0167・第一オアシスに向けて
「なんだ、知られてなかったんだね。イリュもカルティクも話してなかったのか。まあ、知り合いでもないのに話す意味もないけどさ。とはいえ<鮮血の女王>と<影刃>を狙ったんだから、当然の報復だよね」
「裏の世界にその名が轟く<鮮血の女王>と<影刃>に手を出して、無事だと考える方がおかしいけどね。1国の王だろうが何だろうが、敵に回れば潰されるに決まってるじゃん。手を出さなきゃ何もされないっていうのにね」
「で、出鱈目を言うな! お前達人間は嘘ばかり吐く!! 貴様ら如きの言葉など信用に値せぬわ!!!」
「??? ……いったい何を勘違いしてるの? お前が信じようが信じまいが、事実が変わる事などない。お前の妄想の中では違うかもしれないけど、お前が何を思い込もうと現実は何も変わらないんだよ?」
「ぷっ……ケダモノには丁寧に教えてあげなきゃいけないからね。ぷくくくくく……」
「き、きっさまぁぁぁぁーーーー!!!!!」
「ああ、本当にケダモノだ。大声で喚き散らせばどうにかなると思ってる。その行動が野蛮な生き物と何も変わらないのに、それでもエルフはやる。なぜなら野蛮だから」
「おのぉぉれぇぇぇぇl!!!」
「だーかーらー、それが野蛮だって言ってるじゃん。これだから”自称”賢い生き物は困るわー、本当の知性を持ってないから。賢いって自称する時点で野蛮だって事を理解出来ないもんねー。それじゃー仕方ないかー」
「がぁぁぁぁぁぁ!!!!」
エルフがミクとアレッサに見下され、バカにされ、嘲笑われているにも関わらず、誰も口を挟まない。それは今まで自分達が見ていたエルフとは違うからだ。
ブラウンエルフはエルフに対して怨みがある。それは<狂乱王>の時代に幾度となく攻められ、多くの国民が犠牲になったからだ。もちろん多くのエルフも殺してきた。だが、攻められたのはジャンダルコの方なのである。
他の国の協力もあり乗り切ったが、祖先から続く怨みと憎しみの連鎖は簡単に解消するほど甘いものではない。しかし、それは同時に何処かで相手を認める事でもあるのだ。
少なくとも自分達の祖国は追い詰められた、他の国の協力で追い返した。それ程までに相手は強かったのだ。そういった認める部分というものは何処かにある、たとえ心の片隅であっても。
しかし、ミクとアレッサは対等な相手という扱いをしていない。つまり相手を一切認めていないのだ。小馬鹿にする程度の相手、まともに相手をしてやる価値も無い相手。そのようにしか考えていない。
「それにしてもエルフってヤツは、これだから……」
「大声を上げて喚き散らすって、知性とか理性とは真逆だもんね。その割には自分達は知恵者だの賢者だのっていう顔をするのよ? 滑稽よねー、心の底からマヌケだとしか思えないわ」
「アァァァァァァーーーーッ!!!!」
「やーねー。これだから森の蛮族は嫌だわー。森に閉じこもって永遠に出てこなければいいのに。どうして野蛮な癖に出てくるのかしらー」
「野蛮だからでしょ。<狂乱王>とかいう蛮族の親玉も居たんだし、蛮族なら他所を攻めるなんて当たり前だと思う。……え、何でって? 蛮族だからに決まってるじゃない。だって蛮族だよ?」
「ウガァァァァァァァァァッ!!!」
王女達も騎士達も言葉が無かった。ここまで醜いというか情けないエルフを見た事が無かったし、ここまで感情的なエルフも見た事が無かったからだ。いけ好かない見下してくる相手、それが今までのエルフ像だったのだ。
それが粉々に粉砕され、新しく生まれたのは「ギャーギャー」喚くだけの者。この場に居る者達にとっては、間違いなくエルフはその程度の存在でしかなくなった。コレを見ていれば仕方ないのであろうが。
その後、五月蝿く喚くエルフを殴りつけてボコボコにすると、適当にそこら辺に転がすミク。まだまだ【真偽判定】が終わっていないので、アレッサは続きを行っていくのだった。
