0124・ゴールダームへと帰還
「ありがとうございました。まさか2重の意味で救ってもらえるとは……」
「ヴァンパイアは高位になればなるほど縛られ続けるらしいしね、仕方ないんじゃない? 貴女がいつから生き続けてきたのか知らないけど、これから先も似たようなものかもよ?」
「わざと言っているのだという事は分かります。です「素でいいよ?」が私……」
「何か妙に話し難そうな感じだから、普通に素の自分のままに話してくれていいよ。その方が伝わるでしょ」
「ほんと? なんかヴァンパイアにされたのが随分前なのは分かるんだけど、あのロリコンが淑女教育だとか何とか言って、わたしに貴族の御嬢様みたいな喋り方とか要求してきたのよ。面倒臭いったらなかったわ、本当に」
「そんな事をされてたっていうか、少女の年齢で吸血鬼にされたのよね? それでロリコンって……」
「眷属にされると何をしても正しいって思い込むみたい。素晴らしい主様だと思ってたし、そんな主様に抱かれる私は幸せ! とか本気で思ってたみたいよ。今ならヴォェーッ! っとしか思わないけど」
「眷属ってそういうものなんだねえ。それとも叛逆されるのを恐れて、そういう風にしてたのかな?」
「叛逆を恐れてっていうのが一番ありそう。12歳のわたしを恐れるって、どんだけ根性無しなんだか。それとも、わたしの口から情報が漏れるのを怖れたのかな? 何だかんだと言って、眷属にされて500年は確実に経ってると思うし」
「12歳の見た目でも500年ほど生きてるならズレるよねえ。ところで名前もまだ聞いてないんだけど」
「ああ、ごめん。わたしはティ……いや違う、アレッサよ。あのロリコンはティエリータと名乗れって言ってて、長い間その名前を名乗らされてたの。でも両親が付けてくれた名前はアレッサよ。やっと本名を名乗れる!!」
「それは良かったね。で、これから私についてきてもらうけど、そこはどうなの?」
「別に構わないわよ、だってそういう契約だし。それに今までより頭の中もスッキリしてるうえ、何かおかしなモヤモヤもないしね。しかもわたし如きをわざわざ助ける必要も無かったでしょ? 流石に本体を見て理解したわよ。戯れで助けたんだなって」
「そう? もしかしたら違うかもよ」
「何言ってんのよ、好き勝手に出来る癖に。この世のいかなる者も相手にならないでしょ? そんなモノが助けるって、戯れ以外あり得ないじゃない。<隷属の紋章>も殆ど縛られてないから、有って無いようなものだし」
「まあ、どうにでもなるしねえ……」
「それよ、それ。だから何言っても、何やっても無駄でしょ。それに凄い存在が神様の命令で何をするのか楽しみだし、それを近くで見られるって結構良い立場だと思うの。後は頭のモヤモヤが無い状態で色々な事を楽しみたい」
「私と来る以上は、戦ったりとか色々あるけど?」
「どうも【血液操作】と【悪意感知】、それに【罪業看破】と【真偽判定】も持ったままみたい。それらのスキルも含めて、わたしって使えるでしょ? 元々トリプルだったんだけど、ヴァンパイアになって1個増えたのよ」
「つまり【悪意感知】と【罪業看破】に【真偽判定】は最初から持ってたと。色んな意味で素敵な人生が送れそうなラインナップだね?」
「………本当にね。ヴァンパイアじゃなくなって冷静に考えてみると、まともに生きてたって碌でもない人生だったのが分かる。スキルを持ってるってだけで、怖れたバカが襲ってくるし」
「特に【罪業看破】がマズいね。見ただけで罪を犯したかどうかが分かるスキルは……間違いなく狙われて殺される。探られて困る奴なんて山ほど居るし」
「本当、ある意味ではロリコンに助けられてたみたい。感謝はしないけど」
「それで良いんじゃない? さて、そろそろ脱出するから転送するよ。朝までにはゴールダームに戻りたいし」
