0123・少女と骨
<ノーライフキング>はミクに対し【獄炎嵐】を放ったが、それは何の現象も起こす事は無かった。ただ魔法陣が出て消えただけである。
「………どういう事だ? なぜ魔法が発動しない!? 私は確かに魔法を使ったはずだぞ!!」
「グッグッグッグッグッグッ♪」
「クソッ!! 何がどうなったか知らぬが【獄炎嵐】だけが私の力ではないぞ! 【風神の息吹】を受けるがいい!!」
こちらは風系の最高クラスの魔法であるが、やはり不発となり発動しなかった。実はミクが魔力を喰っているので、魔法陣に篭める魔力が不足しており、その結果発動しないという状況になっている。
この魔法陣もまた魔力で構成されている為、魔法を発動させないだけならば魔法陣を喰ってしまえばいい。ミクがそれを行わないのは、ひとえに魔法陣を覚える為だけである。
最高クラスの魔法など覚えても使いどころが無いのだが、それでも覚えておいて無駄にはならない。だからこそミクは魔法陣を喰う事はしないのだ。
「おのれ……! 何をやっているのか分からぬが、キサマが何かをやっておるのが原因であろう!! 元リッチだからといって、魔法が使えなければ戦えんとでも思ったか! 死ねぇ!!!」
ノーライフキングは突然前へと出ると、ミクに対し右ストレートを放ってきた。しかし、ミクは首を傾けただけでかわし、代わりに右フックで肋骨を殴りつける。相手は派手に吹っ飛ぶがそれだけであり、ダメージを受けた感じはない。
「ふん! 多少はやるようだが、ダメージなど受けておらぬわ。派手に吹っ飛んだが、それだけよ。そもそもこの骨の体には少々の攻撃など効かぬ、衝撃を逃がしてしまうのでなぁ!!」
再び襲ってきたが、ミクが相当の手加減をしている事は理解していないようだ。むしろ普通のオークのパンチより威力は低いのだが、その程度の事でさえ理解していない。
ストレートやフックで殴りつけてくるも、悉くミクはかわす。反撃に適当なフックや前蹴りを放ち、中途半端なところで相手の攻撃を止めてやった。
すると、それが腹立たしくて仕方がないのだろう、余計に動きが大雑把になっていく。
「クソッ! クソクソクソクソォ!!! 何故当たらんのだ、おかしかろうが!! 我は永遠の王ぞ。ノーライフキングになった、本物の王なのだ! 下民はさっさと死ねぃ!!!」
「ブフゥ………!」
癇癪を起こすノーライフキングに対し、指を差して笑うミク。その事で更に怒り、怒りの感情だけで動く骨と化したノーライフキング。しかし何をやろうとも当たらないし、ミクに勝つ事など不可能である。
そんな中、突然素早く動いたミクは、前蹴りでノーライフキングを吹き飛ばす。その後、右腕を肉塊にして少女をこの場に転送した。
「クソが! ふざけおって!! キサ……どういう事だ? 何故キサマは滅んでいない!!」
「そんなもの、生かされたからに決まってる。それより覚悟してもらう、古きエルフの王。いや、妄執の王!!」
「何が妄執だ、実力も無い小娘が!! もう一度心臓をくり貫いてくれるわ!!!」
ミクが遊んでいたのは時間稼ぎが理由であり、それはこの少女を回復させていたからだ。この少女はノーライフキングを自分の手で倒す為に、ミクと契約を行った。それも<隷属の紋章>を用いての契約である。
そしてミクの血肉を用いて再生された肉体は、既にアンデッドでは無くなっていた。一度ヴァンパイアによって眷族にされた以上、待っているのは滅びの時だけなのだが、彼女はミクの血肉によって再誕したのだ。
彼女をヴァンパイアにしたのはロード階級。つまりヴァンパイア・ロードであった。それゆえに滅んだ後も彼女は囚われ続けていたし、元の主を復活させようとしていたのだ。
