0190・水ダンジョン・第5エリア
「あー、疲れたー……。まさかあんな面倒臭いボスだとは思わなかったけど、中身は脆かったみたいね。ミクのように焼き尽くさなくても、周りから一斉に攻撃し続ければ勝てたんじゃない?」
「だろうね。代わりにソロだと苦しいボスになると思うよ。事前に知識があったとしても簡単じゃないだろうし、あのボスは多人数推奨だね。報告する義務は無いからわざわざ教えないけど」
「それは、そうでしょ。先行した連中は聞かれるから答えなきゃしょうがないし、自分達が最初だっていう証明もあるから喋るだろうけど、わたし達が伝えてやる必要が無いもの。聞かれたら答えるくらい?」
「だね。とにかく脱出の魔法陣の近くは泥が無いから、ここで落としてから出よう。いくよ?」
ミクが【清潔】と【聖潔】を使って汚れを落とし、泥が付いていない事をお互いに確認したら、脱出の魔法陣で出る。その後は一旦王都に戻り、食堂で大銅貨6枚を支払い昼食を注文。席に座る。
周りに居る者達も探索者なのか、第4エリアの事が多く話題に上っている。そんな中、少々違う話題を話している者達が居た。
「第5エリアに初めて行ったのは、どうやら<サンドローズ>の連中らしい。あの女3人組が第5エリアなんて驚きだけど、いったいどんな物を用意したのやら。金さえありゃ攻略できるんだろうよ」
「確か侯爵家の娘と伯爵家の娘2人だったか? 道楽でやってんのかってケチつけた連中が半殺しにされたのは。あれから<サンドローズ>に喧嘩売る奴等はパッタリ居なくなったし、オレも喧嘩を売る気はねえ」
「ケッ! 所詮この世は金だ。金がありゃ何でも出来んだよ、下らねえ。探索者も辞めちまうか、バカバカしい」
「それじゃ唯の負け犬だぞ。そもそも向こうは金かけて良い装備を整えてるうえ、魔法が撃てる魔道具とかも持ってるらしいが、だからと言って連中が努力してねえ訳じゃねえだろ。少なくとも半殺しは見てたヤツが多く居るんだ、実力はある」
「ハッ! 世の中を渡って行くには、長い物に巻かれるのが一番だからな。おめぇも落ちたもんだ」
「そこまで言うなら、今すぐ<サンドローズ>に喧嘩売って勝ってこいよ。お前だって勝てないって分かってるから、こんなトコで愚痴言ってるだけなんだろうが。落ちたのはどっちだ?」
「………」
流石に冷静に指摘され理解したらしい。バカなヤツなど知った事ではないが、<サンドローズ>という名前は覚えておこうと思うミクであった。ちなみにアレッサは最初から聞いておらず、そもそも分かっていない。
2人の席から遠かった事と、他にも多くの声があって聞き取り辛いのが理由だ。怪物の聴力と聴覚であれば何の問題もないのだが、アレッサは普通の人間種より少し良いという程度である。それでは無理であろう。
昼食を終えた2人は王都を出発し、ダンジョンへと向かう。再び歩いていくものの、アレッサは相変わらず暑そうだ。特に時間も時間なので一番厳しいのだろう、口を開く様子は無い。
ダンジョンに着いた2人は、さっさと第5エリアへのショートカット魔法陣に乗る。
転移が終わり目の前に見えたのは岩場と海であった。今度は水というより完全に海なのだが、何処までこのダンジョンは厄介なのだろうか? そんな事を思いつつ岩場を歩いて進んで行く2人。
少し歩くとすぐに魔物が現れたが、それは岩場の陰から顔を出した亀であった。それなりに大きい亀であるが、そいつが魔法陣を描き魔法を発射してきた。ミクは持っていたカイトシールドで防ぎ、こちらも同じ魔法で返す。
水の弾が飛んでいき亀の顔に当たると、亀は怒ったように魔法を連射してきた。全てカイトシールドで防いでいると、こっそり近付いたアレッサが首を切り落として終わる。なんだか呆気ない最後であった。