そう声をかけたミクはアレッサを肉で覆って転送し、すぐに小さな蜘蛛になって地上への道を上がる。有無を言わせなかったのは、兵士か何かが突入してきたからだ。
ミクは天井に張り付く形で脱出し、<黒の墓石>のアジトを出たら屋根に上り、ピーバードの姿でゴールダームに向けて飛ぶ。大騒ぎの中、闇夜に飛び立つ鳥など誰も意識していないのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
朝になる前に何とか<妖精の洞>の部屋へと戻ってきたミクは、部屋のベッドにアレッサを寝かせ、自身は床に座って適当に過ごす。
元々アレッサが着ていたドレスは胸に穴が開いてボロボロだったが、ロリコンから貰った物をもう着たくないとの事で、今はミクが適当に作った麻のシャツとパンツに、ワイバーン皮のズボンを履いている。
既にジャケットとブーツも作ってあるので問題ない。武器をどうするかは決まっているので、それは本体が鋭意製作中だ。何故か神が来て、ウエストポーチ型のアイテムバッグを置いていったのだが、これはアレッサに渡せという事だろう。
あの神どもは何処で見ているのだろうと思うも、考えても無駄なので思考を放り投げたミク。ワイバーン防具の一式と、護身用のナイフ2本は既に終わった。そもそも身長が140センチに満たない子供用なのだ、さして大きくもない。
朝日が昇り、多くの人が起き始めた時間。眠そうな顔をしつつも、アレッサが起きてきた。どうもヴァンパイアの時と違い、眠る事が必要な体らしい。ミクの血を多少与えたが、血を飲む事は普通に出来た。
なのでヴァンパイア風の何かに変わっていると思われるのだが、ミクも何に変わったかは分からない。そもそもヴァンパイア・ロードに血肉を与える事になるなど思ってもみなかったのだ。しかも滅びかけに。
どう変異するかも分からず、血肉を与える際に詳細な記録をとる余裕も無かった。どこがどう変わったかなど、見た目しか分からないのだ。そのうえ白かった髪が薄い水色になった事ぐらいしか、前との違いが無い。
アレッサ本人は元の髪色に戻ったと喜んでいるので、元々はそうだったのだろう。目の色は黒だが、これはヴァンパイアになる前から変わっていないそうだ。
「おはよー………ヴァンパイアの時は眠らずに済んだのに、子供の頃に戻ったみたい。それで起きられてるって事は、そこまで子供の時と同じじゃないのかな?」
「おはよう。そうじゃないかな、多分。似たような別の種族ってところだと思うけど、まだまだ分からないね。間違いなく不老ではあるから、これからも老化せずに生きられるよ。永遠の12歳もどうかと思うけど」
「それを言わないでー。ヴァンパイアになった段階で歳はとらないから諦めはつくけど、それでも大人の女になれないのはちょっと……」
「何をもって大人の女かは微妙だけどね。思考が大人なのか、それとも体が大人なのか。体が大人でも子供みたいなのは沢山居るしさ」
「………ま、おかしくならないなら、このままで良いかな。それより何か食べたい、お腹減ったし」
「そうだね、食堂に行こうか。イリュ達にも紹介しないといけないし」
「イリュ?」
「そう。<鮮血の女王>とか呼ばれてるね」
「うげっ……」
何か過去にあったのだろうと思ったが、ミクにとってはどうでもいいので、アレッサを抱き上げて食堂に連れて行く。
ミクの前に抱き上げられているアレッサは、傍から見たら精巧な人形のように美しい。これもまたロリコンヴァンパイアに狙われた理由であろう。少女の美しい時が、そのまま永遠に止まったかのようでもある。
そんなアレッサを連れて食堂に来たミクは、いつもの大麦粥を頼む。アレッサは大銅貨3枚分を頼んだので、合わせて大銅貨6枚を支払った。イリュが来たのでついでである。
そのイリュはアレッサを見て首を傾げており、アレッサもイリュを見て首を傾げていた。




