0110・新武器と交換
宿のベッドで休んでいる分体とは違い、本体は新しい武器のレシピが出来た為、並行して7つの武器を作成している。
既に完成しているのは三角錐槍、ウォーハンマー、ククリナイフ、大型の片刃ナイフ、そして長巻だ。とはいえ刀のように作った訳ではなく、緩やかに湾曲させているだけではある。
それでも柄は1メートル50センチに刀身が1メートルと、かなりの大型だ。ウェストポーチ型のアイテムバッグに入っており取り出せるとはいえ、それなりの空間が必要になるだろう。
もちろんここまで大きく作ったのには理由があり、それは大型の魔物に対して使う為である。ワイバーンもそうだが、あそこまで大型だと最早一点を攻撃するよりも、範囲攻撃でないと碌なダメージが与えられない。
首の根元に叩きつけたり、尻尾の付け根に叩きつけたから何とかなったが、大型の武器を用意する必要性をミクは感じていた。そして新しいレシピが誕生したからこそ作れるようになった大型武器。
対亜竜、またはドラゴン戦を想定した武器が、今回作った長巻だ。だからこそミクは、大型の魔物が出てこない限りにおいて使う気は無い。多少練習はするが、少しでも気を使わなくて済む武器の方が楽なのだ。
ミクがウォーハンマーをメインに使う理由はそこに集約される。武器を使うのに当たって、気を付けるのは当たり前なのだが、ミクの場合は己の力で壊してしまうという気の使い方をしなくてはならない。
他の者とは全く違う形であり、シャルでさえも多少は理解できるという程度でしかない。ミク程に力をセーブしなければいけない訳ではないので、シャルにさえも全ては伝わらないのだ。
現在7つの武器を作っているが、その横でミクはエクスダート鋼の剣を溶かしている。これは溶かして死蔵するか、それとも何かの武器にするのか、そこをミクは悩んでいた。
シャルに見られるとバレる恐れがあるので溶かすのは確定なのだが、それ以降の使い道があまりない。実は持ってみて気づいたのだが、新しいワイバーン製より脆いのだ。
もちろん金属なので粘りがあり、簡単に折れるという可能性は低いだろう。ただ頑丈さであればワイバーン製の方が高く、エクスダート鋼ではミクのパワーの3割ちょっとしか出せない事が判明したのだ。
この程度では流石にミクが使う事はできないので、使うのならばシャルかカルティクになる。だが、それには必要かどうかを聞かねばならないので、今のところは加工できない。
そう結論を出したミクは、適当にインゴットにして保管する事にした。
(さて、だいたいの物は仕上がってきているけど、やはり色々と足りなくなってきたね。明日の夜辺りに王都フィラーへ行ってワイバーンを狩ってくるかな。暇潰しに丁度良いし)
暇潰しで狩られるワイバーンが可哀想で仕方ないが、そこはそれ、肉塊にロックオンされた時点で逃げ場は無い。なので素直に諦めてほしい、というか諦めざるを得ないだろう。
現在作成中なのはシャルの短剣3本にメイス、そしてカルティクの槍に短剣が2本だ。カルティク用の短剣は、一つはスタンダードなダガー。もう一つは前回も渡した40センチの合口となる。
(ドリュー鉄で作った物だが、あのドリュー鉄は回収して売るか。ウィリウム鋼も余っているし、両方要らんな)
そんな事を考えている本体。必要ない物は売るのが当たり前とはいえ、既にウィリウム鋼すら必要ないとは……。
草葉の陰で、とある盗賊が怒り狂っている事は間違いあるまい。本体は思い出しすらしないが。
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明けて翌日。朝日と共に起きたミクは、食堂に移動せずにゆっくりしていた。なぜかと言えば、シャルとカルティクに武器を渡さねばならないからだ。
昨日は会えなかったものの、<妖精の洞>の中にカルティクの反応はあるので、ダンジョン内で眠らずに帰ってきて寝ている。
