0125・顔合わせと昨夜の話
「「………誰?」」
「イリュ、こっちは王都ユグルで仲間にしたアレッサ。アレッサ、目の前に居るのがイリュ。<鮮血の女王>よ」
「え、えぇ……? <鮮血の女王>ってこう、背が高くて儚げで消えてしまいそうな絶世の美女で、虐殺の嵐を吹かせるんでしょう? ちんちくりんじゃない」
「失礼ね! ちんちくりんが言うんじゃない!!」
「わたしは永遠の12歳だから仕方ないんですー! これから先も歳をとらないから仕方ないんですー!」
「仕方ない、仕方ないって……うん? もしかしてヴァンパイア? ミク、<黒の墓石>のトップってヴァンパイアだったの?」
「へー、昨日言ってた闇ギルドのトップはヴァンパイアだったのかい。イリュの予想が外れたねえ」
「珍しいわね。イリュディナが予想を外すなんて滅多に無い事よ」
シャルとカルティクも下りてきて朝食を注文していた。その後に話し掛けてきたのだが、実は昨夜の事はミクも分かっていない。まずはアレッサに話を聞かなければいけないのだが……。
「昨夜の事を最初から順序立てて話していく。まずはゴールダームからエルフィン樹王国の王都ユグルまで飛んでいった。ここまでは何の問題も無かったね」
「まあ飛んでいくだけだし、ミクが移動している以上は問題があっても捻じ伏せるだけだろうから、問題なくて当たり前だろうね」
「そして<選ばれし民>の後ろに居た侯爵家の連中を全員喰った。その後で王城に侵入。一番高い場所の一番奥が王の寝室だろうと思って行くと、護衛がアンデッドだったよ」
「「「えっ!?」」」 「あー……」
「アレッサは知ってる感じ?」
「知ってる、知ってる。だってあのリッチが偉そうに自慢してたから。何でも、極力死臭を抑えた特別制のモノを作って護衛にしてやった、あれなら生きたエルフにしか見えまい。って自信満々に語ってたもん」
「アレで? 私にとっては死臭塗れだったんだけど? というか廊下の先から死臭がしてたから、近付く前から分かってたよ。ついでに瘴気も感じてたし」
「あはははは……! やっぱりあのクソリッチじゃその程度よねー」
「護衛を【浄化魔法】で消滅させてから中に入り、寝ている奴を喰ったんだけど、こいつは影武者だった。本物は後宮の側室の所に居るって分かったから、移動して側室も一緒に喰ってきた。王子と王女は喰ってないけど、王座を巡って争いでもするんじゃない?」
「絶っ対に! やるよ。目の前に玉座が転がっていて、それを取りにいかない王族なんていない。ある意味で容赦が無い攻撃さ」
「これでエルフィンは当分の間、揉め続けるわね。そう簡単には終わらないでしょうし、他国も介入するんじゃない? 実際、確か王子も王女も多かったわよね?」
「レティーが脳を喰って、3男4女が居る事は分かってる。それが終わった後で、突然瘴気が膨れ上がったの。で、これは私に対する挑発かと思って発生源に進むと、そこは<黒の墓石>のアジトだった」
「挑発ってどういう事よ?」
「いや、ギリギリの魔力量とはいえ【浄化魔法】を使ったからさ。そんなものは通用しない、って感じで瘴気を撒いたのかなーと思ってね。まあ、それは違ってたんだけど」
「まあ、いちいちそんな事しないでしょう、普通は」
「で、オークの姿をとってアジトを強襲。外のチンピラと中のゾンビを潰して地下に下りると、心臓をくり貫かれて滅びかけのアレッサと<黒の墓石>のトップが居た」
「心臓がくり貫かれたってのは横に置いて、その状態で”滅ぶ”って事は……そこのガキは間違いなくヴァンパイアだね」
「ガキって言うな! こう見えて500歳は超えてる!」
「……えらい年寄りだねえ。そこまで歳を経たヴァンパイアが何で滅びかけてるのさ?」
「実はアレッサを眷属にしたのはヴァンパイア・ロードで、その消滅後も呪縛は解けてなかったの。だからリッチを頼って復活させようとしていたみたい」
