0107・新しい武器のレシピ?
マッスルベアーやスチールディアー、それにオークを倒しているとソイツは現れた。
3メートル近い身長に赤い肌、そして額には角。筋骨隆々であり、腰布しか身に着けていないその姿は、余計な物など戦闘には不要と言わんばかりである。
「ほう、オーガかい。ここでも出てくるとは聞いていたけど、厄介だねえ。オーガは好戦的だけど、オークのように食欲じゃないんだよ。もちろんゴブリンやコボルトのように残虐な訳でもない。こいつら武人だからさ」
「どうやら目的は私みたいだね。高がその程度の生き物が随分と調子に乗っているみたいじゃないか。その態度が間違いだと教えてあげるよ」
オーガはミクに「かかってこい」と言わんばかりの態度であったが、ミクは「誰に喧嘩を売ったのか教えてやる」という形で受けた。シャルは後ろに引き、ニヤニヤしながら観戦している。
オーガとミクが立ち合い、お互いに目で確認。まずはオーガに「殴ってこいよ」と言わんばかりに頬を出すミク。オーガは腹を立てたのか、怒った表情になり一撃。しかしミクはあっさりと拳を頬で受け止める。
そしてミクの番、ミクの高さでは拳が届かないので、わざわざ膝立ちになって顔を出すオーガ。同じ条件でないと許せないらしい。それが間違いなのだとは最後まで気付かないオーガであった。
ドバァン!!! という大きな音がして、ミクの拳を受けたオーガの頭は弾けとんだ。そもそもミクは自分の手足でならフルパワーが出せるのだ。そのフルパワーはオーガ如きが受け止められるものではない。
「予想通りの結果になったねえ。そもそもミクのパワーをなんだと思っているのか。オーガは強い奴と戦い、勝利する事に喜びを感じるような魔物だけど、所詮は相手の力も分からない程度の奴なんだろう」
「分からないよ。もしかしたら、シャルは最初から殴り合いに付き合ってくれなさそうだから、私を選んだのかも。わざわざ膝立ちになって顔を差し出すくらいの奴だったし」
「確かに、あの行動はちょいと珍しいとは思うけどね。それでも愚かさは変わらないよ。相手が強いと分かったのなら、脱兎の如く逃げ出さないとね。死の気配に気付かないなら、それは愚か者だよ」
レティーとドンナがオーガの血を吸い上げ、乾涸びたミイラのようになったら先へと進む。なかなかに血の量が多かったからか、2匹とも機嫌が良い。そんな2匹をアイテムバッグの上に乗せながら、2人は歩いていく。
マッスルベアーやスチールディアーを倒していると、ミクが右腕を肉塊にし、裸の剣身を転送してきた。一応持ち手には皮が巻かれているが、鞘などは一切無い。
携帯性を考えた60センチの剣身に、15センチの持ち手。全長で75センチの、皮が巻かれた部分以外は真っ白な剣がそこにあった。骨で作ろうと思ったが色々と配合してみたらしい。
「といっても特別な物なんて使ってないよ。焼成する前の段階で、骨以外にも爪と牙を粉にして混ぜて、更に魔石も粉にして混ぜた。その後に私の粘液を混ぜて練って、焼く時に魔力を篭めて焼く。そして本体の牙で研いだら完成。巻いている皮は仮称サンドワームの皮」
「ああ、61階以降に出てくるっていう砂漠ミミズか。それにしても、持った感じは十分過ぎる程だと思うんだけど?」
「牙とか爪の所為なのか、それともワイバーンの魔石を使ったのが良かったのか、思っているよりも良い感じの剣に仕上がったよ。作った本体もちょっと予想外だって言ってる」
「悪くはならないだろうって思ってたら、予想外に良い結果が出ちまって戸惑ってる感じかねえ……っと、アレで試し切りしようかい」
