0176・謁見の間
貴族街への門も抜け、周囲にいる人の数も疎らになった為、ようやく安堵の息を吐いた一行。ミクやアレッサも気は抜いていないが、それでも「ホッ」としたのが実情だ。
流石に平民街は数が多すぎるし、あそこでは普通の兵士のように警戒するしかない。ミクとアレッサの能力があまり活かせない場所なのだ。それぐらい護衛というのは厄介だと言える。
貴族街を更に進み、王城の門の前までやってきた。第三王女が話し、ミクとアレッサの通行も許可されたようだ。そのまま王城に入る事は出来ないので、厩舎に行きフッタルを預ける。
兵士や騎士専用の厩舎があるのだが、中にはフッタルも居た。大半はラクダのようだが、フッタルも使われているらしい。何故かは知らないし、聞く時間も無いので城へ。
ミクとアレッサは素直についていくが、騎士達は既に騎士団の建物に移動したらしく、王女とオルティマとイヴィエルテしかいない。そんな中をついていっているので、目立つ2人は周りからジロジロ見られている。
「そんなに珍しいかな? 人間が珍しいのか、それとも王女についてきている者が珍しいのか……いったいどっちだろうね?」
「さて、どっちなんだろう? 人間を見るのも珍しいのかもしれないけど、全く居ない訳じゃなかったし、なんとも言えないところかな。ジロジロ見てくるのは別の理由だろうけど」
「別?」
「王女についていってるから、単なる嫉妬か何かでしょ。わたしの【悪意感知】に反応あるし、ミクだって分かってて言ってるよね?」
「当然。だっていちいち鬱陶しいじゃん。あんた達がやってる事はバレてますよー、って言っておいた方がいいと思ってさ。【悪意感知】持ちにバレない筈がないんだし」
周りのメイドや執事や兵士達は、一斉にミクとアレッサから視線を逸らす。「田舎者が」とか「平民が」と思っていたら、相手は【悪意感知】持ち。表で澄ましていても、心の中はバレバレである。
そしてこういうものは、バレれば恥にしかならない。だから一斉に視線を逸らし、何も考えない事にしたのだ。腐っても王城の者達、自分の制御方法は知っているようである。
ミク達は案内された部屋で待ちつつ、休憩をとっていた。それは王女達も同じで、出された茶にハチミツを入れて飲んでいる。ちなみにハチミツはミクの出した第6エリア産の物であり、少量ならとても美味しくなるようだ。
「まさか、あの甘すぎるハチミツが、ここまで素晴らしくなるなんて思いませんでした。驚きと言いますか、あり得ないとさえ思ってしまいます。何事も、やってみなければ分かりませんね」
「本当に。砂漠茶がここまで美味しくなるとは思いませんでした。甘さも然る事ながら、香りが素晴らしいです。ここまで馥郁たる花の香りがするとは……」
「逆を言えば、これ程の香りが閉じ込められている訳ですから、薄めずに舐めるのがどれほど危険か分かります。薄まってコレですからね、凝縮している最初を考えると……」
「「………」」
「あっ、そうだ、思い出した。作ってたミードがそろそろ飲み頃だろうから、アレッサは今日の夜に試飲ね。私お酒の味とか分からないから」
「ういうい、りょうかーい。このハチミツでのミードでしょ? ちょっと怖いけど、かなり楽しみ。どんな味になってるのかなぁ」
「「「………」」」
大人のミクが飲まずに、子供のアレッサが飲むのは……。などと考えている3人だが、その時部屋の扉がノックされ、中にメイドが入ってきた。
「失礼いたします。陛下がすぐに御会いになられるとの事でございます」
「分かりました。皆、行きましょう」
再び案内のメイドの後ろをついていき、大きな扉の前に立つ。その扉が開くと、向こうの方にブラウンエルフの青年が見えた。どうやら今の王は若い見た目らしい。寿命が寿命なので分からないが、元気そうである。
