0173・夜闇
夜。ミクはスッと目を開く。感知範囲に怪しい連中が入った為、すぐに蜘蛛の姿になって王女の部屋の扉前へと移動。そこの天井で敵を待ち構える。透明になっているので、見つかる事は無いだろう。
ミクは十分に対応できるギリギリの大きさの蜘蛛になっているが、宿に侵入してきた者達は真っ直ぐ来た後、天井のミクに気付く事なく王女の部屋を開けようとした。王女の部屋が何処かも分かっているらしい。
ミクは素早く触手を放つと麻痺毒を注入し、6人の暗殺者を完全に麻痺させる。刺した触手はそのままなので、床に倒れる心配は無い。暗殺者は何が起こったか分からずパニックになっているようだ。
暗殺者6人を本体空間へ転送した後、ミクはそのままの位置で待つ。理由は後続が居るからだ。何故まだ来るのかは分かっていないが、来る以上は待ち構える必要がある。
ミクが面倒臭くも待っていると、現れた後続は何故かミク達の部屋へと入ろうとした。慌てたミクは5人に触手を突き刺し麻痺毒を注入、その後に本体空間に送るも首を傾げてしまう。
狙いは第二王女であるニムフィスではなかったのか? なぜミク達の部屋に入ろうとした? 理解が出来ないものの、ミクは自分達の部屋に戻り、美女の体に変化してベッドに横になる。
レティーが全ての暗殺者の脳を食ったので、アイテムバッグと共に部屋へと転送。話を聞く事にした。
『話を聞いていくんだけど、まずは順番に聞こう。最初の6人はどうだった?』
『最初の6人は、この第二オアシスの裏組織である<夜闇>のメンバーでした。黒ずくめの怪しい者から、前払いで大金貨1枚を渡されており、成功すると大金貨が更に1枚です。黒ずくめが誰かは分かりません』
『成る程ね。その黒ずくめを探すより、そいつらのアジトを強襲した方が早そうだね。それで次の5人は?』
『そいつらも<夜闇>の者達です。主達を狙ったのはアイテムバッグを奪う為らしく、黒ずくめからターゲットを聞いた中に主達の情報もあったようですね。それで欲を掻いたというのが正しいところかと』
『バカな奴等がバカな事をしただけか……。うん? その<夜闇>とかいう連中の生き残りは居るの?』
『主が喰った者達が全てのようで、<夜闇>の者達は全滅しています。アジトは蛻の殻なので、誰かに奪われるかもしれません。奪うなら早めに行った方がいいですね。町の北西で、組織の名前と同じ<夜闇>という店を経営しています』
『了解。それじゃ、ちょっと行ってくる』
ミクは蜘蛛の姿で宿の部屋を飛び出し、町の北西にある夜闇という名の店に入る。商品などは全て無視して貨幣だけを回収。更には裏にある家にも侵入し、貨幣などを物色していく。
自転車操業だったのか大して無かったが、それでも回収して戻るミク。他に価値のありそうな物は無かったし、魔道具の類は持って行っても仕方ない。この星では未だ魔道具は完全受注生産だ。
なので職人の癖が強く出てしまい、何処の誰が作ったか簡単にバレてしまう為、そこから盗んだ事が明るみに出てしまう。
……1つだけ貰ってミクが作ればいいのでは? その事に気付いたミクは、1つだけ回収して出て行く。後はコレを調べればいい。
宿の部屋へと戻ったミクは、本体が数えた金銭を転送しアイテムバッグへと入れる。金銭は金銭であり、誰の物かを特定する事など出来ない。更には汚れなどが付いていても、ミクが綺麗にしているので無駄である。
仮に呪いが付いていても喰らうので、ミクに対しては何の意味も無いだろう。取られた時点で諦めるしかないが、犯罪者からしか取らないし、持ち主は既に死んでいる。ミクに文句をつけるのは無理だ。
『だからアイテムバッグを調べられても問題ないよ。小銅貨が71枚に大銅貨が47枚で小銀貨が35枚、後は大金貨が1枚か。思っている以上に少ないけど、雑貨屋ならこんなもんかな』