「そんな事は不可能なのに………ちょっと待って、ヴァンパイア・ロードの眷属で500年!? それってお前もヴァンパイア・ロードって事よね!?」
「そうだけど滅びかけてたからねえ……心臓くり貫かれて奪われて、あの妄執のクソ王は<ノーライフキング>になったし」
「「「!!!」」」
「何てこ! ……とでもないのか。よくよく考えればミクが居るんだから、あの伝説の<ノーライフキング>も瞬殺かもしれないんだ。だから焦る必要は無いね」
「かも、じゃなくて瞬殺だったけど?」
「「「………」」」
三者から呆れた視線を向けられるも、ミクにとってはザコでしかなく、むしろ苦戦する方が難しい。そもそも【浄滅】を使わずとも喰えば終わっていたのだ。あれは瘴気と呪いの力で復活しようとしていただけ。
そして瘴気も呪いも、ミクにとっては喰えるものでしかない。ならば喰えば終わるのだ。
「そうだろうけど……そうだろうけど、酷い扱いだよ。あの災厄の権化である伝説の<ノーライフキング>も、ミクにとっては路傍の石と変わらないなんてね」
「石ならマシだよ、私の邪魔はしないからね。アレは鬱陶しいゴミでしかない」
「「「「………」」」」
本当の意味で呆れ、言葉も出ない4人。路傍の石より価値が無いと言われた<ノーライフキング>。実に憐れな存在でしかなかったようである。
「そういえばアレッサは、あいつを古いエルフの王って言ってたよね? という事は古代の王なの?」
「そうよ。あれはエルフィンの3代目の王。別名<狂乱王>とも呼ばれるヤツ。そいつが死にたくないから【死霊術】を調べ上げ、そして死ぬ前に自らをゾンビに変えたの。その後は研究しながら何百年も過ごしてきた……らしいわ」
「今の王の5代前か。エルフにとっては、そこまで昔の事でもないから……今の王も死にたくない気持ちが分かったのかしらね? 私を研究しても意味は無いのに」
「それにしても妄執の果てに<ノーライフキング>に行き着くっていうのも凄いわね。悲しい程に瞬殺されたみたいだけど」
「アレッサが自分の手で倒したいっていうから任せたんだけど、幾ら骨を壊しても復活してくるからギブアップ。それで私が【浄滅】を使って終わらせたの。まあ、骨の欠片すら集まって復活しようとしてたし、アレは仕方ないかな」
「骨になっても、ねえ……。あたしにも無理だろうさ、そんな相手。それより、そのヴァンパイアはどうするんだい? 流石にアンデッドはマズいだろ」
「わたしはアンデッドじゃないから、へーき、へーき。だって滅びかけたところに、ミクの血肉で復活したんだし。その時にヴァンパイアっぽい何かに変わってて、アンデッドじゃなくなったの」
「いや、ヴァンパイアっぽいって……」
「事実、お腹は空くし、眠たくなるし、【浄化魔法】は効かないし。そうなってくると、ヴァンパイアっぽい何かとしか言いようがないでしょ?」
「「「まあ……」」」
3人もアレッサの言い分を聞いて理解した。理解はしたのだが、アンデッドであるヴァンパイアを生者に変えるってどういう事? とミクを見る。
見られた本人は気にもせず大麦粥を食べ終わり、左腕からウエストポーチ型のアイテムバッグと長柄の武器を転送した。
これはアレッサ用の特別仕様であり、片方は普通のハンマー、もう片方は半月型の斧刃となっている。ウォーハンマーというべきか、それともウォーアックスというべきかは悩むところであろう。
アレッサが望んだ武器であり、柄は1メートル50センチ。自身の身長より長いものの、元ヴァンパイアである為、問題なく振り回せる。実際に今も片手で持っているくらいだ。
「厳つい武器を好むわねえ……」
「ミクのウォーハンマーを借りたんだけど、具合良かったのよ、アレ。力が強いと、あれぐらいの方が振り回しやすいって分かったから頼んだの。あのロリコンは格好をつけていて、剣以外は認めてなかったけど」
怪力であるヴァンパイアにも阿呆が居て、心の底からウンザリするミクであった。




