0170・怪しい違和感
「何か悩んでるって事は、何かが引っ掛かってる感じ?」
「うん。右往左往しながらこっちに近付いてきてたって事は、私達の中に何か引き寄せる物があったんだと思う。例えば魔物寄せのような物とか。で、ジャイアントワームしか来ないって事は、それ専用なのかもと思う」
「魔物寄せ……かぁ。可能性は無い訳じゃないと思うけど、その根拠は?」
「さっき厩舎の中に居た大ラクダが、私の方をジッと見てたんだよね。奇妙に思ってたんだけど、もしかしたら変な臭いが付いてるんじゃないかと思ってさ。それで臭いでの引き寄せを考えたわけ」
「まあ、可能性としてはあると思うけど、確定する為の情報は足りないね。ただ臭いだとすると……」
「明日からも狙われる可能性が十分にある。時間が経てば薄まるから大丈夫、なんて楽観的すぎるからね。ジャイアントワームへの警戒と対処を考えておいた方が良いと思う」
「それはそれで厄介な事「コンコン」よねー。はーい!!」
「すみません。少し早いですが、姫様が夕食にと仰っておられます」
「了解。すぐに用意するよ」
準備を整えたミクとアレッサは、王女達と騎士達と共に食堂へと行く。今日一日フッタルの背の上で疲れたのと、食事で気晴らしをしたいとの事で、酒は無いが少し豪勢な食事となった。
スタミナを付ける為か肉が多く、中にはポリフェウスの肉もあった。群れていて獰猛で、非常に危険な魔物ではなかったのか?。
「ポリフェウスは確かに危険な魔物ですが、日中はそこまで危険ではないんですよ。砂の下に隠れているので見つけるのは難しいですが、一旦見つければ後は倒すだけです」
「正しくは、日中だと群れないのです。砂の中に攻撃しても出てくるのは1頭だけで、他のものは攻撃されるまで出てきません。なので【気配察知】や【魔力感知】で見つけられれば、十分に狩る事は可能です」
「ですのでスキル持ちの探索者がオアシスに常駐していて、日中はポリフェウスを狩っています。なのでポリフェウスが町を襲ってくる事は滅多にないんです。それに夜は門も閉じられてますし」
「流石のポリフェウスも、門を飛び越えてくる事は出来ません。いえ、やらないと言った方が正しいですね。稀に入ってくるとは聞きますが、気付いた住民の弓矢で殺害されるそうですから」
「まあ、住んでる人達だって死にたくないし、安全に弓矢を撃って殺せるなら殺すわよね。流石に屋根まで上ってくる事は無いでしょうし」
「流石に無いでしょ。そこまで高い門じゃないから稀に越えてくるんでしょうけど、建物の屋根は倍ぐらい高いし。暑さの所為もあって高いんだろうけど、それが逆に安全な理由でもあるんだろうね」
「私達が泊まってる宿なんて2階建てだから、尚の事ありえないわね」
「そうですね。それに何かあっても宿の者が対処するでしょう。私達が動く必要はありません」
ミクとしては自分が離れている間に何かあっては困るので、何かがある前に戻ってくるか、処理しておきたいところである。今日はサデンの町に戻ってゴミどもを喰らってくる日なのだ。
せっかくの楽しみを邪魔された日には、怒れる肉塊が何をし始めるか分からない。出来得る限り何もなく、素直に行って帰って来てほしいと思うレティー。果たして上手くいくのであろうか?。
◆◆◆
夕食も終わり宿へと戻った一行は、各々の部屋へと入る。ミクはベッドへと寝転がろうとしたアレッサを触手で持ち上げ、【清潔】と【聖潔】を使う。その時にちょっとした違和感を感じた。
「………どうかした、ミク? 急に止まったけど、気になる事でもあったの?」
「今、何か変だった。【清潔】の時には何もなかったのに、【聖潔】の時に妙な違和感を感じたの。もしかしたらだけど、何かしらの臭いは体の中に入っている? 前にあった魔物寄せみたいに」
「どういう事?」
知らないアレッサにミクは説明する。<鮮烈の色>がタダで貰った物を飲んだが、それが魔物寄せだった事。体の中から臭いを発散し、長い時間作用し続けた事。
