0183・やる気の出ないボス戦と酒場での一幕
迷宮タイプのエリアを早歩きで進んで行く2人。こんな面倒な場所など一気に攻略してしまおうと進んでいるが、石壁迷宮である為、そう簡単には進めない。何といっても、強制的に順路が決まっているのが厄介だ。
絶対にショートカットが出来ず、決まった道筋を進まないと突破できない。迷宮の壁は壊せない事で有名であり、ミクなら壊せるかもしれないが、それではルール違反で面倒な事になりかねない。
<星の神>ならばいいが、<根源の神>が出張ってくると面倒なので、ミクとしてもその危険性は冒せない。なので真面目に攻略しているのだが、それでも他の探索者に比べれば圧倒的な速度で攻略している。
魔物を適当に蹴散らしつつ進み、ようやく30階のボス部屋前まで辿り着いた。1階層3キロ四方とはいえ、石壁迷宮なので随分とウロウロさせられ、精神的に疲れた2人。肉体の疲労は殆ど無くても、精神的な疲労は蓄積する。
「面倒くさかったねー、本当。ウロウロウロウロ同じような場所ばっかり。ミクがマップを覚えてくれてるから良いけど、それが無かったら階段が分からず、ずっと迷ってたかも。誰か知らないけど、よく攻略したって心の底から思うよ」
「本当にね。地図が貼り出されてて本当に良かった。地図を描いていれば何れは突破できたろうけど、それまでが面倒で、イライラが限界突破してたかもね」
「もし突破してたら?」
「多分だけど、壁を無理矢理に喰って突破してたと思う。壊せないって言われてるけど、私の牙ならおそらく喰い荒らせる筈。ただねー、やると<根源の神>に説教を受けそうな気がするの。だから出来ればやりたくない」
「まず出来る可能性があるって時点でおかしいんだけど、それは横に放り投げておくわ。それよりもボスをブッ殺したら、さっさと食事に行こう。時間も時間だし」
「そうだね。ゆっくりしようか」
体力もそこまで減っている訳ではないので、適度に休んだらボス戦へ。中に入ると膝までの水が溜まっており、それが開いたボス部屋の外へと流れ出る。扉が閉まるとすぐに注水され、膝の高さまでに戻った。
アレッサは前回同様に戦い難そうである。アレッサの膝ぐらいであるものの、それでも膝の高さというのはなかなかの水量だ。そんなボス部屋に魔法陣が現れ、ボスが出現する。出てきたのはマーマン5体だった。
「「………」」
それを見た瞬間に「スンッ」となる2人。見た事があるうえに「コイツラかよ……」と2人は思っている。唯でさえ大した事がないのに、初見ですら無い相手。梃子摺る事もないので、2人にとってはつまらないのだ。
「「「「「キシャァァァァァ!!!」」」」」
相手は気合い十分で攻めてくるものの、2人にとっては五月蝿いだけで全くやる気の出ない相手である。むしろ腹立たしいという思いまであり、結局八つ当たり気味に叩き殺して勝利。さっさと魔法陣で出るのだった。
ボスの情報も貼り出された紙に書いてあったのかもしれないが、よく読んでおけばよかった。そう思うも、過ぎてしまった事を考えていてもしょうがない。帰ってゆっくり休もう。そう思って帰り道を急ぐ2人。
王都ブランに戻り、面倒臭いのでいつもの酒場に行って大銅貨6枚を支払う。出てきた食事を食べていると、酒場に兵士達が入ってきた。中に入ってきた兵士達はキョロキョロすると、ミク達を目に留め、歩いてくる。
2人は表情に出さず内心で、「面倒臭そうなのが来た」と思っているが、兵士達は気付く事も無く2人の近くに来ると話し始めた。
「お前達がミクとアレッサだな。王命である、すぐに城まで来てもらおう」
「今、食事中なのが見て分からない? いちいち食事の邪魔をするな、外で待ってろ」
