0120・ボスの死体の検分
ダンジョンを脱出したミクは、そのままの足で探索者ギルドへ。そして受付嬢にラーディオンへの面会を求める。受付嬢は登録証を出すように言ったので渡すと、それを持って2階へと上がっていった。
その後、下りてきた受付嬢に案内されてラーディオンの部屋へ。何故か若干緊張したラーディオンが居た。
「??? ……なぜ緊張してるの? 報告に来ただけなのに」
「あ、ああ。お前さんの事が分かったのでな、もしかしたら……と緊張してしまった訳だ」
「別に腐っていなければ喰わないし、今のところラーディオンを喰う予定は無い。そんな事よりも、第5エリアを攻略した」
「ワシの命はそんな事、なに!? ……第5エリアを攻略したのか? ………いや、お前さんなら攻略できて当たり前だな。それよりもボスはどんなだ? 地図は?」
「地図は簡易的なのと、詳細に描いた2種類を用意した。……コレとコレ。5階までは真っ直ぐ行くだけだから特に描いてない。で、問題は50階のボス」
「お、おお……。凄いなこの地図、詳しく描きすぎだと思う程だぞ。で、それよりもボスが問題ってどういう事だ?」
流石にミクが問題と言い出した事により、真剣な顔になるラーディオン。肉の怪物が問題視するぐらいだ、相当にヤバい相手なのかと想像する。
「50階のボスは妙なトカゲが10匹。コイツは姿を隠す事が出来て、目では見えなくなる。動いている時は風景がおかしく見えるから何となく分かるけど、ジッとしていると風景に溶け込んで見えない」
「………目で見えないトカゲか。おそらくだが、お前さんは気配か何かで把握したんだな?」
「目に見えないだけで、気配でも魔力でも反応はあるよ。ボス戦のフィールドは森で、木々に隠れながらの戦いになるから、気配や魔力が分からない連中じゃ厳しい。場合によってはインクを持って行った方が良い。ぶつければ見えるようにはなる」
「そりゃあ………そこまでいける奴等ならその程度を買う金はあるだろうが、そんなに厄介なボスなのかよ。通りで今まで突破できた奴がいない訳だ。見えないボス相手に事前情報なしでは厳しすぎるだろう」
「そうだね。私にとっては大した事がなくても、普通の人間種じゃ難しいと思う。ボスが隠れる能力持ちだと気付くまでに私でも2回攻撃を受けてるし、ボスは長い舌を使って攻撃してくる。私が吹き飛ぶほどの威力なうえ、正確に心臓を狙ってきたよ」
「そりゃまた厄介なボスだな。お前さんが吹き飛ぶって相当の威力じゃねえか。こりゃ他の奴等に突破してこいっつっても無理か……」
「シャルとカルティクに、<竜の牙>と<鮮烈の色>が協力すれば突破できるんじゃないかな? このボス見えなくなるけど、その反面、皮は思っているより弱い。だから突破するだけなら、遠距離から魔法を使えば簡単に倒せるよ」
「あー、成る程なぁ。タネが分かれば簡単に倒せるタイプの魔物か。それでも見えないんだから厄介だが、最初から近付かず遠間から攻撃すりゃ良いだけなんだな。成る程、成る程。それならどうにかなりそうだ」
「で、ここからが本題なんだけど、ボスの死体は持って帰ってきた。でもさ……魔力を流すと消えるんだよ。暗殺者が喜びそうじゃない?」
「………素材が表に出せねえ訳か。確かに見えなくなるってんじゃ、暗殺者が好みそうな装備になるなー。素材として扱うか、それとも処分するかはウィルドンに聞かんと分からんな」
そう言って、ラーディオンは部屋を出て行った。おそらくウィルドンという人物を呼びに行ったのだろう。少しの間、ゆっくりと待つミクであった。
……少々経ってギルドマスターの部屋に入ってきたのは、解体所の親方だった。何となく予想していたミクは挨拶し、すぐにボスの死体を取り出す。