ミクを追いかけてきた時は共にダンジョン内で寝たものの、やはりあれは珍しいのだろう。
ある程度経つとシャルが動き始めた為、仕方なくミクは起きて食堂へと移動する。食堂で出会ったシャルと共に朝食を注文し、大銅貨1枚を支払った。
「昨夜作っておいたのが完成してるから、今までに渡した物は全てこっちに返してね」
「………昨日の今日でもう出来たのかい。早いけどミクならこれぐらいで出来るのかね? …………うん、前の物とは明らかに違う。素晴らしい切れ味と威力で楽しみだよ。それに、メイスの柄が太い?」
「うん。シャルが振っているのを見てると、もうちょっと太くした方が力の入りが良さそうだったから、僅かに太くしておいたの。よく気づいたね」
「まあ、何となく違うから、それで気付いただけなんだけど……。コレも魔力を通すと、フランジが極悪な威力を発揮しそう。ある意味でシャレになってないよねえ、コレ?」
「それは、そうでしょうよ。そもそもワイバーン素材の武器っていうだけで尋常じゃないし、エクスダート鋼より手に入らない代物なんだから、希少性では相当上よ、ソレ」
「だろうねえ。ポンポンと出てくるし、乱獲されちまう悲しい生き物なんだよ、ワイバーンって……」
「あれ? 朝も早くからメイスなんか持って、食堂で何をしてるの?」
「ちょうどよかったよ、カルティク。私が渡した武器を持ってきて、全部交換するから」
「へっ?」
ミクは新しく作った武器に交換するから取ってこいと言い、カルティクはよく分からずも部屋に取りに戻る。
それを見たイリュは呆れたが、ミクが大銅貨2枚を出した事で椅子に座って注文。話を始めた。
「昨日頼んだ<黄金の実>はどうだった? ミクが逃がすとも思えないし、やられる訳は無いんだけど一応ね」
「壊滅させてきたよ。特に他の闇ギルドが居た形跡は無くて、<黄金の実>の単独だった。ただ屋根の上に隠れていたりとか、こっちを迎撃しようとはしてたね」
「こちらを迎撃……ねえ」
イリュはミクを見ながら言い、シャルは首を左右に振っている。そんな最中に戻ってきたカルティクは首を傾げているものの、ミクは短剣2本と槍を渡す。前に渡した物は回収し、ドリュー鉄は本体空間へ。
「ワイバーン素材の物はともかく、ドリュー鉄はどうするの?」
「インゴットにして適当に売っ払う。ワイバーン製より落ちるし、それはエクスダート鋼も変わらなかったよ。昨日の<黄金の実>の中にエクスダート鋼の剣を使ってる奴が居てね、調べてみたけど駄目だった」
「ふーん、エクスダート鋼の剣を使う奴ねえ。相当の腕のヤツか、バカに持たせたか。どっちだった? ……ってミクに聞いても無駄か。誰が相手でも弱いし」
「まあね。昨夜のエクスダート鋼の剣を持ってた奴は、自分の力に酔ってる感じだった。私が強くても自分なら勝てるって思い込んでたよ。だからそいつの目の前で、わざわざ怪物の口に変えてから喰らってやった」
「「「うわぁ……」」」
「どうして自信満々になれるのか、何も分からない相手をどうして警戒しないのか、不思議で仕方がないんだよね。何の根拠も無く、何故か勝つって思い込んでるし」
「そういう奴ってどこにでも居るわよ、実際。特に若い探索者に多いけど、なまじ若い頃から才気に溢れていると、いい歳になっても勘違いしたままな奴も居るもの」
「ああ、いるいる。面倒臭いのよね、そういう奴って。闇ギルドの連中なんて特に多いから仕方ないんでしょうけど、それじゃ本物に出会ったら殺されるって、何故か分からないのよねー」
「まあ、あんたやミクのような本物に出会ったら、大半の奴は殺されるしかないんだけどね。一部の奴だけさ、助かるのは」
「貴女は乱入して絡んできた挙句、駄目だと知るや、即座に逃亡したわよね。私が唖然とする速さだったわ」
「だからあたしは生き残ったのさ。そこを間違えると死ぬからね」
どうやら経験した者が教えても、その教えを活かせない事はあるようだ。そう思うミクであった。
108話の誤字報告、ありがとうございました