「それってヤバくない? ……でも、その時は【聖潔】で綺麗にならなかったの?」
「そもそも、その時は【聖潔】を使ってないよ。飲み物だったから効くとは思ってなかったしね。もし飲み物か食べ物の中にそういうのが混ぜられてて、私達が気付かずに食べてたら……」
「でも昨日の夕食なら、その後にミクが綺麗にしてくれてるんだから気付くよね? 今日の朝食か昼食ぐらいしかあり得ないけど、昼食は買っておいた保存食だし……朝食しかあり得なくない?」
「でも、アレッサが居る中でそんな事するかな? ……いや、やったのが料理人なら分からないのか。それに毒を混入した際も料理人までは調べてない。もしかしたら料理人もグルだった可能性がある」
「確かに料理人までは調べてないけど、あんな事があっても料理に混入するかな? もちろん毒じゃないから気付かれないと思ってやった可能性はあるけどさ」
「私にも使ったけど、やっぱり違和感があるね。一応部屋の中にも【浄滅】を使っておこう。それと他の部屋も」
そう言ってミクは騎士達の部屋に行き、一人一人に【清潔】と【聖潔】。部屋に【浄滅】を使ったら王女の部屋へ。王女達にも同じ事を説明し、【清潔】と【聖潔】に【浄滅】を使っておく。
【浄滅】の説明を受けた王女達は目が点になっているが、そこは無視して部屋へと戻るミクとアレッサ。とりあえずやれる事はやったので、これ以上は諦めよう。
「妙な攻撃が頻発している感じはするね。王女の命を狙ってるんだろうけど、よくもまあこれだけ色々考えるもんだと感心するよ」
「仕方ないんじゃない? 暗殺組織か何かだと、色んな手練手管を知ってるだろうしね。それより、わたしはそろそろ寝るよ。おやすみー」
アレッサが寝た後、ミクもベッドに横になり目を瞑る。今日はサデンの町に行かなければいけないのだが、どうするべきか……。悩みながら、とりあえず暇潰しをするのだった。
◆◆◆
夜、意を決したミクは、蜘蛛の姿になり窓から外に出る。屋根の上に上ってピーバードの姿になると、早速サデンの町に飛んでいく。
20分も掛からず到着したミクは拍子抜けすると共に、たったあれだけの距離しか進んでいなかったのかと愕然とした。
ショックを受けていても仕方ないので持ち直し、兵士の宿舎の隣の建物へ。中に居る犯罪者どもを喰おうと思ったら、執事長が居なくなっていた。
ミクは疑問に思ったものの、まずは牢屋に侵入して犯罪者を本体空間に転送していく。本体空間ではレティーが脳を喰っているが、記憶は後回しにして執事長の生命反応へと近付く。まだ記憶から消してはいなかったのだ。
到着したのは町の端にある建物の外であり、中を窺うと、執事長は縄で縛られて転がされている、どうも周りに居るのは同じ組織の者らしい。
「お前は用済みだからな。今の内に消しておかんと碌な事にならん。あの魔道具の存在すらバラしおって……!」
「違う、私ではない! あの小娘だ! あの小娘が【罪業看破】と【真偽判定】を持っていたのだ。お前達とて聞いた事があるだろう。【罪業看破】の目は誤魔化せぬ! あれには対抗できん!!」
「そんな事はどうでもいい、お前の口から情報が漏れた事が問題なのだ。まったく、お前を牢から無理に出すのに、どれだけの金を使ったと思っている。まあいい、役立たずをさっさと始末するぞ。後の手はずは整っているな?」
「ハッ! コイツの死体をズタ袋に入れ、適当な所に捨てておきます。後は魔物どもが勝手に喰うでしょう。失敗した役立たずです、醜い奴等と同じく荒地で死ぬのが相応しいかと」
「その通りだ、役立たずには相応しい末路というものがある。……やれ!」
「「「「ハッ!」」」」
目の前で行われている事も、ミクからすればマヌケな演劇のようにしか思えない。何故ならば、連中は全員等しく肉の怪物に喰われるからだ。