「なんだかブルータートルに比べて随分と貧弱な感じがするね。海の中に逃げ込めるからかな? エストックで首が切れたよ」
「確かにね。この階層というかエリアでは、遠くから魔法を撃つ役目なのかな? さっきのは多分【水弾】だろうし、これでようやく4属性の初心者魔法が揃った。【水魔法】はリッチが使おうとしてた【蒸球爆】しか知らなかったんだよねー」
「それ最高ランクの魔法……。何で最高ランクの魔法しか知らないのって思うも、それがミクだと言われれば黙るしかないんだよね。そもそも【蒸球爆】って大爆発する魔法じゃん」
「そう。凄く大きな水の塊を相手にぶつけ、その瞬間に全て気化させるって魔法。結構な量の水と一瞬で気化させる所為か、相当の魔力を消費するみたい。儀式魔法なのは分からなくもないかな?」
「よく分からないけど、とんでもない魔法だっていうのは分かった。とりあえず普通の魔法でお願いします。そんな味方ごと殺す魔法は止めて下さい」
「だから使ってないじゃん。私1人なら使うだろうけどね、お試しで」
そんな話をしつつ進んで行くと、大きな馬の魔物が現れた。尻尾が魚の胴体のようになっているので、もしかしたら泳げるのかもしれない。凄まじい鼻息の荒さをしており、今すぐにも突撃してきそうである。
黙ってカイトシールドを前に出し、左半身で構えるミク。素早くミクの後ろに隠れるアレッサ。そして突撃する馬。当たった瞬間、ドゴォン!! という音が響く。
大きな馬と人が衝突したようなものだが、突撃と盾の争いは盾に軍配が上がった。ある意味で当たり前ではあるが、盾の側も突っ込んでおり、お互いに正面衝突している。しかし結果は真逆となった。
盾の方には何も無いのに対し、馬は少し後方に飛んだ後、地面に倒れて呻いている。凄まじい衝撃ではあったが、肉塊には効かない程度でしかなかったという事であろう。しかも不動である。
ぶつかった地点から微動だにしていない事が、肉塊の凄まじさを物語っている。ミクはさっさと馬の首にウォーハンマーを振り下ろして止めを刺した。その後はレティーに血抜きを頼み、周囲を確認する。
「あー、耳が痛い。凄まじい爆音だったわね。しかも大きな馬に対して勝つなんて思わなかった。普通は体重が重い方が有利な筈でしょ? 幾ら本体は重いとはいえ、分体の方はそこまでじゃない筈」
「一時的に増やす事は出来るけど、本体に比べれば分体は軽いね。でも微妙に下から当たってるし、私も突き上げるように当たってるから、結果としてああなったんだと思うよ? もちろん当たる時に重くしたんだけど」
「………うん。よく分からないから考えるのを止めるよ。それより、この馬って使えそう?」
「肉は普通に美味しそうかな? それに皮とかも使えるんじゃない? だって海の中でも泳いでそうでしょ。なら少なくとも海水には強いと思う。それ以外は見ただけじゃ分からないね」
『血はそれなりに美味しいです。ここの亀の血は美味しくないですけど、代わりに馬がそれなりに美味しいのは良かったですよ。量が多いですし助かります』
「まあ、大きめの馬だもんね。結構な血の量してるでしょうし、馬の肉も普通に食べられる物みたいだし。変なものじゃなきゃ、少なくとも普通の血の味はしてるんじゃない?」
適当に血抜きの風景を見つつ、ボーッとしているアレッサ。それとは違って1方向をジッと見ているミク。
その事に気付いたアレッサがミクの見ている方向を見ると、何やら人間種が3人居るのが見えた。
「さっきの食堂で、<サンドローズ>とかいう3人組が第4エリアを突破したって噂してた」
「<サンドローズ>………。もしかして女性3人組?」
「そう。しかも貴族令嬢」
「うげぇ……」
少女が出すような声ではないと思うが、貴族に対する感情が如実に表れた声である。




