0289・ベルとラーディオンと説明と
受付嬢に先導されラーディオンの部屋へと入る。中に居たラーディオンは執務をしていたが手を止め、ソファーに座るようにと声を掛けた。
ミクは適当に立ったままおり、アレッサはセリオを抱いて立ったままである。ティアとベルカーラは座り、護衛の騎士っぽい3人も立ったままだった。
「いや、まあ、全員が座れるほどソファーは大きくないが、椅子もあるんだし、自由に座ってくれて構わないんだが」
「別にいい」 「立ってても問題無いけど」
「「「我らは結構」」」
「ああ、うん。そうかい……」
気の遣い甲斐の無い奴等だなと思いつつ、早速ラーディオンは話を始める。流石に彼もギルドマスターだ、暇ではないし忙しい。
「それで、いったい何の用でしょうかな? 王女殿下が来られるのは何となく分かるんだが、お前さん達が一緒なのがよく分からん。いったい何があったんだ?」
「それは私から話そう。王都守備兵のリリエ殿の部屋にまたもや誰かが……まさか!?」
「姉上、正解です。それをやったのはミク殿であり、内実は体の良いスケープゴート。つまり身代わりでしかありません。ミク殿が表で動く訳にはいかないという事情もあります」
「ああ、成る程。それでか……。まあ、この事は陛下に申し上げるだけに止め、後は黙っておくべきだな。っと、続きを話そう。誰かがリリエ殿の寝所に証拠書類を置いてな、そこからデゴムト奴隷商が非合法な事をやっているのが明るみに出た」
その言葉を聞いたラーディオンはミクを見るが、ミクはそっぽを向いていて誰とも目を合わせていない。そんなミクに呆れるも、何かを言ってもしょうがないと諦め、話に乗るラーディオン。
「………まあ、朝っぱらから兵士が走り回ってましたからな。何処に捜査が入ったかなんざ、あっと言う間に広まります。ワシもおそらく非合法な事をやっとったのだろうと思っとりましたが……」
「まあ、あちらへの追求は無しでな。仮にやったとしても、我々は関知しないし助けもしない。それは先に宣言しておく。話を続けよう。デゴムト奴隷店の地下で非合法な奴隷にされていた多くの女性達を救出したのだが、その中には探索者の女性も居た」
「ま、言葉は悪いですが、第2エリアや第3エリアで誘拐される者は昔からおります。ワシが暴れても、<鮮血の女王>や<影刃>がいても無くならねえ。探索者にも見張らせてるんですがね、探索者ギルドには犯罪者を裁く権利がねえんですよ」
「すまない。それは国家の専権事項なので探索者ギルドに渡す訳にはいかない。探索者に対するものであれば、我々は見て見ぬフリをする。昔からだが、これ以上は国家として無理だ」
「分かっとります。元々暴力を売ってるようなものが探索者だ。良い悪いは別にして、探索者になった時から自己責任。そうなっちまうのは仕方のない事で」
「一応、聞き取りが終わった者の名前を控えて持ってきた。………コレが探索者だと言った者の名簿だ。登録証などは奪われていて、デゴムトの店の中にも無かった。そして住んでいた家の方にもだ」
そう言いながらベルカーラはミクの方を見る。ミクは首を左右に振って、「自分も見つけられなかった」という合図を出す。ベルカーラもラーディオンも溜息を吐いたが、話を続ける。
「それと、奥に何だか見慣れない、大小の鉄格子が付いた箱があったらしいのだが……」
そう言いつつ、再びベルカーラ王女はミクを見るも、ミクは視線を逸らして壁を見ている。その次にアレッサが抱いているセリオを見た後でティアを見ると、再び「コクリ」と頷いた。
「あー、んー……1頭だけだったのかなー?」
そう言いながらチラリとティアを見ると、再び「コクリ」と頷くティア。それで大凡は把握できたベルカーラ王女は、それ以上を言う事は無かった。
「ベルも大変ねえ……」
「誰の所為だと思っているのかな? 他人事だと思ってるんだろうけど、アレッサも変わらないよ?」
「………」
急にそっぽを向いて口笛を吹くアレッサ。「揃いも揃って……!」と思っているが、追求する事は諦めてラーディオンとの話に戻る。これ以上は聞くだけ無駄だと思ったようだ。それは当たりである。
「おそらく小さな生き物か何かが入れられていたのだと思うが、王都守備兵が突入した時には何も居なかったらしい。ただ獣臭さなどがあったので、おそらく入れられていたのは人間種ではないと思われる」
「そうですかい……まあ、小さな生き物だろうが何だろうが居なかったんですから、この話はこれでお終いでしょうな。探索者の事は分かりました。こちらでも聞き取りをやったり情報を集めときます」
「ああ、宜しくお願いする。それでは私達はこれで」
そう言ってベルカーラ王女と護衛はラーディオンの部屋を出て行った。それを見送った後、ラーディオンはゆっくりとミク達の方を向く。
「で、結局はどういう事なんだ? 後はこっちで上手くやっとくが、代わりに教えてくれねえと対処のしようがねえんだがな」
「簡単に言うと、昨日イリュから話があったのよ。デゴムトって奴が違法奴隷以外に、違法ペットの方にも手を出してるってね。そしてワイズライノを違法に捕まえたらしいって聞いて喰った」
「喰ったって……随分あっさりと言うな。それはともかくとしてだ、違法奴隷を捕まえてるクズを喰うのは良いんだが、何でそいつを隠すんだ? 表に出すと駄目な事情があるのか?」
「この子はセリオ。ワイズライノだったんだけど、その鉄格子つきの箱の中で飢え死にしかけてたらしいわ。それを助けるには、ミクの血肉を与えるしかなかったの。そしてその結果、ワイズライノっぽい何かになった」
「いやいや、ワイズライノっぽいって何だ。意味が分からん」
「そのままですわ。ミク殿の血肉を与えられ、人間種のような知能と、体を自在に大きくしたり小さくする能力。更には雑食になって、感覚も鋭くなってるそうです。つまり、もう普通のワイズライノではないんですの」
「そ、そりゃあ……」
流石にラーディオンも顔が引き攣っている。ミクの血肉を使われた者は軒並みおかしい能力を持つのは、ラーディオンも聞いていたので知っている。シャルティア然り、アレッサ然り、テイメリア然り。
まさかワイズライノまでそうするとは思っておらず、どんな怪物になったんだと、今から戦々恐々としているのだ。これ以上は聞くのが怖いが、しかし聞いておかねばならない。
「よく……分からんのだが、具体的には?」
「五感の強化。本来のワイズライノというかライノ種は目が良くない。しかし、今のセリオは遠くまでハッキリと見通せている。何だったら下手な人間種よりも目が良い。数キロは確実に見えてる」
「元々の目の悪さが分からんが、そこまで見えるようになったなら十分に過ぎらあな。目が良いって事だけじゃないんだろ。五感とか言ってるんだ」
「五感とは、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の5つの事。つまり、目、耳、鼻、手、口。まあ触覚に関しては、実際に言えば触れた際の感覚の事だけどね」
「ふむ。それらが鋭くなってる訳か、そこのワイズライノは。なかなかにアレだが、その点だけでも他のワイズライノとは一線を画すわけだな?」
『そうだよー。僕は色々と凄いんだから!』
「!?!!??!」
気持ちは分かるが、驚きすぎである。そんなラーディオンを宥めつつ、セリオに挨拶させるのが一番簡単かと、3人はそう考えるのだった。




