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0288・久しぶりの女性




 買い取り金額に驚いたものの、木札を貰ったミク達はギルド本部の建物に入る。そのまま真っ直ぐ受付嬢の下に行き、木札を出すと精算を始めた。既に3人で山分けする事は決まっている。


 その際にティアの木札を持って裏に行ったので、おそらくランクアップするのだろう。ティアのランクは5だったので次のランクは6だが、そのままの通りになるのだろうか? 少々疑問はある。


 1ランクだろうと2ランクだろうと、上がる分には悪くないなと考えていたら、またもや<肩トゲ>が近寄ってきた。本日3度目、また絡みに来たらしい。


 いい加減にしろと思うが、こいつから絡んできているので避けられないのだ。そのうえ進路上や待ち時間に絡んでくるのだから、避けられない状況を狙っているとしか思えない。



 「テメェ、フザケんじゃねぇぞ! 1度ならず2度までもごっ!?」



 まやもやミクに股間を蹴り上げられて悶絶する<肩トゲ>。もういい加減に諦めればいいのに、こういう奴は不思議と諦めが悪いのである。いったい何故なのか、こいつと同類にしかきっと理解できないのであろう。


 幾ら探索者は面目を大事にするとはいえ、最初にミク達の面目を潰そうとしたのはコイツなのだ。ミクに蹴られた事を怨むのは完全な筋違いである。そもそも自分より下っ端などと勝手に決め付けで、ミク達を軽んじたのを忘れたのだろうか?。


 未だ悶絶するバカがプルプル震えながら立ち上がり、文句を言おうとした瞬間、受付嬢が戻ってきた。その受付嬢は見るなり状況を理解したのか、わざわざ丁寧に呼ぶ。完全にワザとだ。



 「ランク5だったティアさん、こちらが新しいランク7の登録証です。どうぞ。”ランク11”のお2人はランクアップがありませんが、それは御容赦下さい」


 「いや、ここまで来たら特に上げようとも思ってないしね。私のは別に構わないよ」


 「私のも問題なし。これ以上ってなってもね。何か特典がある訳でもないし、無理になる必要はないかな? 今でも何処ぞのバカが喧嘩を売ってくるしさあ」


 「それは仕方がありません。いつでも何処でも”バカ”というのは湧いて来ますので。害虫より性質たちが悪いんですよ? 害虫は駆除できるだけ、まだマシだとさえ言えるんですから」


 「わー、害虫より最低な奴等がこの世に存在するのねえ! 本当にバカって困るわ!」


 「………」



 <肩トゲ>と言われた若者は、ミク達がそこまで高ランクだとは思わなかったのだろう。股間がまだ痛いようだが、それでも背を向けて逃げ出そうとした。が、そんな背中をミクが前蹴りで倒す。


 蹴られた<肩トゲ>は前に転倒し、蹴ったミクに文句を言おうとしたがすぐに止まる。何故なら報酬と登録証を受け取ったミク、アレッサ、ティアが囲んでいたからだ。



 「お前、高ランクである私達にあれだけ絡んでおいて、謝罪の1つも無しに逃げられると思っているのか? 何? 今すぐ殺してほしい?」


 「申し訳ありませんでしたー!!!」



 すぐさま土下座するところは立派だが、そもそも最初から喧嘩を売らなければこうはなっていない。ベテランが新人をイジメているような構図だが、ミク達はまだ登録して1年も経っていない新人である。


 そんな事をしているギルドの建物に、とある人物が入ってきて驚きの声を上げた。



 「テイメリア! ……いったい何をしているのだ?」


 「これは姉上。この男が調子に乗って私達に喧嘩を売り続けてきたのですよ。これで本日3度目です。しかもミク殿とアレッサ殿がランク11と知るや、謝罪も無く逃げ出そうとしたのですよ?」


 「それは酷いな。稀にこういう調子に乗った者が居るが、大抵は何処かの国の田舎で強かったという者だ。ゴールダームの探索者の力量を知らず、恥を掻くケースが多い。ところでテイメリアは何処へ行っていたのだ? 最近いなかったみたいだが」


