アルテミス魔法女学園の編入生
夜、カノンは風呂場の鏡で、自身の姿をボーッと見つめていた。
「なんだ、この美少女は。そして、やっぱり無いよな……男のシンボル。あのアホ猫め、一生恨んでやるからな」
使い魔アイへのお仕置きを考えながら、鏡に近づき始めた。
「……そ、それにしても、本当に可愛いよな。これが、今のオレ……」
鏡に映る自分に見惚れるカノン。そんな時だった、風呂場の扉が勢いよく開いた。
なんと、バスタオルを巻いたシズクが、ニコニコ笑顔で、風呂場へと侵入して来る。
「カノンちゃん~!1人で身体洗うのもまだ慣れてないよね?お背中流してあげるよ~!」
「……は?シズク……お前!なんで、裸で入ってきてんだ!」
「何を言ってるんだい。ちゃんとバスタオルは巻いてますよ~!……そんなことより、カノンちゃんの方こそ何しようとしてたの?大先輩魔法少女シズクちゃんにちゃんと説明してくれるかな?ん~?」
「お、おい!シズク!抱き付くな!それと、どこ触ってんだ!や、止めろおおぉぉ!!」
「別に良いじゃん。今は、女の子の幼馴染み同士なんだから」
「よくねえわあぁぁあ!!」
その後、カノンとシズクは仲良く長風呂を楽しんだ。
◇
一方、カノンの部屋では……
『『――――――!!』』
【ご主人様たちは、夜でも騒がしいですね】
〖何かありましたか?暗黒竜ダーク・アイ〗
【ニャア、なんでもないですよ。アルテミスの勇者シャーリーさん】
カノンの使い魔アイの魔法で、鏡に映し出されている人物は、異世界アルテミスの勇者シャーリー・ロゼリア。
カノンがアルテミスの世界にいた時に、一緒に旅をしていた仲間の1人だ。
〖そうですか。あの……それでですね。私たち勇者パーティーは、カノン様にお会いしたいのですが。転移門を開いてほしいのです〗
【それは無理なご相談ですね。勇者シャーリーさん】
〖え?……な、なぜでしょうか?魔力供給なら、私が……〗
【貴女のパーティーに裏切り者がいるでしょう?】
眼光鋭く、勇者シャーリーを睨みつける、アイ。
〖裏切り…者?〗
【気づいてませんでしたか?そんなことも分からないで、危険分子を地球側に……今のか弱いご主人様に会わせるわけにはいきませんよ。犯人が分かって捕まえてから、出直して来て下さい。それでは、さようなら】
〖え?……いえ、あの……せめて、カノン様にご挨拶させて下さい!お願いし……ブツンッ!〗
【勇者シャーリーさんも誑かされているですかね?アイがご主人様にかけた呪いの時も邪魔してきて……ご主人様が所属していた勇者パーティーには、ご主人様に悪意を向ける存在がいるのは分かってましたからね。そんな人たちを、地球に招くわけないじゃないですか。お馬鹿さんたちですね。ニャフフ】
部屋の窓から見える満月を見上げながら、カノンの使い魔アイは不敵に笑った。
◇◇◇
次の日、朝。制服姿のカノンは、都内某所にある魔法少女専門の高校―――アルテミス魔法女学園へと入学するために、やって来た。
そして、カノンは、ともに登校したシズクに、待合室で待つように言われ。待たされていた。
【なんてやり取りがあったんですけど。どうしますか?勇者のシャーリーさんだけでも、密かに、ご主人様のご立派になったお姿を見て頂きますか?(ニチャア)】
「見て頂けるわけないだろうが。オレはTSしてんだぞ」
【ですよね~!再会なんてできるわけありませんよね。ご主人様は、超絶美少女……魔法少女アルカナ・カノンちゃんに生まれ変わりましたもの……ぐぺぇ!?……ご、ご主人様。アイの臓器がお口から飛び出しちゃいますよぉ……】
カノンは怒りに任せて、アイのお腹を両手できゅっと力を込めた。力強く……
「オレを小馬鹿にするからだろうが」
【ずびまぜんでじだぁ……ぷはぁ!!死ぬかと思いました。ご主人様、相変わらず。お力がか弱いですね】
「……誰のせいだと思ってんだ。それよりも、教室では喋るなよ。めんどくさいことになるからな」
【はい、ご主人様……その女装…じゃないですね。アルテミス魔法女学園の指定制服とてもとてもお似合いですよ。ご主人様】
楽しそうに微笑みながら、カノンの頬にすり寄るアイ。
「お前、本当に楽しそうだな。どんだけ、オレが恥ずかしい思いしてるのが嬉しいんだよ」
【はい!アイはご主人様が、元気そうなので嬉しいですよ】
「……なんだそれ。いきなり甘えてくんな。暗黒竜猫」
【ニュフフ、照れてますね。ご主人様】
「うわぁ、うざぁ……つうか、さっきのシャーリーの話は、家に帰ったら詳しく教えてくれ。今は、編入のことに集中するからな」
【はい、了解しました~!(ニチャア)】
《《とてもとても》》主人思いのアイは、ニチャリと笑った。
「何、アイちゃんと、にらめっこしてるの?カノンちゃん」