そう言ってシャルが見たのはスチールディアーだ。先ほどはワイバーン皮のラウンドシールドで突進を受け止めて、メイスで頭を叩き潰していた。正面から殴り勝つという凄い事をやってのけていたが、今回は果たして……。
いつも通り突っ込んできたスチールディアーを大きく避けると、相手は立ち止まって反転する。この山は斜面の角度が30度と勾配がキツいので、魔物も回避されると立ち止まる事が多いのだ。
その立ち止まり、振り向こうとしているスチールディアーに一閃。あっさりと首は落ち、夥しい血が噴出する。バックステップで距離をとり残心をしているが、尋常ではない切れ味に驚くシャル。
「いやいやいやいや、これエクスダート鋼の剣より切れ味が鋭いんだけど? ミクも使ってみな、コレ尋常じゃないよ。どうなってんのさ、この剣!?」
「えぇ、そんなに……? まあ、とりあえず壊さない程度に使ってみるか」
スチールディアーの血抜きをドンナにさせているシャルから離れ、ミクは獲物を探す。すぐにオーガが見つかったので、一気に接近して足を切る。魔力を通したからだろう、当たり前のように足を切り捨て、オーガは倒れる。
慌てたオーガは痛みを感じる前に動こうとするも遅く、倒れた瞬間には首を切られていた。いとも簡単に首の半分が切られたオーガは、切り口から血を噴出させつつ意識を失う。ミクは後をレティーに任せ、剣を持って少し調べる。
「オーガの肉や骨を切ったのに剣身には異常なし。刃に欠けも無さそうだからコレは使える武器ではある。あるんだけど……私はわざわざ使わないかな。仮に使うとしたら薙刀か長巻だ。グレイブでも良いけど剣じゃないね」
『やはり剣というのは使えないのですか?』
「何度も言うけど、剣の利点って携帯性ぐらいだからね。威力や範囲を考えれば薙刀や長巻の方が良い。剣で得するのは閉所、つまり狭い所での戦いに役立つくらいだけど、それなら短剣でいいし」
「ミクの言う通りではあるんだよ。閉所での戦いなら、と言うけども、場所によっては剣も振れない程の狭い場所もある。それだったら両手に短剣を持った方が有利だからねえ」
『私もオーガの血を飲む!!』
「好きにしていいよ。それより剣と……これね、鞘。その剣は好きにしていいけど、私が刃物を持つなら長柄だね。剣で届く範囲なら他の武器で良いし、大型の魔物相手なら長柄の刃物の方が良いに決まってる」
「長柄の刃物ねえ……」
「柄の先に分厚い刃が付いてるのが薙刀やグレイブ。そして柄の先に剣が付いているのが長巻だと考えればいいよ。細かい所は横に置いといてね。首が太かったり体が大きな魔物に対抗するなら、長柄じゃないと難しい」
「ミクが言ってるのは、こいつに1メートルか2メートルぐらいの柄を付けた物って感じなのかね? ………成る程、確かに優秀そうだ。特に大型の魔物に対しては良い武器だと思う」
「そうなんだけど………よし。バルディッシュを止めて長巻にしよう。そっちの方が切れ味が良いし、真っ直ぐの剣身だと切りにくい。……それにしても、これは全部の武器を作り直した方がいいかな?」
「別に今のままでも良いんじゃないかい? もちろん優秀な武器の方が良いだろうけどさ。王都まで飛んでいくにも時間がかかるだろう?」
「いや? 王都フィラーからゴールダームに帰る際は、単に朝の時間に合わせただけだよ? 遅くとも1時間で王都フィラーまでは行けるんじゃないかな。急げば30分くらい?」
「………そうかい」
肉塊のスペックを未だ見誤っていた事に、何とも言えなくなってくるシャル。そんなシャルを気にする事もなく製作を開始する本体と、ウォーハンマーを出して近くの魔物を狩りにいく分体。
自分が持つ剣を見ながら溜息を吐き、とりあえず剣帯に剣を着けるシャル。自分が計ろうとしても無駄なのだと、改めて思い知ったようである。




