カノンちゃんの休日
魔法少女アルカナ・カノンちゃんのデビューライブ配信は、空前絶後の大成功を収めた。
カノンの心の貞操概念を犠牲にして――――
《式波カノンの部屋》
伝説のライブ一夜開け。カノンとアイは、のんびりしていた。
【デビューライブ動画の再生回数、1日で500万再生突破。エッグスのフォロワー数30万人。各SNSのフォロワーも万人越え?凄いですね、ご主人様。大人気魔法少女ですよ!】
大喜びする、カノンの使い魔アイ。
「オレは……男だ。魔法少女じゃない。オレは、男の中の男だったんだ……それなのにオレは、魔法少女になっちまったんだ!!それに人気配信者って……終わった。オレの人生終わった……」
上機嫌に、それはもう上機嫌で、そう告げるアイ。
そして、カノンはというと……この世に絶望したような表情を浮かべる、カノン。
ガチャッ!……扉が開き、制服エプロンでカノンの部屋へと入って来た。
「カノンちゃん~!昼食の準備ができたよ~!お昼にしよう~!」
「全部……」
【ニャン?どうしました?ご主人様】
「全部、お前のせいだろうがああぁぁ!!暗黒竜猫!!」
【な、なにするんですか?ご主人様!?アイは今、人型なんですよ!!アイの顔をモチャモチャしないで下さい!!フンギャラッパァァ!?】
「ど、どうしたの?カノンちゃん。アイちゃんに飛びかかるなんて、乱心しちゃ駄目だよ~!」
◇
〖昨日、魔法少女配信者としてデビューした魔法少女アルカナ・カノンちゃん。突如として現れた超新星魔法少女、すごい人気ですね。真莉愛さん〗
〖ええ、是非ともワタシが所属クランに入って頂きたかったですわ。あれ程のカリスマ性と可愛いさの女の子は、なかなかおりませんもの〗
〖そ、そうなんですね。それは残念でした~!……コホンッ!今日の特集は、魔法少女カノンちゃんの特集です。まずはこちらの切り抜き動画を……〗
〖なにを全世界に放送事故流そうとしとんじゃあぁぁ!!お前等あああああぁぁぁぁ!!!!〗
〖わああぁ!!ストップストップ!放送事故です!一旦CMを……〗
テレビから、ニュースキャスターの悲鳴が聞こえてくる。そんな様子をボーッとした顔で眺めるカノン。
「カノンちゃん。大丈夫?顔に精気全然ないよ~!」
「……オレの痴態が、全国放送に……いや、全世界に配信されていたのか?たった数日の出来事だぞ……終わった、オレの人生」
【……ご、ご主人様。シズクさんが、こんなに美味しそうなオムライスを作ってくれたんですから、冷めないうちに食べましょうよ。ご主人様】
「黙れ、元凶猫……お前の好物のスルメイカやらないぞ」
【ニャン!?……それは嫌です。お口チャックしますので、スルメイカ下さい】
(……コイツ、オレのことを本気で嘗め腐ってるな。全ての元凶のくせに、今夜にでもやり返してやるからな。覚えてろ)
などと考えるカノンをジーッと見つめる、シズク。
「異世界『アルテミス』に数年行って、冒険して帰ってきたら魔法少女になってたなんて信じられなかったけど。可愛い女の子になっちゃてるもんね~!カノンちゃん。本当にビックリだね~!」
「……今更なんだよ。返せよオレの男の身体!!アホ猫~!」
【フギャラッパァァ!?ワ、ワシャワシャしないで下さい。ご主人様~!】
カノンに揉みくちゃにされて、喜ぶアイ……とてもとても嬉しそうにしている。
「カノンちゃんが、男の子に戻る方法かぁ……『賢者の石』だっけ?あれって、幻のドロップアイテムなんだよね。スマホで検索検索〜!」
「……異世界のことはスルーかよ。オレになにがあったとか聞かないのか?シズクは」
「ん〜?それは、カノンちゃんを男の子に戻した後に、ゆっくり聞かせてくれればいいかな〜!今は、カノンちゃんを元に戻すのに時間割きたいしね……駄目だね〜!『賢者の石』について、全然情報がないよぉ」
シズクの持つスマホの液晶には、『賢者の石』検索結果0件と表示されていた。それをカノンへと見せる。
