0168・砂漠の移動
フッタルに乗っていても暑いものは暑い。砂漠なうえに日中なのだから暑いのは当たり前であるが、それでも暑いものは暑いのだ。こんな日中に出歩いているものなど、少なくて当たり前だと言わざるを得ない。
陽射しが容赦なく降り注ぎ、ジリジリと焼き焦がす。正にそういう表現がピッタリだと思える程に、日光が厳しいのだ。既にグッタリとまでは言わないものの、アレッサが無言のままである。
「アレッサ、大丈夫? 何だか元気が無いけど、そんなに暑いの? 汗はそんなに出てないようだから、熱が篭もってるのが原因か。こればっかり流石にね、私でもどうにもならないよ」
「大丈夫、大丈夫。ただ暑すぎて喋る気力が湧かないだけ。この暑い中、なるべく体力を使いたくないから黙ってる。正直に言って、砂漠を舐めてた」
「まあ、これだけ暑いからねえ。砂漠の民は大変だと思うよ。とはいえ自分で歩かないなら、そこまででもないのかな? その辺りはイマイチ分からないけど……」
喋る事もないのでフッタルの背に揺られながら無言の時間が進む。王女達も騎士達も無言で、誰も何も喋らない。風が吹く音と砂が動く音をBGMにして、一行は砂漠を進んで行く。
たまにサボテンのような植物が見えるが、そこまで大量に生えている訳でもない。他に旅をする者も居ないからか、周りにフッタルもドーモスも見えない。こんな中で襲撃されるのだろうか?。
護衛依頼として請けたものの、果たしてこれは護衛依頼なのか疑問を持ってしまうミク。
『これは本当に護衛依頼なのかな? 砂漠をダラダラ歩いているだけだし、他に何もしてない。たまに魔物が居るのは見かけるけど、こっちにまで手は出してこない。何の為に私達を雇ったのやら』
『オアシスとやらで襲撃を受けるのではありませんか? だからこそ主達に頼んできたのだと思います。まあ、フッタルとやらの移動は遅いので、主達が暇になっているのはよく分かりますが』
『そうなんだよ。このフッタルってヤツ、子供の足と変わらない速度でしか歩いてないの。こんなゆっくり移動するとは思わなかった。もうちょっと速いと思ってたよ。こんな速度じゃ夕方まで掛かるのも納得だけどね』
『子供の足ですか……言われてみれば、そんな程度の速度な気もしますね。とはいえ速い速度で歩くと疲れきってしまうのでは? このフッタルというのも、そこまで体力があるようには思えませんし』
『軟弱だねえ。とは思うものの、普通の生物だと仕方がないか。水を沢山溜めておける体というだけで有利なんだろうしね。それ以外の能力の獲得は難しかったんだろう。本気で走ればそれなりに速そうだけど、それだと……』
「体力も水分も早く消費してしまい、オアシスまで移動出来なくなるかもしれません。こういう時は適当に暇潰しでもしてはどうでしょう? 本体空間で何かしてみては?」
『仕方ない。まさか日中にまで暇潰しをする羽目になるとは……今度からは砂漠は飛んで移動するかな。でないと面倒臭すぎるよ。こんなゆっくりと移動ばかり続けていたら、そのうち暴れたくなるかもしれない』
『………』
余計な事を言うと、更に機嫌が悪くなってしまうかもしれないので黙るレティー。触らぬ神になんとやらである。
◆◆◆
移動を続けて昼頃、フッタルの上で食事を取りつつ休憩を行う。騎士達が【浅穴】の魔法を使って砂に穴を空けると、4本の柱を立てて布を被せる。柱は細いものの、地面に突き刺す所の一部に鍔のような物が付いていた。
どうやら砂の中に埋もれないように<かんじき>のようになっているらしく、柱は布の重さを受けても倒れない。簡易の小さなテントみたいになっているが、何かと思ったらトイレだった。
