0179・酔っ払いとの雑談
「という事はブレスはロマンで終了かー。………つまんない」
「いや、つまんないってねえ……。そもそも4本足の竜種が、手足を使わずに放つ為に口から撃つんだそうだよ? だから2本の腕を器用に使う者には意味が無いのさ。言われれば成る程としか思わないけどね」
「ああ、確かに想像してみればそうね。手足は地面についているか空を飛んでる訳だし、あの手足で魔法使うのも……。そう考えると口からってのは理に適ってる、のかな?」
「どうなのかしら? 別に口から吐く必要が無いんだから、それで良いじゃない。ロマンは欠片も無いけど、世の中なんて大抵そんなものよ。それに顔に近い所から発動するのもね、考えてみると怖い」
「あー……それは本当にそうだ。竜種みたいに口が前に突き出てるなら良いけど、人間種の口じゃ顔に近いじゃない。そこでブレス吐いたら大火傷かしら? それとも凍っちゃう?」
「どちらにしたところで、ロマンの欠片も無いから、人間種がブレスを吐くものじゃないわね。それよりミクは何で戻ってきたの?」
「そうそう、その甕を返してほしいのよ。だから残っているお酒は適当に注がせてもらうわね。そうして本体空間から出してきて、っと。さて、今から移し替えますか!」
「「「………」」」
自分達が飲んでいた甕だって、小さいとはいえそれなりには入るのだ。にも関わらず、ミクが取り出したのは明らかに大きな樽だった。出てきた物はワインを寝かせる際の樽の大きさだ
元々イリュの部屋に置いた甕は、日本酒の小樽と言えば分かるだろうか? あれぐらいの大きさの物である。小さめの甕と言っても結構な量が入り、3人でもそれなりに飲んだ方であろう。
しかし今回は明らかに大きい。その分長く楽しめるであろうが、3人の心境は「勝手におかわりが来た。どうしよう?」であった。
「腐らせるのも勿体ないし、頑張って飲んだのにね? あんなに大量の追加が来たけど、どうしよう。このお酒って思っている以上に強いのよ」
「まあ、アルコール発酵って基本は糖、つまり甘味をアルコールに変えてる物なんだよ、だから甘い物ほどお酒になるの。一度お酒にした後、追加で砂糖を入れて更に発酵させる物もあるらしいし」
「「「へー………」」」
酔っているからか、分かったような分からないような声を出す3人。そんな3人に現在の状況を話しておく。
「一応言っておくんだけど、私達は無事に王都ブランに辿り着いたから。明日から水ダンジョンの攻略だけど、そこまで時間は掛からないと思う。ただし王族が絡んでくると分からないけど」
「??? ……どういう事? 何かあったの?」
「ジャンダルコはかなりエルフに入られてる。アレッサの【罪業看破】と【真偽判定】でかなり暴いたんだけど、それでも足りてないうえに王城の中にまで入り込んでる可能性がある」
「それは、また……。国家の中枢に怨敵が入り込んでるって、相当マズい状況じゃない。よくジャンダルコ商王国は無事だったわね」
「第二王子が剣を下賜してたじゃない? あれは呪いの剣だったんだけど、あの剣自体は王城の宝物庫の中にあった物だった。どうも危ないから封印されてたっぽいね。そしてそれを下賜させたみたい」
「第二王子の後ろ盾が?」
「そうそう。オートレオ伯爵という貴族。で、話は変わるんだけど、砂漠に入る手前の町であるサデンで、王族用の屋敷に行ったのよ。そしたら中で働いていた執事長がエルフだった」
「あらら、その地位にある奴がエルフって相当ヤバいでしょ? 深く入り込まれすぎでしょうに、幾ら別荘扱いとはいえ」
「そのエルフは魔道具でブラウンエルフの髪色と肌色に変装してたの。そして話は戻るけど、オートレオ伯爵っていうのも同じネックレスの魔道具をしてたんだって。それは第二王子が知ってた」