『暗殺業も多くなかったみたいですし、雑貨屋の副業みたいなものと考えればこんなものでは? そこまで流行っていない雑貨屋みたいですし、メンバーの中には探索者も居ました』
『えっ? そうなの? ……そうだったとしても、わざわざ連中の家を回るのもねー。いちいち面倒臭いから、もういいや』
『まあ、探索者ですから碌にお金を持ってないでしょうし、別に放っておいて構わないと思います。どうせ誰かが持っていくでしょう』
適当に放っておく事に決めたミクだが、黒ずくめに関する情報が無いのが気掛かりであった。暗殺組織に依頼したのは誰なのか、まだ第二オアシスに居るのか。その辺りは謎のままである
これ以上調べる事は出来ないので諦め、ミクは朝までの暇潰しを始めた。ちなみに本体が手に入れたのは、【灯り】の魔道具と【清潔】の魔道具だ。
これは魔道具でも特に多いので数があり、持っていっても目立たないと思って持って来ている。しかし、中にはもっと高価な魔道具もあったのに、こんなよく使われる魔道具を持っていく。
その事が逆に目立つというか、怪しまれるという意識は無いらしい。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
朝になり、日の出と共に起きたアレッサにミクは挨拶をする。適当に【浄滅】を使った後で雑談をするのだが、暗殺者が来た事を聞くと呆れていた。
「普通はさ、暗殺者ってもっと裏を掻かない? 何で予想通りに夜中に暗殺しに来るの? その結果あっさりと殺されてるし、欲を掻いて余計に殺されてる。幾らなんでもマヌケ過ぎでしょ」
「本当に優秀なら、こんな所で細々と暗殺者なんてしないよ。王都とかもっと大きい所に行ってやるに決まってるじゃん。ここに居るのは一流に成れない奴等でしょ」
「……まあ、そうだけど、身も蓋もない言い方だね。いや、情け容赦ない? でもそれって、いつものミクだしなぁ……」
「それはともかくとして、暗殺組織である<夜闇>から慰謝料貰ってきたけど、ショボかったよ。暗殺依頼の大金貨1枚以外は、最高でも小銀貨。幾ら売れない雑貨屋だって言ってもさー」
「殺された後に駄目出しまでされるなんて、不憫な連中。とはいえ暗殺なんてする奴等だから、自業自得で同情の余地は無いけど」
「そうそう。「コンコン」はいはい、開いてるよー」
「姫様が今日は早めに出発しようと仰られまして、今からですから部屋へと来てください」
「「了解」」
2人は王女の部屋に行き、護衛しつつ町の食堂へ。毒は無かったので安心し、ゆっくりと食事を食べて店を出た。今日は第三オアシスまでだが、第一から第二オアシスと同じぐらいの距離で着くそうだ。
夕方前には到着できると思いつつ、一行はフッタルに乗って進んで行く。相変わらずの風と砂のBGMだが、段々慣れてきたミクとアレッサ。意外に砂丘などがあると音が変わり、ちょっとした違いを楽しんでいたりもする。
魔道具は既に解体して再構築しており、その際に最高効率になるように変えた。それがミクらしい機能美になっているので意外に侮れない物になっている。装飾が無いのが装飾だ、と言わんばかりの美しさ。
これもまた美の1つであると、本体は自画自賛していたりする。実際には本当に最高効率か分かっていない。あくまでも、魔道具職人が作った物をより良くしたに過ぎないからだ。
それでも、そこが分かり改良できるだけで、肉塊の優秀さが分かるというものである。莫大な魔力と精緻な制御力。並外れた能力と才能。やはり肉塊はスペックが異常に高い。それが改めて分かる結果であった。
話を聞いていたアレッサは呆れ、「世の中の大半に喧嘩を売ってるなー」と思い、その後に「それでも勝てるんだろうけど」と色々な事を諦める。
それが肉塊なのだから仕方がない。きっと、そういう心境であろう。




