0199・王都ブラン脱出
「別にジャンダルコ商王国で、エルフが探索者ギルドのギルドマスターをしてはいけないなんて法は無い。でも、こいつは髪色や肌色を魔道具で偽っていた。これは明らかにおかしい。詐欺行為に当たる」
「そうね。別にエルフがやっちゃいけない訳じゃないけど、ジャンダルコで身形を偽ってギルドマスターだったというのは、流石に怪しすぎる。工作拠点に使ってたと勘繰られても仕方ないわ」
「それだけじゃないよ。探索者の中には同じように髪色や肌色を偽っているヤツが居るかもしれないし、そういうのも含めて調べないといけない。誰が調べるのかは知らないけど」
「まずは信頼できる人物をギルドマスターに据えるのが先じゃない? 出来ればエルフを嫌ってる人が良いわね。そうじゃないと調べないだろうし」
「そうですね。少なくとも髪色や肌の色を偽る必要など無いのに偽っています。これはどう考えても怪しいですし、真偽官を呼ぶ必要があるでしょう。そこでなんですが……」
「そういえば用件があったんだったね? 結局それって何だったの? まだ聞いてないけど」
「実は結構な魔石を買ったのですが、なかなか上手く【聖潔】を使える者が居なくてですね、それでミク殿に魔石の浄化をお願いしたかったのです。【真偽判定】用の紙が作れなくて困っていまして……」
「ああ。いきなり魔法陣が間違ってるから直せって言われてもね、何度も何度も反復して覚えちゃってるだろうし、それを変えるって簡単には出来ないと思う。間違えて覚えてるだけに大変よねえ」
「それぐらいなら良いけど、それってどこ?」
「御案内しますので、ついてきてください。探索者ギルドに関しては、陛下に監視を上奏しておきます」
監視と言われた瞬間「ザワッ」としたが、エルフが入り込んでいたのは事実の為、そこまで反発は無かった。その少し後に兵士が来たので任せ、ミク達を案内する第三王女。
貴族街を抜け王城に行き、何やら倉庫のような場所にやってきた。そこには山のように積まれた魔石があり、1つ1つの魔石に【浄化魔法】を使っている人物が複数見える。どうやら王城に勤めている魔法使いらしい。
ミクはそんな連中を気にする事なく、魔石の山に【浄滅】を使う。大きな魔法陣が魔石の積まれた地面に現れ、神々しい光が噴き出すと、一気に全ての魔石が浄化された。
「魔石の浄化は終わったけど、これからどうするの? あれ砕いて魔水を作って、それに浸して乾燥しなきゃいけないんだけど……随分と時間が掛かるし間に合いそう?」
「時間は掛かりますが、やるしかありません。この魔石で作られた【真偽判定】用の紙があれば、エルフどもの工作を暴く事ができます。我が国としては何としてもやらねばなりません」
「そう。じゃあ、コレあげる」
ミクはアイテムバッグを探るフリをしながら、右手を肉にして魔剣を取り出す。本体空間では既にワイバーン製の魔剣が完成している。実験も終えており、渡しても問題ないのだ。
「これは水ダンジョンの第6エリアで見つけた魔剣なんだけど、水分というか水を含んでいる物に浸けて魔力を流すと、水分を強制的に気化させるの。だから乾燥に役立つよ」
「はあ……えっ、魔剣! 乾燥!? ……いったい、どういう事でしょう!?」
「だからー。これは魔剣で、水を含んだ物に使うと水分を無くすの。だから簡単に乾燥できるようになる。これ使って【真偽判定】用の紙を作ればいいの。面倒だからこれ以上は説明しない」
「ええっと、これは水分を無くす魔剣だと。で、乾燥させられるから、これを使って紙を量産……。魔剣をそんな事に使うんですか?」
「あのね、魔剣っていったところで唯の道具だよ? そもそも剣だって殺す為の道具でしかない。で、ある以上はどう使うかだよ。剣は切る事にしか使っちゃいけない訳じゃない。使い道が他にあるなら、そっちでも使えばいいんだよ」