「あっちゃー、そりゃ駄目だ。何処かで入れ替わり乗っ取られたか、最初からエルフだったのか。その辺りは分からないけど、そこまで入り込まれてたら駄目だね。逆に言えば、それでも戦争はしないんだよ、エルフィンは」
「あの砂漠の攻略、その目処が立たないんでしょうね。砂漠という天然の要塞が、エルフ軍という者達を防ぎ続けてるという事よ。ジャンダルコの建国王は何も間違ってなかった、だからこそ入り込む事を選んだってところかしら」
「そもそも砂漠を越える為に軍を進めるって、自殺行為だからねぇ、完全に。とてもじゃないけど士気は保てないし、何処まで進めるかも分からない。乗り物だって軍全体の分は無い。だから徒歩になるんだけど……」
「徒歩で砂漠って唯の拷問よね? 更には第一オアシスや第二オアシスなんて駐屯できる場所じゃないし。でも町の外で休ませたら、間違いなくポリフェウスに襲われるでしょう。正に地獄ね」
「<砂漠の亡者>かい? 群れで徘徊していて、獲物だと思えば獰猛に襲ってくる。時にはあのジャイアントワームさえ喰うっていうんだから驚くよ。普段は砂漠の魔物を食ってるらしいけどさ」
「イエロースコーピオンとかサンドモールに、野生のフッタルにドーモスなんかを食べるらしいわね。砂漠では最も出遭ってはいけない相手と言われてるけど、ミクが相手じゃねー……」
「殺されるというか、喰われるだけよね。そもそも喧嘩を売っちゃいけない相手なんだし、それはジャイアントワームでも変わらないでしょ。仮に出てきても、あっさり殺されて終わりじゃない?」
「終わったね。長巻で腹部分? を切り裂いてやったら、体液ブチ撒けて死んだよ」
「「「………」」」
砂漠において理不尽の権化と言われるジャイアントワームは弱くはない。何故なら大きな体と体重を浴びせる攻撃、更には簡単に切れないし貫けない弾力のある皮膚。
これらを持ち暴れ回る為、理不尽の権化と呼ばれるのだ。しかしそれ以上の理不尽が、今はこの星に存在してしまっている。
「<ノーライフキング>もそうだけど、最強の怪物の前ではどうにもならないという事でしょうね。あまりにも最強すぎるし、存在自体が既に理不尽なんだし。どうしようもなくて当たり前なのよねー」
「そもそも神様が創り、育て、送り出された最強の存在よ? 地上に居る者達でどうにか出来る訳がないわ」
「ハッキリ言って、それ以前の問題。皆は気付いてないみたいだけど、私は星の全てを敵に回して勝てるように創られてるからね? ノーライフキングとやらも、ジャイアントワームも、星全体の一部でしかないんだよ?」
「「「………」」」
今さらながらに最強の肉塊というものの意味を知ったらしい。星の全てを敵に回してなお勝利する存在。それも可能性ではなく確実に、である。
冗談でも何でもなく、ノーライフキングやジャイアントワームなど、本来想定された敵の一部でしかないのだ。そんな一部に肉塊が負ける事などあり得ない。それが全てである。
ミクはそろそろ王都ブランに帰ると言い出て行ったが、残された3人は完全に酔いが冷めてしまっていた。
誰が言い出したわけでもなく今日はお開きとなり、各々は自分の部屋へと戻る。イリュは自分のアイテムバッグに酒樽を入れながら、ミクを創った際の想定がおかしい事に気付く。
そもそも”星の全てが敵に回る事”など、あり得るのだろうか? そう考えた時、答えに思い至る。ミクが星の全ての者を敵に回さざるを得なくなる存在、即ち<星の神>の事を。
少し硬直したものの、すぐに動き出す。たとえ<星の神>でも勝てない事にも思い至ったからだ。何故ならミクを創ったのは<根源の神>であり、<根源の神>は神々の頂点なのである。
つまり考えても無駄であり、無意味なのだ。それを理解したイリュは、さっさと自室に戻っていった。




