0118・雑談と武具の受け渡し
宿に戻ってきたものの料理がある訳もなく、起きてきたシャルに朝の事を話し、ミクが持っている保存食を適当に食べる。痛んで駄目になりそうだった物は、そうなる前にミクの本体が全て食べているので残っていない。
今も残っている物は多くないものの、それを食べながらシャルと話す。
「ふーん……イリュが負けるというのも初めて聞いたけど、魔力を動かせなくなると気絶するんだね? その弱点を狙えばってヤツも出てきかないけど、大丈夫なのかい?」
「同じ事をするのは難しいって事が一つ。どうも<魔導強絶機>って古い時代に作られた物で、今では再現できないみたい。しかも再現しようにも、オリジナルは私が持ってる。つまり……」
「再現したくても出来ないって訳かい。ま、他にも似たような物があるならその限りじゃないんだろうけど、それも含めてミクが宝物庫から奪ってくれば済むねえ」
「それは多分だけど無理。おそらくだけど神どもから止められると思う。流石に唯の窃盗行為になるし、ゴミどもを喰らうという目的には全く関わりが無いから」
「ああ、そういう事か。そりゃ駄目だね。流石にあたしも神様には睨まれたくないし、妙な事を唆したヤツと思われるのも御免被る。さっきの話は無かった事にしよう」
「まあ、元々しないけどね。それはともかく、イリュはそろそろ返してくれない? 私のナイフ2本」
「え? ……ああ! すっかり忘れてた!! ……結局なんだけど、情けない話、全く使わなかったのよね。意気揚々と乗り込んで気絶させられ、朝まで目覚めずよ。ウチの子達に聞いたけど、私達が人質にとられた後は薬で眠らされてたみたい」
「多少は抵抗したみたいだけど、私達が情けない姿を晒した所為で随分と迷惑かけちゃったみたいだし、今夜はお休みという事にしておいたわ。おそらく娼館にでも行ってくるんじゃないかしら?」
「たまには息抜きも良いんじゃないかい? ずっと頑張ってても疲れるだけだしね。何処かで息抜きをするのは、軍でも大事なことだからさ」
「でしょうね。敵は目の前、でも息が詰まってばかりじゃ負担が増えるだけ。将帥としては何処かで息を吐かせて発散させるしかない。でも何処で? ……そこが将帥の腕の見せ所よ」
「そして、それが得意だったからこその<雪原の餓狼>だったのにね。この後フィグレイオはどうするのかしら? 圧倒的なまでの不利になってる気がするけど……。もしくは自分で崖の近くまで歩いていった?」
「そんな状態だけど、エルフィンも混乱するから大丈夫じゃない? 私が店番しながら地図を描いておくから、ミクはそれを見て飛んで行けば迷わず着くでしょ。夜にフィグレイオの王都フィラーまで飛んでいくぐらいだし」
「あまりにあまりだけど、事実なんだよねえ。前は12頭もワイバーンを狩ってきたらしいけど、今回は何頭狩ったのやら?」
「22頭だよ」
「「「………」」」
22頭という数字を聞いた結果、唖然とするしか出来ない3人。そもそも夜中の間だけで何故そこまで狩れるのか? ボス戦以外にも移動時間があるし、それを考えても……等々、聞きたいことは多々あれど、グッと3人は堪えるのだった。
「どうせ聞いても意味不明だから聞かないとして、それより<鮮烈の色>に対して作ってやる物は聞いてるのかい? 昨日あの子達が泊まってる宿に聞きに行くって言ってたけど」
「既に聞いてるし、もう作り終わってるよ。結構な素材が余ってるから、ジャケットとかズボンとか色々作ろうか? スチールディアーの角でも切り裂かれなかったから、十分な強さはあると思う」
「「いやいやいやいや」」
「十分過ぎる強度でしょう! スチールディアーの角でも切れないって、とんでもないわよ? もはや服に必要な強さなのか、疑問が湧くぐらいね」