しかしミクの血肉を受けた今、その感情は完全に無くなり、何故あんなものを復活させようとしていたのか理解できない。完全に呪縛から解き放たれたものの、それとこれとは違うとばかりにノーライフキングに襲いかかる。
「グアッ!? グオーー!! ……どういう事だ! キサマはここまでの強さなど持っていなかった筈。いったい何故こんなにも強くなっているのだ、おかしいであろうが!!」
「おかしくなどない。かつてはヴァンパイアの呪縛に囚われていて、お前に対して反撃しなかっただけ。でも、その呪縛はもう無い。私をヴァンパイアにしたヤツなんてどうでもいい。だけど、お前は滅ぼす」
「ハッ! 小娘如きが調子に乗るでないわ! 【獄炎嵐】!!!」
何度やっても消されたのを忘れたのだろうか? ミクは即座に魔力を喰ってしまい、再び発動しないままに終了した魔法。その間にも少女はノーライフキングを殴りつけ、蹴り飛ばしていく。
流石に攻撃が厳しいのだろう、ノーライフキングが滅茶苦茶に腕を振り回し始めたので距離を置く少女。そして憤怒の声で喚き散らすノーライフキング。
「ふざけるな!! ノーライフキングになった筈だぞ! 何故ここまで下っ端如きに苦戦せねばならんのだ!!」
「そもそもリッチ系が得意なのはアンデッドを操る事と魔法。今のお前はどちらも無理。魔法は潰され、ここには操れる死体も無い。伝説のノーライフキングといえども、その程度の力しか発揮できないのは当たり前」
「ハッ! ならばキサマを操れば済むであろうが! わざわざ敵に情報を渡すとは愚か、もの……め?」
「残念ながら私は操れない。そもそもアンデッドでは無くなっているし、もはや【浄化魔法】すら弱点じゃなくなった。お前よりも数段上の存在」
「は? ………ふざけるな! 下郎めが!! 我よりも上の存在などおらぬわ!! 死ねぃ! 【蒸球爆】!!」
「魔法は使っても、無駄ぁ!!」
「ゴガァッ!!!」
少女の右ハイキックで吹き飛ばされたノーライフキング。このままでは埒が明かないと思ったのだろう、少女がチラリとミクの方を見ると、ミクは肉体からウォーハンマーを取り出して少女に投げる。
受け取った少女は2、3度振って確かめた後、肩に担いで構える。試し振りでも「ボッ!」という音がするのは、元ヴァンパイアだからか、それともミクの血肉が融合したからなのか。
「グッ……いったいそれを何処から出したぁ!!!」
「そんな事はお前の知る事じゃない。お前は私を騙して心臓をくり貫いた、なら私はお前の骨を砕く。覚悟しろ!!!」
少女は【陽炎の身体強化】を用いて一気に接近。ノーライフキングに対して跳び上がり縦に振り下ろす。
膝のバネも背筋も使った一撃は、頭蓋骨のみではなく、背骨から腰骨までをも粉砕しながら地面に叩きつけられた。
ズドォン!!! という音の後、素早く少女はバックステップを行い離れる。すると、粉砕された骨の欠片や吹き飛んだ骨が動き出し、元の体へと戻ろうとし始めた。
流石にここまでの不死性となると少女には荷が重く、どうしていいか分からずミクを見る。自分では倒せないと判断したようだ。
「申し訳ありません。私ではこれ以上は……」
「まあ、これでも復活しようと骨がくっ付いていってるもんね。思っているよりも遥かにしぶとい骨だよ。ま、後は私の役目だ」
ミクはそう言い、【浄化魔法】の最高ランクである【浄滅】を使う。するとあっと言う間に赤黒い骨は塵となって消えていった。
いかにミクが手加減していたかが、よく分かる光景であろう。最初からこの一撃で終わらせる事ができたのだ。ただ少女との契約を守っただけである。
それが少女にもよく分かったのだろう。何とも言えない顔で塵となっていく骨を見るのだった。