そんな謁見の間を進んで行き、王女が立ち止まった場所で、足を引いて片方の膝を地面につけながら頭を下げた。オルティマもイヴィエルテもしたので、遅れてミクとアレッサも行う。
「うむ。ニムフィスよ、ご苦労であった。そなたが手に入れてきてくれたエクスダート鋼は受け取るとして、何か余に話しておきたい事があると聞いたが?」
「はい、陛下。実は国に戻る際、サデンの町の屋敷を使ったのですが、そこにエルフが紛れこんでおりました。そしてエルフはこのネックレスで、ブラウンエルフに姿を変えていたのです」
「なに!?」
周りで聞いていた宰相のような人物や、大臣のような人物達も目を剥いて驚いている。そんな中、後ろから急に誰かが入ってきた。今は第三王女が謁見中なのにも関わらずだ。
「何事だ!? ……アルトム、そなたいったい何の真似だ?」
「申し訳ございません、陛下。しかし、由々しき事でございます。私の下に情報が舞い込んで参りました。ニムフィスがサデンの町の王族専用屋敷の者達を皆殺しにしたと!」
「は? ……皆殺し?」
「……兄上、何を訳の分からない事を。………もしや、証拠隠滅の為に皆殺しにしたのですか? そしてその罪を私に擦り付けようと?」
「何を言っている、ニムフィス! お前こそ私に罪を擦り付けようとしているではないか! 王都に居た私がどうやって左様な事をするというのだ!!」
「そもそも兄上に剣を下賜されたイヴィエルテは、その剣の所為で一ヶ月半も呪われていたのですが? あの<鮮血の女王>と呼ばれるイリュディナ殿と、その知り合いであるミク殿は気付いておられたようですよ?」
「なに!? 呪いの剣だと!? それは水ダンジョンで見つかった<傲慢の剣>ではないのか? 宝物庫の奥に封印されていた筈が、現在無くなっていると聞いておる。アルトム、そなたが持ち出したか」
「違います! 私は宝物庫にも近寄っていなければ、呪いの剣など知りませぬ!!」
「では何故イヴィエルテに剣など下賜したのです? 今までの兄上であれば、左様な事など致さなかったでしょう。何故急に剣を下賜などしたのですか? 明確な答えをお願い致します!」
「そ、それは……」
「アルトム、申せ。嘘は許さんぞ」
「その……オートレオ伯爵が、「剣を下賜でもすれば、ゴールダームでもイヴィエルテが王子の名を喧伝するでしょう」と言いましたので、それもそうかと思い……」
「では、その剣は何処から持ってきたのですか?」
「ちょっと待て、私が宝物庫に入ったと言う気か!? 私は入ってなどいない! あの剣はオートレオ伯爵が持ってきたもので、それをイヴィエルテに渡しただけだ! 私だって呪いの剣と知っていれば渡してなどいない!」
「陛下。私は兄上……第二王子アルトム殿下に【真偽判定】の実施を求めます。どうか許可をお願い致します」
「ふむ……」
「私が連れてきましたミク殿とアレッサ殿。このお二人のうち、アレッサ殿は【罪業看破】と【真偽判定】をお持ちです。実際、サデンの町の屋敷の者達も、アレッサ殿に【真偽判定】をしていただき、罪のあった者は兵舎の牢に入れたのです。私達は誰も殺してなどいません」
「……アルトム。お主はニムフィスが殺したなどと、何処で聞いた?」
「そ、それは……魔鳥が来まして、オートレオ伯爵からの手紙に……そのように書かれていました」
「……はぁ。何から何までオートレオの言う事を鵜呑みにしておったのか? 随分と都合のいいものよ、呆れるほどにな」
「………」
どうやら第二王子も段々おかしいと思い始めてきたようだ。下賜したのは呪いの剣、牢に入れた者が皆殺しになっている。明らかにおかしな事だらけなのだから当然であろうが。
だが、牢は……。