「でも破壊力というか衝撃は防げないから、あくまでも切断か刺突ぐらいしか防げないよ? 魔物の体重は重い事が多いし、それはどうにもならないから気をつけなきゃいけないし……。服としては優秀ってぐらいかなぁ」
「そうだね。あたしも着てるけど、命を預けられる物じゃないよ。あくまでも保険の域は出ない物さ。優秀なのは事実なんだけど」
「それはそうでしょうけど、服で切られないってだけで十分過ぎるわよ。重量系の攻撃に関しては、そもそも回避が基本だしね。そんなものは喰らったヤツが悪いのよ」
そんな話をしつつ保存食の朝食は終わり、ミクは<鮮烈の色>が泊まっている<拳骨亭>へと移動する。再びカウンターに居る少年に呼んでもらおうとすると、既にダンジョンに行ったとの事だった。
仕方なくミクもダンジョンへと行き、第5エリアに入ると、すぐに<鮮烈の色>の生命反応を感知。そちらへと移動していく。
すると、何故か<竜の牙>から指導を受けていた。
「今だ!! ……あー、惜しい! 今のタイミングで攻撃するんだ。お前さんはちょっと早い。焦ってる訳じゃないんだろうけど、落ち着いてやれ。ちょうど良いタイミングで攻撃しないと駄目だ。アタッカーっていうのは、そういう役目だからな」
「成る程。これから先バルディッシュに変えるから、更に狙い澄ました一撃にしないと……」
「何でこんな所で<竜の牙>が指導してるのか知らないけど、おはよう。<鮮烈の色>の4人は出来たよ、頼まれてた物」
「「「「やった!」」」」
ミクは一人一人にワイバーン製の武具を渡していき、代金として小金貨3枚と大銀貨5枚を受け取った。その金額を聞くや、すぐに怒り出す<竜の牙>。
「幾らなんでも安すぎるだろ! どうなってんだ! 買い叩きすぎだぞ!!」
「私がその金額で良いって言ったんだよ。いつかは壊れるものだし、私は知り合いにしか売らない。なら私が決めた価格で問題ないでしょ」
「いや、そりゃそうかもしれねえが……」
「いいじゃん。オレ達にも安く売ってくれるんだよね?」
「値段は一緒だね。武器は小金貨1枚で、盾は大銀貨5枚。何があっても金額は変わらないよ。大物でも小物でも一律で小金貨1枚。さあ、何を頼む?」
「うっ、それじゃあオレは小金貨2枚になっちゃうじゃん。マジかよー」
「諦めな。それはともかくとして私達はどうしようか? 色々と悩むけど、それぞれの武器が1本ずつかな? バッズは盾かもしれないけど」
「おれはメイスをもっているが、たてもつくってもらいたい。メイスはできれば1メートルをこえるものをたのみたいが、いいか? それとたてのかたちはタワーシールドだ。おれのからだが、かくれるぐらいのをたのむ」
「おお! 久しぶりに見た饒舌なバッズ。何だかんだとワイバーン製の武器と盾にテンション上がってる?」
「それはそうでしょ。早々お目に掛かれない代物だしね、ワイバーン素材って。そのうえ、どんな形状でも作れるっていうんじゃ、テンションも上がるでしょ」
<竜の牙>の面々が頼んできたのは、グレートソード、素槍、ショートソードとダガー、片手斧が2本、大型のメイスとタワーシールドだった。ミクはその依頼を引き受け、明日渡す事を言い、魔物を狩りに行く事を伝える。
<鮮烈の色>と<竜の牙>に挨拶した後は少し歩いていき、ある程度の距離を離れたら一気に走っていく。いちいち時間を無駄にしたくないのと、両チームにはバレているので取り繕う必要も無い。
一気に走って5階。ミクはすぐに次の階への階段を探す為に移動を開始する。実は魔物を狩る目的ではなく、今日からは50階を目指すのだが、その為には階段の場所を知る必要があった。
<鮮烈の色>と<竜の牙>に説明しなかったのは、ボスを突破する為の動きを知られたくないからだ。情報を渡すにしても、突破してからでいい。それまでは騒がれたくないのだ。




