0129・失われたスキル
「吐くのは遠くでやってくれる? 装備品とかに付いたら汚いからさ。後、そこまで駄目ならさっさとボス部屋に入るといいよ。私達はこれから死体を焼いたりとか処理しなきゃいけないから。それとも死臭を嗅ぎたい?」
「「「「「「結構です!!」」」」」」
そう言って6人はボス部屋の中に入り、すぐに扉は閉じられた。その瞬間、ミクは一気に死体を貪って消してしまう。残った床の血はレティーが吸収しながら綺麗にしているので、すぐに無くなるだろう。
「それにしても脆い子達だったねー。死体程度で吐いてたら戦えないと思うけど、今の子達ってあんなものなのかな? 私の生きてた時代なんて、当たり前に人が死んでたけどね?」
「そうなの?」
「うん。いつものように村の人が狩りに出て、帰ってきたら死体だったり、村を攻めて来た魔物と戦ってる最中にやられたり。臓物をブチ撒けるのも何回も見た。だからか、特に何かを思う事なんて無かっ……たと思う」
「さっきの子達は貴族の4男とか5男だったのかも。シャルが言うには男爵家の4男や5男なんて平民と変わらないって言ってた。でも貴族なら死体は見た事が無いでしょ?」
「あー、そうかも。初めて死体を見て吐いたのなら、分からなくもないかな? それでも弱いって思うけどね。今は昔に比べて安全なのかな? わざわざ田舎の村の生活なんて知ろうともしなかったから、分かんないし」
「知らなくてもいい事だから、しょうがないんじゃない? ……っと開いたね? 人間種の死体が無さそうなところを見るに、ちゃんと突破できたみたい」
「オーク10頭なら梃子摺っただろうけど、それでも欠けずに突破できたなら優秀?」
「どうだろう? ゴブリンに比べれば強いのは事実だけど、知っていれば対策もとれるし対処もできる。森の中でゴブリンに襲われるのと同じかって考えると、ちょっと難しいかも」
「次のエリアは森かー。それは大変だ」
暢気な会話をしつつボス部屋に入り、魔法陣から出てきたオークを殺していく2人。全く危なげなく皆殺しにした2人は、死体を無視してさっさと脱出。外へと出た。
少し遅めではあるものの、まだ昼の範疇である為、適当に昼食をとる事に決めた2人。近くの店に適当に入り、大銅貨3枚を払って昼食を頼んだ。
この辺りにはギルドの解体職人や受付嬢に昼食を出す店が2、3軒ある。その内の1軒に入り、ミク達は昼食を注文した。初めての店なので味に関しては分かっていない。
戻って食事をとらないのでイリュが何か言ってくるかもしれないが、たまには良いだろう。
「しっかし、初心者エリアと第2エリアってあんなものなのね。本番は第3エリアからって聞いてるから油断はしないけどさ、それでもあんなものかー、とは思う」
「まあ、元々アレッサは強いから仕方ないんじゃない? 私だって大して強くもないと思いつつ第5エリアでお金稼ぎしてる訳だし。強者からすればそんなもの」
「まあ、ミクは別格すぎるからアレだけど、私もそれなりには強いから、この先も楽そうね。ランクを上げて試験を受けなきゃいけないみたいだけど、それってどんな感じ?」
「一応私の時は、って言い方になるけど、私の時は森の中に生えてる<ティダンテ草>の10本採取と、ゴブリンの左耳を10個だったね。どっちも簡単だし、すぐに終わって帰ったよ」
「へー……私も色々知識はあるし、簡単に終わりそう。<ティダンテ草>って事は、有用でかつ割と簡単に手に入る物の知識って事ね。そういうのは得意分野なのよ、農村の娘にとっては」
「採りに行かされたりするから?」
「そうそう」
雑談しながらの昼食も終わり、ミクとアレッサは第3エリアへと突入していく。もちろんトイレ休憩はとっているし、ミクも言い訳用のトイレ休憩はいつもしている。
それを知っているアレッサは微妙な顔をしていたが、特に何かをいう事は無かった。