 「少し前までドルム地下王国に行っていましたの。王都ドワンに防寒具を買いに行くついでに、お2人と共にドワン近郊のダンジョンを攻略して参りました。最後のボスはヴァンパイア7体でしたが、可哀想な事に……」


 「かわいそう?」


 「ミクがボス前の休憩中に【浄滅】を使っちゃってね。その後にボス部屋に入ったら、出てきたヴァンパイアがレッサーゾンビもかくやと言わんばかりに弱ってたのよ」


 「「「「あー………」」」」



 ベルカーラ王女と共に入ってきた中には、探索者風の近衛騎士らしき人物が居るのだが、その3人も心から納得の声を上げた。やはり簡単にその状況が想像出来るようだ。



 「まあ、何と言うか、締まらない最後で終わったのだな。……そもそも【浄滅】などという儀式魔法を1人で使ってしまうところが、実にミク殿らしいというか、何というか……」


 「【浄滅】といえば【浄化魔法】の最高峰。本来ならば20人ほどの魔法使いを用意せねばなりませぬ。そのうえ1度使えば魔法使いは魔力が枯渇して倒れるほど」


 「それを連発できてしまうのでしょうから、我らとしては唖然とするしかありませぬな」


 「真に……規格外にも程があると言いますか……」


 「そういえば姉上は何故ギルドに来られたので?」


 「私はギルドマスターのラーディオン殿に報告に来たのだ。デゴムトという奴隷商が非合法の奴隷を多く監禁していてな、その事で今日は騒ぎに……」



 ベルカーラ王女は何かに気付いたのか、ミクの顔を見た後でティアの顔を見る。するとティアは「コクリ」と頷き、ベルカーラ王女はこめかみを揉み始めた。



 「今日1日。様々な可能性を考慮して、色々な対策を立てたのだが………それが全部無駄になったな。すまないが、ラーディオン殿の執務室についてきてほしい」


 「まあ、ラーディオンなら良いか。本来なら言う気は無いんだけど、私も面倒を引き起こしたい訳じゃないしね」


 「既に面倒になっているのだが、他に知っている者は?」


 「私とイリュとカルティクね。それ以外は知らないわよ」


 「なら大丈夫か。受付の君、すまないがラーディオン殿に時間が欲しいと伝えてきてくれ」


 「分かりました」



 受付嬢が2階に上がり、ラーディオンに聞きに行っている間、ベルカーラ王女とティアは当たり障りの無い話をしていた。しかしベルカーラ王女を「姉上」と呼んでいるのだ、すぐに周りはティアの立場に気付く。


 先程の<肩トゲ>など、自分は何も関わりなどありませんよとばかりに、脱兎の如く逃走していた。既にギルド内には居ないほどである。


 あのなりではあるが、少なくとも最低限の危機察知能力と逃走技術は持つようだ。そうでなければ探索者は生き残れない。ミク達に喧嘩を売るようなバカではあるものの、本当のマヌケではないようだ。



 「ドルム地下王国はこの時季涼しかっただろう? ゴールダームもそこまで暑くならないとはいえ、それは南の国々に比べてだからな。ドルムやジャンダルコと比べれば暑い」


 「確かに涼しい事は涼しかったのですが、ドワン近郊のダンジョンを攻略していましたので、そこまで涼しさを満喫していた訳ではありませんよ?」


 「ドワン近郊のダンジョンはどんな感じだった?」


 「第1エリアは木の実と野草の獲れる場所です。第2エリアは岩場、第3エリアは泥沼、第4エリアは草原、そして第5エリアは洞窟でした」


 「洞窟か……それはまた大変な、っと、受付嬢が下りてきた」


 「皆さん。ギルドマスターは大丈夫だそうですので、こちらにお越し下さい」



 どうやらラーディオンは許可を出したらしい。時間も時間だし内容も内容なので、ミクとしては有耶無耶にしてしまいたかったようだが、そうもいかないようである。


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