「へぁ!?うわあぁぁ!!シズク!どっから現れた?なんでオレの後ろに立ってんだ!?それになんで、いきなり抱きついて……離れろ~!」
突然現れたシズクが、両手をカノンのお腹周りに回して、いきなり抱きついた。
「……なんで、そんなに慌てるのかね?カノンちゃん。私たちは女の子同士なのにさあ~!」
「お馬鹿!オレは男の子だってのおおぉぉ!!」
「《《男の子》》かぁ……言い方が昨日よりも女の子らしくなったね。カノンちゃん……もしかして、心もだんだん女の子に近づいているのかね?」
「ア、アホ。そんなわけあるかあぁあ!!」
【……ご主人様って、本当にモテますよね。どちらの世界でも】
ガラガラッ!と、待合室の扉が突然、開いた。1人の女性が現れた。カノンとシズクの取っ組み合いを興味津々に見ている。
「おや、朝から元気だな。お前達」
水色髪に眼鏡を掛けたスーツ姿の女性。アルテミス魔法女学園の女教師。三崎 早霧だ。
「蒼井……お前。そっち方面の趣味があったんだな。意外だ」
「サ、サギリちゃん!?こ、これは違うの!こんなことするのカノンちゃんだけだし!」
「サギリ……先生?なのか?そんな格好で?」
「おう!初めまして、式波カノン。お前やシズクが所属する1年Aクラスの担任だ。よろしく」
サギリは、右手をカノンの前に出し、にこりと笑っている。
「は、はぁ……よろしくお願いします。サギリ先生」
「……………」
「なんですか?」
「いや、敬語は普通に使えるのだな。てっきり、切り抜き動画で見たような、粗暴な奴と期待していたんだが」
「ぶほぉっ!いや、あれは!危ないめにあっていた魔法少女たちを助けるために、口調が荒れただけなんです!」
あたふたしながら、ダンジョン遊戯の時に起きたことを、サギリへと説明し始めるカノン。
「……ぷっ!慌てすぎだろう。面白い奴だな。式波……呼び方はカノンでいいか?」
「へ?は、はい。大丈夫です」
「そうか。気に入った!カノンは面白い奴だな」
「……よく言われます」
「そうか、それでは移動しようか。カノンが所属する教室に案内しよう」
「ムフフ!うちのクラスには、可愛い女の子がいっぱい居るからハーレム作れるよ。カノンちゃん」
「誰が作るか……アホシズク」
カノンは、サギリに案内され、自分が在籍する教室へと向かった。
◇◇◇
「か、可愛い……切り抜きよりも、本物の方がすごく可愛い」
「髪細くて綺麗な娘……顔小っちゃい……お姫様みたい」
「華奢な娘……ぜひ、うちの部活に勧誘しなくちゃ」
「えっと……今日から編入して来た、式波カノンです。どうぞよろしくお願いします」
「2年前に起きた。新宿ダンジョンのスタンピードを鎮圧した。式波奏音と名前は瓜二つだが、女の子だ。仲良くするように」
(いやいや、同一人物だっての。つうか、そっちが本来のオレだよ。サギリ先生……つうか、本当に女の子しかいない。それに皆、めちゃくちゃ可愛い女の子ばっかだな。緊張してきた)
教壇の前に立って、自己紹介を済ましたカノンは、教室に居る女の子たちをグルっと見渡した。
(カノンさん~!頑張って~!)
(……こ、こっち見てる?……カノン。どうしたのかしら?私なんかを見つめて)
(緊張してるね~!カノンちゃん!)
そして、教室には、『福音少女』のクランメンバーである、ハイナとキレイも居た。シズクは、カノンに向かって笑顔で手を振っている。
「ハイナとシズク?……2人も同じクラスなのか」
「1年Aクラスは、魔法少女の中でも選ばれた者が所属している」
「選ばれた者……ですか?」
「あぁ、配信者としての好感度、知名度、能力とかな。まぁ、そういう事は、おいおい覚えていけばいい。カノンの席は一番後ろの窓際だ。シズクの後ろだ」
サギリが指を差した方へと目をやると、シズクの後ろの席はたしかに空いていた。
「わ、分かりました。えっと……これからよろしくお願いします」
「あぁ……それと、今は遅刻でいないがな。蘭には気をつけろよ。このクラスの問題児だからな」
「問題児?……わ、分かりました。皆さんもこれからよろしくお願いします!」
「「「きゃあああ!!こちらこそ、よろしくお願いします!可愛いカノンちゃん!」」」
「……意外にノリが良いクラスですね」
「まぁ、私が受け持つクラスだからな。当然だ。ホームルームを始めるから、席につけ」
「は、はい……」
カノンは、後ろの席へと向かった。
「フフフ~!これからよろしくね女の子の《《カノンちゃん》》」
「シズク……お前……え、えぇ、これからよろしくね。幼馴染みのシズクちゃん!」
「フフフ、仲が宜しいですね。お2人は……」
「へ?えっと……君は?」
「あぁ、申し遅れました。私、このクラス委員長をしております。夕凪真莉愛と申します。以後、お見知りおきを」