◆◆◆
【真偽判定】もようやく終わり、犯罪者とエルフを纏めて兵士の宿舎に隣接している牢へと運ぶ。夜間ではあったが、犯罪者を捕まえて入れる事はあるので問題なかった。
それよりも、王族の使う屋敷にエルフが入り込んでいたという事が問題になり、肌の色を変える魔道具を渡されて驚く兵士。夜遅くまでミクが話し、イヴィエルテは眠い目を擦りつつ相槌を打っていた。
兵士への報告が終わった後、ミクは屋敷へと帰ってイヴィエルテを部屋に連れて行く。王女と同じ部屋なのに大丈夫かと思いつつ、自分達に宛がわれている部屋に戻ると、アレッサが爆睡していた。
明日の朝でいいかと思ったミクは、そのままベッドに寝転がり目を瞑る。
『あれ? 捕まって牢屋にいる者達を食べるんじゃなかったんですか?』
『そう思ってたんだけどね。その日に居なくなると怪しいかなって思ってさ。砂漠に出発したら怪しまれないでしょ? 明日の夜にピーバードの姿で戻ってきてから食べようかと思って』
『成る程。念には念を入れた方が良いのは確かですし、私は良い事だと思います。流石に、わざわざ砂漠を渡って戻ってくるとは思わないでしょう』
『そうそ……そうだ、忘れてた! イリュの所に完成したミードを持って行かないと。ついでに向こうで水を貰ってこようっと。ちょっと行ってくるよ、すぐに戻ってくるから』
『了解です』
ミクは蜘蛛の姿で窓から外に出ると、屋根の上でピーバードの姿になり飛んでいく。一路ゴールダームまで戻ったミクは、イリュの寝ている部屋の窓を開けて侵入。甕を出して手紙を置き、そして部屋を出た。
帰りに適当な村や町に寄って水を汲み、本体空間に転送。蜂蜜と混ぜ合わせて寝かせていく。今回は大樽で1樽だから十分だろう。そもそもミクは飲まないので、酒を飲むのはアレッサだけである。
サデンの王族用の屋敷に戻ってきたミクは、ベッドの上に寝転がり、朝まで適当に過ごすのだった。
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翌日。毒の入っていない朝食を食べた一行は、乗り物屋に行きフッタルに乗って砂漠へ。道は王女達も騎士達も知っているので迷う事なく進んで行く。
ミク達だけなら目的の方向が分からず困るだろうが、移動には困らないので、方角が分からなくても問題は無い。最悪は夜間にピーバードになって飛べば済む。
まずは第一オアシスまで進むのだが、夕方前には到着できると言われアレッサが目を剥く。この暑い中を夕方まで進んでいくのかと思うと、今から嫌になってくるのは当然であろう。
「マジかー。このクソ暑い中を進んで行くとか、正気とは思えない。夜は寒いけど、そっちの方がマシじゃないの? 何で暑い中を進むのよ」
「夜は寒いですけど、服を多く着れば済みます。ただし、夜はポリフェウスが活発なので危険すぎて出歩けません」
「ポリフェウス?」
「狼のような虎のような魔物と言えばいいのでしょうか? とにかく嗅覚が鋭く、夜の砂漠では非常に危険な魔物であり、何よりこの魔物は群れで居るのです。ですので群れに襲われるとフッタルでは逃げられません」
「フッタルで逃げられないという事は、ドーモスではもっと無理という事だ。そしてポリフェウスは暑い日中には動かない。砂の下に隠れていてジッとしているのだが、夜は活発になり獰猛になる」
「砂漠では日の光を防げる物などありません。だからこそ私達も布を巻いているのです。それぐらい日の光を直接浴びるのは危険ですからね」
ミクとアレッサはローブのフードを被っているのでマシだが、普通は砂の照り返しまで防ぐ為に、顔全体に布を巻くらしい。
ミクやアレッサの体なら何の問題も無いが、普通の人間種の肉体なら厳しいのであろう。砂漠というのは過酷な地である。




