0109・とある男と黄金の実の壊滅
気配を探れるであろう男を喰ったミクは、部屋を出て1階へと下りる階段に近寄る。既に臨戦態勢で待ち構える者達がおり、迂闊に下へと下りられなくなったミクは窓から外へと出た。
1階の窓から改めて侵入したミクは、生命反応を頼りに<黄金の実>の構成員を喰らっていき、階段の下で屯している連中に近付く。
「おい、どうすんだ? 上に行った奴等は戻ってこないぞ?」
「どうするって言ったって、戻ってこないって事は敵にやられたんじゃねえのか? その割には争う音が全然しねえけどよ。何かあって確認してるとか……じゃねえかな」
「かなって何だよ、ハッキリ言え!」
「だったら、てめぇが見に行けや! オレに言うんじゃなくて自分で見に行けば済むだろうがよ!」
「静かにしろ。敵が上に居たらバレバレじゃねえか」
「既にこんだけ時間が経ってんだ、敵が居るなら気付いてるっての!! そんな事にも気付かねえマヌケな敵なら、あいつらは無事に下りてくるだ、ろう? が……」
階段下に居た連中の頭上から麻痺毒を散布していたものの、バレずに麻痺させるには時間が掛かったようだ。2階の階段部分の辺りに細い触手を打ち込み、そこから垂れ下がっているので、蜘蛛が糸からぶら下がっているように見えるだろう。
頭上からの麻痺毒の散布で全員麻痺させたミクは、肉で包み転送しようとした矢先、突然横合いから攻撃を受けた。
ミクの蜘蛛の姿を正確に切りつけた男。何故かミクが認識できなかったが、おそらく【生命力隠蔽】のスキルを持っていたのだろう。生命力が感じられない以上、それ以外には無い筈だ。
「まさか小さな蜘蛛がやってくるとはな。あの<鮮血の女王>の手先か? オレが【生命力隠蔽】を持ってなかったら気付かれてたな。大して役に立たないスキルだと思っていたが、役に立つ時は役に立つらしい」
「そうだね。流石にそれはレアスキルだよ」
「なに!?」
真っ二つにされた小さな蜘蛛が下に落ちながらくっ付き、それが瞬く間に美女の姿に変わる。今はシャツとパンツだけの姿であり、裸ではない。
最近やり方を思いついたようだが、姿を変えると同時に最低限の下着だけを肉から押し出すように身に着けるのだ。細かい所は小さな触手で修正。これで姿を変えつつ下着姿になれるようになった。理由はカルティクが五月蝿いからである。
イリュと違い、彼女は常識人なのだ。長生きをしている者は多くのものを失い、それ故に細かい事を気にせず生きるようになる。それでも常識人である彼女は、若い頃から相当お堅い人物だったのだろう。色々失っても常識人なのだから。
「蜘蛛が女に? ……お前が妖精という奴か? 若い頃にスヴェストラ将軍から教えられた事がある、妖精からは逃げろとな。奴等は無邪気に人間種を殺す怪物だと、そう聞いたぞ?」
「へー、ヴェスがねえ。まあ、お前がヴェスの関係者だろうが何だろうが関係無い。<黄金の実>の連中を皆殺しにしろと言われている以上は、私はそうするだけ」
「ほう。油断も無いオレに勝てると言いたげだな。最早オレだけしか居らんが、早々簡単に負けると思うなよ」
「地下に生命反応があるのに何を言っている? いちいち狡い奴だね。ま、ここで死ぬ奴にはお似合いか」
「チッ! そこまで分かるとは……。いや、だからこそ<鮮血の女王>の手下な訳か」
ミクがイリュの手下だと勘違いしているようだが、ミクは訂正しない。いちいち面倒なうえ、ここで死ぬ奴に教えてやる必要など無いからだ。
それにしても、まさかレアスキル持ちがこんな所に居るとは思わず、そちらの方が不思議で仕方がないミク。レアスキル持ちに出会う確率など、相当に低い確率の筈なのだ。
とはいえ、一応殺し合いに使えるスキルだと、自分が出会う確率はそれなりに高いのだろうか? そんな事を暢気に考えつつ構えてもいないので、どうやら真面目に戦う気は無いらしい。
「……お前、なかなかやるようだな。隙らしい隙は見当たらんところを見るに、<鮮血の女王>の部下でもかなり上の方だろう? それとも虎の子を出してきたか?」