第3エリアに入った2人は、早速アレッサを中心にして犯罪者を探す。ここは最も犯罪者が多いフィールドであり、アレッサの力を存分に活かせる場所なのだ。ミクも期待しながら、生命反応のある場所にアレッサを連れて行く。
1階から迷賊や犯罪者に声を掛けてはブチ殺していき、死体を処理したら次へ。そしてその階に”肉”が居なくなったら次の階へ。ローラー作戦の如く1人も見逃さないように殺していき、現在は4階だ。
「で、アレッサの【罪業看破】を便りに犯罪者に声を掛けて問い詰め、手を出して来たら嬉々として皆殺しにして喰うと……。普通なら偽善のバカって言うんだけど、貴女達2人だと意味が変わるのよねえ……」
「アレッサにも言ったんだけど、【罪業看破】を私が模倣出来ないって事は、確定でこのスキルには神の権能が絡んでる。そして神の権能が絡んでる以上、絶対に間違いは無い。つまり【罪業看破】は真実しか映さない」
「……だから手を出して喰ってもいいって? 間違ってはいないでしょうけど、周囲の者がそれで納得するかは別の話よ? まあ、【罪業看破】が使える事を証明すれば良いだけだから、そこまで難しくはないと思うけれども」
「<白の壁面>を使えば良いだけだから、それで証明出来るでしょうしね。それに私は受けても問題ないし。今日使ってみて分かったけど、【血液操作】が使えなくなってたのよ。おそらくヴァンパイアじゃなくなったからだと思ってる」
「成る程。アンデッドじゃなく生者になったから、ヴァンパイア由来のスキルは使えなくなったと。代わりに【身体強化】を使えば済むし、ミクの血肉が混ざったなら相当強くなってるでしょ?」
「相当強くなってるね。多分だけどヴァンパイアの時より強くなってると思う」
「【血液操作】が使えなくなってても、ヴァンパイア由来の怪力は持ったままなんだし、それが私の血肉で強化されたと考えれば普通の事だと思う。更に【身体強化】で引き上げられるけど、無理に引き上げる必要も無いんじゃない?」
「でも怪しまれないかしら?」
「それはあるけど、【身体強化】をしながら【身体強化】をした分の手加減って出来る?」
「何その面倒臭くて、意味不明な行動」
「そうしないとパワーが出すぎるんだよ。でも【身体強化】を使わないと、人間種じゃないと周りに気付かれる。だから【身体強化】をしつつ【身体強化】の分の手加減をするの」
「………【身体強化】を使わず、それっぽく戦っておく。その間にミクが仕留めてよ」
「まあ、いいけどね」
「何と言うか、心の底から呆れる会話ねえ。まあ、分かったけど、私以外にも【気配察知】持ちは居るから気を付けなさいよ」
「「了解」」
2人に注意だけをしてカルティクは離れていった。その程度の忠告で手を抜いたり手加減などしないのだが、それはカルティクも分かっている。自分は注意したという建前が欲しかっただけだ。
カルティクにとっては、問答無用で犯罪者を抹殺してくれるミクに暴れてほしい。とはいえ、自分の立場としては注意しておく必要がある。だから注意したに過ぎない。
心の中では「いいぞ、もっとやれ!」と思っているし、犯罪者など皆殺しにしてしまえとも思っている。少なくとも数百年に渡って悩まされてきたのだ。
怒りや後悔に塗れ、縊り殺してやろうと思ったのは1度や2度ではない。それでも秩序を優先して心を殺してきた。彼女達も本当は自ら手を下したいのだが、今の彼女達がそれを始めると大変な事になる。
長きに渡りゴールダームの闇に居る以上は、迂闊な動きは出来ない。今まではそれを利用して牽制してきたのだが、最近その立場を煩わしいと思い始めているイリュとカルティク。
積もりに積もった彼女達のストレスは限界で、いつ彼女達が「ヒャッハー!」と言い出しても不思議ではなかったりする。周囲の者は誰も気付いていないが……。




