0462・9階まで
そのまま進んで行き、魔物を倒しつつ階段から8階へ。次に出てきたのはアントマンだが、この魔物はそこまで苦労しなかった。二足歩行をしているものの見た目が蟻だからか吐く事も無く、淡々と3人は倒して魔石を取り出す。
戦えるのならば問題は無く、後はミクとコウジが適当に処理をしていくだけだ。倒すだけならば足を止める必要も無く、移動しながら殺害するのは難しくない。コウジも盾で流してメイスを叩き込むだけである。
「北条君はメイスを使っているんですね。男の子だから剣を使うのかと思っていました」
「いや、元々スコップで戦ってたんだけど、それじゃ流石にキツいって事で、ミクからナイフを2本貸してもらってたんだ。とはいえスコップより近いのとリーチの短さから厳しくてさ、それでメイスを使えって言われて今は使ってる」
「剣、意味を理解、少ない。それ、使っても無駄」
「剣の意味………ですか?」
『剣は携帯性に優れた武器。でもそれだけであり、他にメリットは無い。斧の破壊力やメイスの耐久力、槍のリーチがある訳では無い中途半端な武器。それはしっかりと理解しておくべき事』
「ああ、それはそうですな。良い悪いは別にして、取り回しの良さが剣の良い所です。言い換えれば持ち運んで使いやすいということ以外には、然程に優れた所が無いのが剣」
「確かに斧の破壊力もメイスの頑丈さも、槍のリーチもありませんね。長い剣になれば携帯性が死にますし、それなら剣に拘る意味が薄い、と。確かに言われれば分かります」
「それを理解して使う、まだしも、理解しない。多く居る」
「確かに探索者で剣ってよく聞くな。有名な探索者って大抵が剣を使ってる気がする。魔物に勝てるなら武器に拘る必要は無いのにな。もちろん携帯性が良いっていうのも、1つの選択基準ではあるけど」
「持ち運ばなきゃいけないから携帯性を考えるのは分かるけど、確かに手斧とかメイスでも長さは変わらない? 槍は杖みたいにして持ち運べばいいし……。剣の携帯性ってなんだろう?」
「「「………」」」
「何となく剣、皆使ってるから剣。元の星でも多い。でも、それは使われてる、使っていない」
「剣を使っているのではなく、剣に使われている……という事でしょうか?」
「ちょっと違う。武器に使われない。重要なのは武器を使う事、適切に」
「つまり合っていないにも関わらず、無理に剣を使っている者が多いという事ですな。剣ではなく別の物を使うべき者でも」
「どういう事でしょうか?」
「ジロウエモン、上手い。だから問題ない。下手なヤツ、武器を変えるべき。使い熟せない、無駄」
「ああ、武器を使い熟せないのに、とりあえずで剣を選ぶなという事か。使えないなら素直に簡単な武器を選べと。……いや、簡単というより使いやすい武器か」
「メイス、頭空っぽ。斧、刃筋だけ。剣、引き、突き、適切に使う。その適切、出来るヤツ、少ない」
「あー、確かにそうですな。西洋剣であろうが刀であろうが、適切に使えねば意味などありませぬ。しかしその適切に使うというのが難しい。様々な状況において何が適切かは変わりますからな」
話の間に9階への階段に到着したので9階へ。この階はウィンドウルフであり、突っ込んで来る狼系の魔物だ。油断していると噛みつかれる事を考えると、なかなかに大変である。
今回も最初はヤエにやらせるが、流石にユヅキもジロウエモンも心配している。そんな中、ミクが少しだけ耳元で囁き、アドバイスをした。その事も気に掛かる2人。
前に出たヤエはウィンドウルフに対して正眼の構えで待つ。ウィンドウルフは吠えたり周りをウロウロする事で隙を探すが、ヤエは全く隙を見せない。