「まあ、ミクの言い分は極端かもしれないけど、早く【真偽判定】用の紙を作らなきゃいけないんでしょ? だったら手段に拘ってる場合じゃないと思うけどね」
「そ、それは……そうですが……いえ、そうですね。自分達が苦しいのに手段に構ってなどいられません。大事なのは結果を出す事であり、その過程を気にしている余裕など今の我が国にはありませんね」
「ま、そういう事で。じゃあ、私達はこの辺で帰るから」
「えっ、あ、はい。ありがとうございました……」
ミクとアレッサは滑るように王城の倉庫から出ると、軽やかに逃走する。余計な事に巻き込まれたくないうえ、王太子に出会うと絶対に面倒な事になる。それは2人に共通している意見なので、王城には長く居たくないのだ。
魔剣も押し付けられたし、素早く逃走して貴族街から平民街へ、そして王都を出たミク達は爆走する。【陽炎の身体強化】を使って一気に走り、圧倒的な速さで砂漠をひた走っていく。
ラクダやフッタルにドーモスに乗る人達も見えるが、ミクとアレッサは気にせず物凄い速さで走って進む。第2オアシスまではそこまで遠くなく、ミク達の速さだと楽に着いてしまうのだった。
第2オアシスに入ったミク達は、遅めの昼食を食べる為に食堂へと行く。大銅貨6枚を支払い注文すると、席に座ってゆっくりと待つ。ようやくジャンダルコの王都から脱出できた。その事に安堵しつつも、どう帰るか悩む。
フィグレイオでは牢に捕まっていたから気にしなくても良かったが、この辺りでは他人の目を気にしなければいけない。どのタイミングでピーバードになろうか、その事に悩みながらも運ばれてきた昼食を食べる。
「誰に見られてるか分からない時間に飛んでいくのは難しいわよね? でも夜は宿に泊まってないと不自然だし……」
「どうかな、ウロウロしてたら良い気もするけどね。ある程度の時間になったら砂漠に出て、そのまま夜まで待てばいいと思う。どのみちオアシスからオアシスの間に誰も居ないでしょ、夜は」
「まあ、そうだけど、オアシスから出るのを止められない? それと暑いのは厳しい。走ってる間は風で涼しかったけどさ、それでも多少だけだよ。そもそも熱風みたいな風だし」
「そこは諦めるかしかないね。もしくは宿を一日だけとって、朝には居なくなってるとか? ちょっと不自然だけど、それなら勝手に処理してくれるでしょ」
「うーん……そっちの方がマシかなぁ。朝早くに出て行ったとか思ってくれるだろうし、砂漠に徒歩で出る程には不自然じゃないと思う」
「でもフッタルに乗るより遥かに速かったけどね。乗り物に乗った方が楽なのかもしれないけど、目的地の方角なんかが分かってるなら、圧倒的に走った方が速い。あれらは遅すぎてイライラする」
「ほんとにね。驚くほどに遅いし、その所為で耐える時間が長いのよ。朝に出て夕方に着くとか尋常じゃなかった。正気か疑いたくなるぐらいよ」
「ま、それなら一泊だけとろうか。朝早くに出ると言っておけば、気にもされないでしょ」
「それで大丈夫だと思う。思っている以上に他人なんて気にしていない、そんな事はよくある」
遅い昼食を食べ終わった2人は、宿に行って大銅貨5枚を支払って2人部屋を確保した。後はゆっくり休むだけだと、アレッサはベッドに寝転がろうとするが、それより早くミクが綺麗にする。
水と巨大ミミズの体液でグチャグチャになったのを忘れたのだろうか?。
「ある程度は砂漠で綺麗にしてくれたから忘れてた。そういえば、巨大ミミズとの戦闘があったんだっけ?」
どうやら本当に忘れていたらしい。ミクは呆れつつも丁寧に綺麗にしてやるのだった。