「さてね? 聞いて答えてくれると思う?」
「ふっ、思わんなっ!!」
脇構えで構えていた剣を、一歩踏み込んで横薙ぎにしてきた男。当然ミクは後ろに下がってかわす。しかしそれを見越していた男は、更に一歩踏み込んで返しの横薙ぎを繰り出した。
それもミクは下がってかわし、自然体のままで立っている。どんな攻撃が来てもかわせるという自信が垣間見え、イラッとする男。
「なかなかやるようだが、戦いというのは避けてるだけで勝てぅ! …………」
「避けるだけで勝て、何だって? 私を相手に随分と余裕じゃないか、いつ殺されるか分からないというのにさ。戦いを舐めているのは、どっちなんだろうね?」
ミクは男が喋っていた一瞬で詰め寄り、左のジャブで鼻を打った後、素早く戻った。ここまでされて、ようやく男はミクが手加減している事を知ったのだ。
屈辱と怒りがない交ぜになった男は、プルプルと震えつつ感情が爆発した。
「きさばッ!?」
「はいはい、夜中なんだから大きな声を出さない。礼儀も無い奴だね、まったく」
再びジャブを打って男の言葉を止めた後、呆れた様子で話すミクに対し、怒りが頂点にまで達した男は一気に動き出した。
水平、逆袈裟、袈裟、切り上げ。ミクを追いかけながら斬撃を放つも、全て空を切る。
それでも男は冷静だったのだろう。ミクを壁に追い詰め、渾身の袈裟切りを放った。
「死ねぇっ!!!」
魂魄まで篭めたかのような斬撃は、男の人生でも会心の出来であった。されどその剣は、バケモノの左手で無造作に握られてしまう。
「おーおー、頑張ったねえ。でも、もっと頑張らないと届かないよ? ま、ヴェスの斬撃でも私には届かないんだけどねー」
「お、お前は何者だ? なぜ剣を無造作に掴める! オレが全力で振ったうえ、これはエクスダート鋼の剣だぞ!? 何故だ!」
「へー……なら奪って何かに使うか。ま、とりあえずお前は死んでいいよ。別に凄くもなかったし、ヴェスの剣技の足下にも及ばない程度だった」
「は?」
目の前の、剣を無造作に掴む女の顔が、急にバケモノの口になり自分を喰らいに来た。男は咄嗟に両手を離し、後ろに倒れて逃げる。理解できない勘に従った結果、怪物の顎から逃れられたのだ。
しかし逃れられたのはそこまでであった。
「ほう。私の噛みつきを1度でもかわせたのは、お前が初めてだ。そこは褒めてやるぞ、人間種。だが、次は無い」
「お、お前は何だ。いったい何者なんだ……」
「私は怪物だよ、貴様ら人間種を貪る怪物。お前が言う<鮮血の女王>でさえ、私には勝てない。つまり、最初から絶対に勝てない相手に対し、調子に乗って喧嘩を売ったのだ。お前は」
「そ、そんな……」
「ヴェスはお前に教えなかったか? 絶対に勝てないバケモノからは逃げろと」
「あ」
その瞬間、男はバケモノに貪り喰われた。最初に首から上が喰われ、即座に本体空間に転送。レティーに溶かされて吸収された。その後に体部分が送られ、レティーが血抜きをしていく。
どうやら男は軍に居た事があり、その時に熱心にヴェスの指導を受けていたらしい。平民だった男は抜擢され近衛まで上ったものの、貴族との軋轢で辞める羽目になり現在に至る。
それだけであり、わざわざシャルに伝える必要も無いと判断したミクは黙っている事に決めた。男を喰った後は厨房の隅にある地下への扉を開き、地下へと下りて全員を喰らう。
気配、魔力、生命力、そして音。ありとあらゆるものを駆使し、敵が残存していない事を確認したミクは、<黄金の実>のアジトを出て宿へと戻る。
このタイミングでようやく新しい武器が完成したらしい。ここから更に解体ナイフなども作り直し、シャルの武器も作り直す事に。おそらく朝までには出来上がるだろう。
本体空間で別の分体を作りだし試したところ、4割はパワーが出せるようになっていた。頑丈さも随分と上がっているが、それでも半分も出せないという事実。
人外パワーとは、どれほどに強いのであろうか?。