オルティマはアイテムバッグの小さい物を持っていたのだが、その中に簡易トイレ一式が入っていたようだ。フッタルの上で買っていた食料を食べつつ、終わったらトイレで用を足し、砂を被せて撤去したら出発する。
砂漠を移動する一般の者など、簡易トイレもなく堂々とするのだから、それに比べればマシなのだろう。王女も何も言っていない。既に諦めたのか、元々気にもしないのか。そこまでは分からないが、いちいち聞いたりはしない。
再び出発するものの、相変わらずの暇な旅路。時速4キロくらいで移動するという遅さ。それでもフッタルになるべく負担を掛けない移動方法しかないのだ。これがドーモスだと時速3キロ程度になってしまう。
ひたすら暇な時間を過ごしていると、ようやく遠くの方に建物らしき物が見えてきた。どうやら第一オアシスに辿りついたようだ。それが見えた途端、急激にテンションの上がるアレッサ。
「やった! やっと町が見えてきた! くぅーー。長かったわね、本当に!! 砂漠がこんなに暇だなんて知らなかった。暑いし暇だし、辛すぎる!!」
「まあ、確かにそうですね。私達はこんなものだと諦めていますが、初めての砂漠だと大変でしょう。誰しもが通る道ではありますが、受け入れるまでは大変ですから」
「私も大変でした。レドマーグ辺境伯領は砂漠ではありませんでしたので、話に聞くのと体験するのでは全く違っており……。最初はトイレが嫌で嫌で仕方ありませんでしたね」
「あれは仕方がない。砂漠に近い領地での我が家でも、経験はした事がなかった。初めて王都に行く事になった時に経験したが、その1度で砂漠が嫌いになったくらいだ」
町が近く気が抜けたからだろう、色々な話をしつつ気を抜いている一行。そんな中、ミクだけが気を抜いていなかった。元々怪物は感知を欠かさないので、気を抜くかどうか以前の話ではある。
「後方から何かが近寄ってくる! 前に走れ!! ……早く走れ!!」
ミクはそう言い、素早くフッタルから下りると、そのフッタルのお尻を叩く。叩かれたフッタルは直ぐに前へと走って行くも、王女達が居る近くで止まった。
動かず走る事もしない王女達に舌打ちをしたミクは、素早く後ろへと走って行く。そして【火弾】を地面に向かって大量に発射する。
見ている王女達は理解出来ないが、突然砂が持ち上がり、地面の下から巨大なミミズのようなものが現れた。
ミクは何度か倒した事がある、砂漠ミミズの大きいヤツかと思ったが、他の者にとっては違っていたらしい。
「あれはジャイアントワーム! 何故あんなものが町の近くに!? 本来なら人間種の居ない所に出る筈!!」
「そのような事を言っている場合ではありません、姫! 早く逃げましょう!!」
「もはや逃げられん! 向こうはこちらを餌だと思っているぞ!」
フッタルの上で剣を抜いたイヴィエルテ。しかしながら後ろの事など無視して前に出た怪物が、ウエストポーチから長巻を取り出し切り裂く。
【陽炎の身体強化】を行って一気に懐に入ったミクは、ジャイアントワームが反応するより速く切り裂き、素早く離脱する。その傷は致命傷と言ってもよく、中の体液などが派手に撒き散らされた。
ジャイアントワームは地面に叩きつけるように体をくねらせるが、やがて動きが弱弱しくなり、そして動かなくなった。体液が一定量減った結果なので、あれは血と変わらないのだろうとミクは理解する。
フィグレイオのダンジョンでは誰にも見られなかったので、手加減して戦った事などなく、割とあっさりと終わらせたのだ。その結果、他人に見られても大丈夫な殺し方というものを考えていなかった。
先ほどの殺し方で問題ないだろうと思いつつ後ろを見ると、王女達も騎士達もフッタルも目が点になって固まっている。
そんな中、アレッサだけが呆れていた。