その状況に焦ったのか、ウィンドウルフは一気にヤエに突っ込み、口を開いて飛びかかる。しかしヤエは冷静に口の中を突く。するとドラゴン素材の剣はあっさり口蓋を貫通し脳も貫通。一撃で即死した。
「思っていた以上に切れ味を含めた色々が凄すぎますし、まさかここまで押されるとは思いませんでした。もちろんウィンドウルフというのは突っ込んできているのですが……」
「これは完全に貫通していますね。まさかここまでになるとは……。普通の刀では左様な事はあり得ませんので、やはりドラゴン素材というのはとんでもないです」
「うむ。そもそもゴブリンというものも御嬢様は両断しておられた。あれは尋常ならざる切れ味であろう。御嬢様の細腕でさえ容易く切り裂けるのだ。それだけの切れ味が無ければ無理だからな」
「剣、刀、無理に使う意味は薄い。大事な事、敵を倒す事。好きな武器を使う、それは遊び」
「好きな得物を振るっているだけなのは、戦いではなく遊びである、ですか……。深いですな」
「要するに戦いというものに真剣になれって事かな、もしくは命の奪い合いを舐めるなって事?」
「そう、コウジ正しい。戦い、舐める、そういうヤツから死ぬ」
「何か創作物で聞いた事のある言葉だけど、それが現実なんだろうね。もちろんちゃんと剣を使ってる人も居るんだろうけどさ」
「それもミクからしたら微妙なんだろうな。他にもっと良い武器あるだろうってさ。とはいえ剣だって使わなきゃ上手くならないとは思うぜ?」
「本当に極めようとする者、殆ど居ない。そこまでじゃないと、無意味。もっと便利なの使え」
「確かにダンジョンに潜ってる人達は、剣を極めようとなんてしてないな。そこまでしないと難しいのが剣って事?」
「剣、中途半端、出来る事は多い、でも一歩足りない。だから使い熟す、難しい」
「それはまあ、そうですな。平均的な武器だからこそ出来る事は多く、その反面、特化した武器には届かない。出来る事は多くとも一歩足りないとは、そういう部分の事でしょう」
話の最中にもユヅキやジロウエモンが戦い、簡単にウィンドウルフを倒して行く。ユヅキは回避しつつ切り裂き、何度も傷を与える事で倒した。ジロウエモンは擦れ違い様に足を斬り落とし、一気に形勢を有利にして倒している。
「この下オーク。ここまではコウジもセンも来ている。そこから先はまだ」
「成る程。このダンジョンがどこまでかは知りませんが、思っているより長いのでしょうね。ところで……」
何かと思ったらトイレだった。ちょうど階段前だった事もあり、ミクは【浅穴】の魔法で穴を掘って、そこにするように言う。色々と悩んだものの、背に腹は代えられぬとヤエは使う。
他にも幾つか【浅穴】で穴を掘っておいたので、皆は自分の穴を決めて、そこで用を足す。どのみち10分経てばトイレの中身も消え去るし、穴も1日あれば塞がる。
「土の所なら上から掛ければ済む。でもここ無理」
「それは確かにそうですね。石の所でも何かしらの用意はしておいた方が良かったでしょうか。ダンジョンに入るのは初めてだったもので、用意というのを忘れていました」
「お兄ちゃんは今までどうしてたの」
「そもそも、こんなに深く潜れるようになったのはミクが来てからだっての。それまでは3階のビッグアントを狩ってたんだから、家に戻れば済んだんだよ」
「確かにそうかー。3階までしか行けなかったんだもんねー」
「事実だけど、言い方! その言い方は止めろ」
今まではスキルも宝の持ち腐れであり、スコップやヘルメットなどの物ぐらいしか持っていなかったのだ。5階や10階まで来るのは無理だろう。そもそもダンジョンで戦えば強くなるなんて事はないのだ。
戦いが上手くなっても、レベルが上がって強くなるような事はあり得ない。それが現実のダンジョンである。




