧をかけられ、ウァルナ嬢が狼狽える。
「……そう。マグティア様は、やっぱり私のモノにはならないのね……」
「悪いけど、ならないよ〜」
手についた鉄粉を払いながら、マグティアは笑う。
「だって、ボクはベリアのモノだから!」
「っ……」
ウァルナ嬢は、目に涙を浮かべる。
ウァルナにとって鉄格子は最後の抗いだった。だって、恋が叶わなかったら、もう人魚ではいられない。
つまり、今夜──────。
「えぇ、ごめんなさい。私が悪かったわ。客船は安全だから、安心して泊まってね。それじゃあ、さようなら」
「あぁ、またな」
「またねー!!」
「さよなら〜」
亀に乗って、海面まで上がる。
(また、はないのよ……。貴方とも、マグティア様とも)
人魚は、恋が叶わなければ夜に泡になって死ぬ。
そんなこと、私はすっかり忘れていて。
「すごーい! 船がキラキラだな!」
「うん、そうだねぇ!」
「ほんとだー!」
船の夜景と、食事を楽しんでいた。
「ワイン飲みたいんだが、酔わせるなよ??」
「しないよ〜笑 海に落ちたら困るもん」
ワインを嗜んで、その後。
「ぼく、もう眠いから先眠ってるねぇ……」
「おやすみ、ライム」
私はマグティアと2人きりで、海風を浴びていた。
潮風の香り。そして、誰かの歌声。
「誰か歌っているな」
「綺麗な歌声だねぇ」
「悲しい歌だな」
「そうだねぇ」
ふと、聞き覚えのある歌声が聞こえる。
「ウァルナ嬢の歌声……近くにいるのか?」
マグティアは優しい顔で、私の方を見ている。
海面が、船の光を反射してキラキラ輝いていた。
「……ねぇ、ベリア。人魚は何をしたら泡になるか知ってる?」
「……失恋?」
そういえば、ギオンとそんな話した気がするな。酔っててあまり覚えてないが。
「その通り。あのね、失恋して人魚が泡になって、それが海面に届くと、歌になるんだ」
「っ!!」
私は勢いよく立ち上がった。
「つまり、ウァルナ嬢は……!」
「……恐らく、泡になったんだろうね」
彼女が……! 目に涙を浮かべる。いや、それよりも。
「だが、それでは国民のことは誰が率いるんだ!!」
私の目標は、願いは、魔界の幸福だ。
「そう、だから、今死なれたら困る。だから、生き返らせる」
「生きかえ、?」
「神以外の生き物にこれをやるのは、禁止なんだけどね。なんなら、資格持ってない神がこれやるのも禁止だし。秘密だよ」
マグティアが指を振ると、輝く空気が集まった。
「これは……綺麗だな」
「これがウァルナ嬢の亡骸!」
「!? 亡骸!?」
人魚の亡骸というのは、随分美しいらしい。幻想的な生き物らしいことだった。
「じゃ、いくよ〜!
アル・レヴァナ・エテルニア・ヴィータ!」
世界が、一瞬息を止める。
そして、空気は一層の輝きを増し……ウェルナ嬢の形を描く。
泡は肌になり、歌は鼓動となる。
やがて彼女は────────静かに目を開いた。
「あれ、私……」
「おはよう、ウァルナ嬢!」
「お、王子様……?」
「ううん、魔神マグティアだよ!」
「っ、は! そうよ、私、泡になって死んだはず……! なぜここに?」
「キミが食べてたご飯に、魔女の薬を混ぜといた! だからだよ」
「そ、そんな……!」
「……」
すごくナチュラルに嘘をつくな。びっくりした。
「キミにはまだ、セレマリンを統治する役割がある。まだ、頑張れる?」
「っ〜〜〜」
ウァルナ嬢は、目をキラキラさせている。
我慢だ、我慢……。
「うん、まだ頑張るわ!」
「よろしい〜! じゃあ、もう大丈夫。国に帰ってあげて」
「うん! ねぇ、マグティア様!」
「なに?」
チャポン
海に飛び込んで、顔だけ出したウァルナ嬢が、叫ぶ。
「お慕いしておりますわ!!!」
そう言って、潜っていった。
「はは、ごめんね〜笑笑 ボクはベリア一筋……って、聞いてないか」
「……」
私はマグティアに抱きつく。
「っ、え!!」
マグティアが頬を染める。
「……イヤだった」
「そうだよねぇ!! ごめんねぇ!!」
「……慰めてくれないとイヤだ」
「!!」
マグティアが私に向きなおり、顔を近づける。
「……キスしていい?」
私は目を閉じる。
「───────」
唇が触れる。
「───────ごめんね、不安だった?」
「不安ではなかった。だけど、ただイヤだった」
「そうだよねぇ。あ、これ! あげる!」
「なんだ?」
箱を受け取る。箱を開けると───────
「──────ネックレス?」
「うん、嫌な気分なったでしょ? お詫びのしるし」
「こんなの、いつから……いや、いい。ありがとう、マグティア。あ……」
愛してる、と言いかけて。
「?」
「いや、なんでもない。部屋に戻ろう」
「うん!」
勇気が出なくて、言えなかった。
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