「頭から尻尾の先までは凡そ3メートルほど。尻尾は短く、普通のトカゲのように切って逃げる為の物ではない。舌が異様に長いが、おそらくコレで攻撃してくるのだろう。そして………聞いた通りに消えるな。コレは厄介だ」
「本当に消えてるな。疑っては無かったが、これが動いて攻撃してくるとなるとキツいぞ。むしろよく倒せたというしかない。……で、どうだ?」
「お主らの懸念は暗殺に使われる事だろう? コレを見れば真っ先にそれを思いつくだろうからな。総じて言えば、目を誤魔化せるだけだ。当然だが足音や臭いは誤魔化せんのだからして、そこまで過敏に反応する必要はない。そして、この皮は脆い」
「ぬっ!? ……確かに。簡単に切り裂く事が出来たな。こんなに弱かったのか」
「違う。これはおそらく、生きている間だけ強いタイプの皮だ。死んで脆くなるタイプの皮は幾つかあってな、これも似たような感触がした。当たっていたという事はだ、本当に隠れられるだけの皮でしかない。引っ掛けたら破けるかもしれん」
「……それは実用できるのか? ワシは役に立つようには思えんのだが」
「役に立たんだろうな。先ほども言ったが隠れられるだけだ。これは解体所としては買い取り不可とするしかない。こんなに脆いのでは役に立たんし、探索者に隠れる装備なんぞ要らん」
「まあな。闇で売られるのは……今でもあるから何とも言えんが、少なくとも第5エリアのボスだ。多くの連中が狩ってこれる訳じゃねえ以上、横流しを調べるのは容易い」
「そうだ。それにしても生きている間は厄介だろう、コレは。死体だから良いが、流石は第5エリアのボスとしか思えんな。1匹だけでも大変だぞ」
「これ、全部で10匹出てくるらしいぞ? 攻撃は吹き飛ばされる程の威力の舌で、しかも正確に心臓を狙ってくるんだと」
「………嬢ちゃん、よく倒せたな? 本当によかったが、命は大切にするようにしろ。危険に突っ込んでると、命が幾つあっても足らんぞ」
「ああ、うん。行けると思ったから踏み込んで突破したんだけどね。どのみちボスの情報が無い以上は、どう想定しても足りないし」
「それはそうかもしれんが……ま、その辺は分かっとるか」
話し合いはそこで終わり、ウィルドンは解体所へと戻って行った。ラーディオンは紙に何かを書くとミクに渡してきたが、どうやらそれを持って受付へ行けば良いらしい。
ミクは挨拶して部屋を出た後、1階の受付へと行き紙を出す。その紙を見た受付は「ビクッ」とした後で、ミクに登録証を出すように言う。
ミクが受付に登録証を出すと、周囲の者達が興味津々という顔で見てくるがミクはスルー。受付嬢が裏に持って行っていた登録証を返してくれたが、そこにはランク11と書かれていた。
第5エリアを突破したからだろうが、裏の依頼も熟していないのにランクを上げても良いのだろうか? そう思いつつ、ミクは受け取って首から下げ服の中に入れる。
依頼でも何でもないので褒賞は無いが、それでもランクが上がっただけ良かった。そう思いミクはギルドを後にした。
町中を歩き南西区画へ。<妖精の洞>へと戻ったミクは、食堂に移動して大銅貨3枚を払う。イリュが何故かミクの大麦粥を持って来たからだ。どうも他の従業員は既に娼館に行ったらしい。
「私達は迷惑かけちゃったからねえ。はい、お待ちどうさま。大銅貨3枚だから、私の分も取ってこようっと」
そう言ってイリュは自分の食べる分を取りに行ってしまった。他の宿泊者などシャルぐらいしか居ないので問題ないだろうが、本当に自由な宿である。
そんな事を考えているとシャルも帰ってきたようで、イリュはカルティクを連れて料理を運んできた。そしてシャルの注文を受けてガックリしている。
食事をしようとした矢先にそれだから、気持ちは分からなくもない。そう思うミク。そういった心情は分かるようになってきたらしい。