ダンジョンの事があったからか、いつもよりも乱暴な口調で対応するミク。とはいえ、食事中にいきなり来て「城まで来い」というのは、流石にマナーが無いと言われても仕方が無い。普通はそうなのだが……。
ドガッ! ガシャーン!! という音がし、ミク達が食事をしているテーブルが倒れた。ミクに話しかけてきた兵士がやった事であるが、こいつは余ほど死にたいようである。
「きさぶぅぁ!!?!!?」
ミクに殴り飛ばされブッ飛んでいく兵士。怪物の食事の邪魔をしたのだから殺されても仕方が無いのだが、殺してやるほど肉塊は甘くない。顎の骨は砕けただろうが、それは自業自得である。
王命に対してあっさり拒否した。その事に腹を立てる気持ちは分からなくもないが、食事時に来ている事を考えるべきである。他人の食事を無理矢理に止めさせ連れて行くなど、それこそ野蛮な行為でしかない。
「お前達の王が呼んでいるなど、どうでもいい。私の食事の邪魔をするなら……死ね」
ミクは【陽炎の身体強化】を限界ギリギリで行使する。これ以上にすれば【太陽の身体強化】になってしまう為、本当に限界ギリギリである。酒場の客も兵士も一瞬で気絶したが、強すぎる圧を受けて無理矢理に起こされた。
恐怖と凄まじい重圧で誰も動けない中、ゆっくりと兵士に歩み寄り、首を掴んだミク。そのまま握り潰すかと思われたその瞬間、アレッサが声を掛ける。
「はい、そこでストップ。ミク、それ以上やると面倒な事にしかならないわ。この王都に生きる全ての者を皆殺しに出来るけど、出来る事と本当にやる事は別だからね? そいつらがゴミなのは分かるけど、殺人は駄目」
「………チッ! 命拾いしたな貴様、アレッサが口を出さねば始末していたものを。ゴミなど生きる価値は無いのだ。貴様はあのクソエルフどもと何も変わらん、野蛮なケダモノめ」
そう言ってミクは酒場の入り口へと歩いて行く。アレッサも椅子から立ち上がり、ミクの後をついていくと、何故か入り口に王女達3人が居た。どういう事だと訝しんだが、王女達は安堵の息を吐いている。
「いきなり街中で凄いプレッシャーが膨れ上がりましたので、絶対にミク殿だと思い、慌てて走ってきたのです。それにしても良かった、まだ誰も死んではいないようですね」
「ギリギリだったけどね。私が止めなきゃ首を握り潰してたよ。だいたいさー、アレなに? 本当に兵士なの? 私達のテーブルを蹴飛ばして、料理がメチャクチャにされたんだけど?」
「何という事を………。私は陛下の命でミク殿達を城にお招きする為に来たのですが、生憎留守でしたので待っていました。しかし兵士が巡回で来た時に、気を利かせて探しに行ってくれたのです。それがまさか、このような結果になるとは……。まことに申し訳ございません」
「第三王女が謝る事じゃないけど、こいつらはエルフどもと何も変わらないね? 根っこはエルフだから仕方ないのかな? そう言いたくなるくらいだよ。食事中の所に押しかけてきて、テーブル蹴飛ばすとかさ」
「まあ、食事中に勝手に近付いてきて、「王命だから来い」は無いわよねえ。それが罷り通るって、どんな野蛮国家よ? っていう話だし。だって食事のマナーも知らないって事でしょ?」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
周囲の客も兵士に厳しい視線を向けている。言われてみれば、兵士の行いは食事のマナーも知らない蛮族の振る舞いなのだ。テーブルを蹴り飛ばすのは論外だが、食事の最中にいきなり「ついてこい」もおかしい。
その振る舞いこそ、ジャンダルコ商王国を穢す行為である。流石に庶民でも説明されれば理解するのだが、その程度にも思い至らない兵士というのは……。
国家の程度を示していると言われても、文句は言えまい。