「シズク……お前。そんなにオレに男に戻ってほしいんだな。オレの味方は、やっぱりお前だけだな」
「いやいや、カノンちゃんが男の子のままだと。一緒の大学に進学できないじゃん。ただそれだけの理由だよ」
「大学?あぁ、大学なら魔法少女も通えるんだったな……シズクが魔法少女になってから高校は別々になったんだよな」
「そうそう。あっ!でも高校は、カノンちゃんが女の子になってくれたから、これからは一緒に行けるね。私が着ている制服が、アルテミス魔法女学園の制服だよ。どう?似合ってるでしょう?」
付けていたエプロンを外すと、シズクはカノンの前でクルクル回り始めた。紺色のブレザーの制服姿がとても可愛らしいシズクの姿を、口をポカーンと開けて見つめるカノン。
「……一緒に通う?いやいや、オレは男……じゃなかった。女の子に……魔法少女になってる。そして、魔法少女は……」
「アルテミス魔法女学園で、魔法少女のことを学ばなければならない。魔法少女世界の常識だよね~!カノンちゃん。良かったね」
ニマニマと笑う、シズク。それを見て絶望するカノン。
「ぐ……ぐおおおぉおぉおお!!すっかり忘れてた。そうだった!藍さんが、そんなことを言っていたんだった!!」
「カノンちゃんって、本当に良いリアクションしてくれるよね。面白い~!」
「オレは面白くないっつうの……シズクが着ている、その制服をオレも着るのか?男のオレが!?」
【仕方ないですよ。ご主人様~!アイの魔力が完全に戻るまで、戻れないんですから(ニャアァ)】
(……コイツ。シズクが帰ったら。モフモフの刑に処してやるからな。それにしても、シズクの奴、スカートが短すぎないか?それに胸元開け過ぎだろう)
チラチラと、シズクの制服姿を細かくチェックするカノン。
「ん〜?なあに、カノンちゃん。カノンちゃんもアルテミスの制服着たいのかな~?」
そんな様子をニマニマと見つめるシズク。
「ばっ///誰が着るかよ!オレは、男なんだぞ」
「でも、今の性別は女の子だよ。可愛い可愛い女の子だよ。女の子のカノンちゃん!えいっ!」
「お、おい!いきなり抱き付くなよ。シズク~!」
「ん~?無理かな~!だって、カノンちゃん。こんなに可愛いんだもん!役得役得~!」
「止めろ~!」
カノンの顔に近づいたと思ったら、シズクは顔をカノンへとくっ付けて頬擦りを始めた。
【ニャア、楽しそうですね~!ご主人様】
「うるさい、アホ。助けろ~!」
「ニヒヒ!カノンちゃん。可愛い~!」
【…………(それにしても。アルテミス様も、何をお考えなんでしょうね。アイの魔力の殆んどをわざわざ失わせて、ご主人様が男の子に戻れなくするなんて。まぁ、これをご主人様に伝えたら。アルテミス様にアイが消されるので言えませんけどね。お口、チャックですね。ごめんなさい、ご主人様)】
◇
《魔法少女総合病院》
「は?雑談配信をしろだって?それと、カノンちゃんをそっちのクラン『ヴァルキュリー』に寄越せ?何を言ってるんだい?真莉愛ちゃん。意味わからんよ」
〖アルカナ・カノンさんの〝本性”を知りたいのですよ。蒼井藍さん……よろしくお願いしますね。では、失礼します〗
「いやいや、何一つ言っている意味が分からないし、無理だね。これでも、私はカノンちゃんのお母さん代わりみたいなものでね。あの娘を危険で厄介な変態魔法少女《君達》と関わらせたくないんだよねぇ」
〖……そうですか。それでは、アルカナ・カノンさんの雑談配信だけで構いません。それで、本性がわかりますからね。ちなみに、これは魔女会で決まったことなので、拒否は許しません……よろしく……ブツンッ!〗
「魔女会だって?なんで、魔女会までカノンちゃんの名前が出て……切れてる。あんにゃろう~!先にカノンちゃんを、うちのクランに取られたから嫌がらせする気だなぁ。魔女会も真莉愛も……一応対策しとくか」
……暗がりの病室で、蒼井藍は頭を抱えながらとある作業を始めるのだった。




