0187・セイルディア王太子
結局、ミクが最初に裏拳で殺した奴を含めて12人。これが王城に入り込んでいたエルフの全員だった。ただし使用人に限った話であり、貴族などの高位の者は分からない。そちらは王太子が行っているのでミク達には関わりの無い事だ。
「これで全員が終わったんだけど、終わりだよね? それともまだ私達がしなきゃいけない事があるの? 後で呼び出されるのは面倒だから、あるなら早めに言ってほしいんだけど……」
「おそらくは終わりだと思うのですが、王太子殿下の方が終わったのかどうか……。あちら次第ではまだ分かりませんので、私にも何とも……」
「じゃあ行ってみたら良いんじゃない? 向こうに言って必要無いって言われたらわたし達は帰るし、必要なら手助けすればいいだけだしね。その方が早いと思うよ?」
「ですね。アレッサ殿の言う通り、向こうへ行ってみましょう。駄目なら近寄るなと言われるでしょうし、そうなったら解散という事で報酬をお支払いします」
そう決めた第三王女と共に、ミク達は王太子が尋問している場所へと行く。すると、何やら大きな声で喚いているのが聞こえてきた。貴族という面倒な連中が騒いでいるのだろう。
第三王女が小ホールの扉を開くと、中から貴族達のブーイングがかなり聞こえてきた。その中で王太子と思わしき人物が椅子に座り、涼しい顔で聞き流しているのが見える。
ジャンダルコの王とよく似た顔をしているが、こちらの方が幾分かは眼光が鋭い印象を受ける。そんな程度の違いくらいで、親子ソックリだと言える顔だった。非常に分かりやすい。
「ニムフィスか。いったいどうしたのだ?」
「はい、王太子殿下。私どもの方は終わりました。使用人などの中に入り込んでいたエルフは12名。死亡した1名以外の全員を捕縛し、既に地下牢に送りました。私達の方は終わったのですが、解散して良いものか分からず……」
「成る程、丁度良いところに来てくれた。どうにも【真偽判定】の内容が合っていない気がするのだ。判定内容はしっかり出ているのだが、【真偽判定】の紙が信用できんのでな」
「昨日【聖潔】の魔法陣を教えていただきましたが、1日では【真偽判定】用の紙は用意できませんからね。ミク殿、すみませんが……」
「これね。まあ3枚くらい出しておけば大丈夫かな? 後はそっちで何とかする? それともアレッサも加えた方がいい? 私達としてはどっちでもいいけど……それよりアレッサ、犯罪者は?」
「アイツとアイツと、ソイツとコイツ。流石は貴族というべきか、さっき言ったヤツ以外は全員犯罪者。貴族っていうのは汚れまくってるねー」
「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」
「アレッサ殿は【罪業看破】というスキルを持っています。それは<白の壁面>で証明されました。つまり、見ただけで犯罪者が分かるのです」
「だ、だからと言ってその小娘が嘘を吐いていないという保証がどこにある! そこの小娘が嘘を吐いて我らを犯罪者に仕立て上げようとしておるのだろう!!」
「【罪業看破】を持ってるからって、いきなり吠えて暴れ始めたね? むしろ怪しいって何で理解しないのかな? ついでに言うと、だから【真偽判定】をするんじゃん。当たり前の事も分からないの? 犯罪者だから?」
「うぐっ………!」
「貴族にあるまじき醜さだな。大声で喚き散らす等という野蛮な事をしておいて、己は貴族だと言う気か? 呆れてものも言いたくなくなる。何でも、追い詰められたエルフどもも大声で喚いておったそうだぞ?」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
流石にジャンダルコの貴族としては、エルフと同じような事をしているというのはマズい。自分の罪が暴かれるから抵抗したいのだろうが、ここで激しく抵抗すると余計に自分の立場が悪化してしまう。
その事に気付いた者達は、一斉に顔を伏せ何も喋らなくなった。この場に居た真偽官はミクの出した紙を使い、王太子の命令で再び【真偽判定】を始める。
王太子と第三王女が見守る中、次々と暴かれていく貴族達の罪。どうやらミク達が来るまでと違い、曖昧な言葉で逃げられなくなったようだ。全部で8人居た真偽官の内、実に6人が買収されていた事も発覚。
その6人はとっくに拘束され、残った2人とアレッサが【真偽判定】を担当している。
「真偽官の不正は古くからずっと言われていたが、まさかあんな下らない方法だったとは。最初に見つけた者は何を思って使い、他の真偽官に伝えたのか理解に苦しむ」
「そうでございますね。まさかゴブリンの魔石を握っていれば判定を変えられるなど……。もちろん【真偽判定】用の紙もゴブリンの魔石で作る必要があるそうですが」
「そういう意味では、本当にゴブリンというのは碌な魔物ではないな。人間種に対しても冷酷で卑劣だそうだが、【真偽判定】の紙にすら卑劣な事をするとは……。そんな物を悪用する者はゴブリンと同じだ、我らブラウンエルフではない」
「「「「「「………」」」」」」
近衛騎士に拘束されている真偽官6人が項垂れているが、完全に自業自得だし、それ以前に犯罪者を無罪にしたという犯罪者である。そんな犯罪者が何故落ち込んでいるのか理解できないミク。
まあ、どうでもいいかと思いつつ見守っていると、エルフがいたので素早く動く。立ち上がろうとした瞬間に殴りつけ、意識を刈り取り近衛騎士に捕縛させる。
「先ほどの大ホールでもそうでしたが、ミク殿は本当に速いですね。相手が動いて暴れる前に殴りつけますから、逃げられずに済むので助かります」
「そうなのか?」
「はい。騎士達も動こうとしているのは分かっているのですが、見て、確認して、動く。それは素早くやろうとしても限度があると、そう申しておりました。しかしミク殿は近衛騎士達より速いのです」
「私はいつでも動けるようにしてるのと、見ている場所が違うからだよ。近衛騎士は多分だけど全体を見てるんじゃない? 私は足や腰の筋肉や関節の動きを見てる。そういう違いだけじゃないかな?」
「筋肉や関節の動き……ですか?」
「そう。立ち上がるという動作をする場合、まずはどこが動くのか。関節はどういう風に可動し始めるのか。どこに力を入れて、その結果他の部位がどう反応するのか。そういったところを見てるんだよ」
「「「「「「「「「「???」」」」」」」」」」
「一応言っておくと、達人というのは服の上からでも筋肉の動きが分かるそうよ。だから相手がどう攻撃してくるか分かるんだって。そう聞いた事があるけど、ミクがやってる事も多分同じ事だと思う」
「人間種の体というのは大した違いが無い。だからどんな種族でも殆ど変わらないの。どこかが動けば他の部位も連動して動く、それが人間種の体の構造。である以上は、それぞれを注視すれば大凡動きは分かる」
「それでも、それが出来るという事は達人という事であろう? とんでもないと思うが、そこまでの者だからこそジャインアントワームを一人で討伐出来るのであろうな」
「「「「「「「「「「ジャイアントワーム!?」」」」」」」」」」
わざわざ言う必要の無い事を王太子は言った。ここに居る貴族連中を牽制する為であろうが、ミクは王太子を面倒臭いヤツ認定する。そして、それ以降は黙って貴族連中の監視に戻った。
ついでに、それを見たアレッサも王太子を面倒臭いヤツと認識したようだ。今回の事以降は関わる気も無いので、さっさとダンジョンを攻略したらゴールダームに戻ろうと思う2人であった。




