0106・常設依頼
「………ラーディオンが無理にランクを上げると言っても流石に限度があるでしょうし、依頼を請けてちゃんとランクを上げましょうか? それが一番良いのだし」
「……急になんだい? さっき言ってた事と違うじゃないか。ランクを上げて裏依頼とやらをさせるんだろう? もちろん正規の方法の方が疑われなくて良いけどさ」
「いえ、思い出したのだけれど、エクスダート鋼の材料って常設依頼よね? 2人なら簡単に獲ってこれるんじゃないの?」
「………ああ! そういう事か! マッスルベアーとスチールディアーは確かに常設依頼だ。エクスダート鋼は他国との交渉材料でもあってな、常時買取にプラスされる常設依頼となっている」
「私知らずに普通に売ったけど?」
「そりゃ、ご愁傷様。常設依頼だから後から請けた事にする事は出来るが、それは受付嬢に言わねばならん。マッスルベアーとスチールディアーを狩ってきたら、受付で常設依頼だと言えばいい。それで依頼の達成回数は加算される」
「探索者にとって大事な依頼は、どの魔物を狩ってこれるか、だからね。他の系統の依頼はあんまり評価されないんだよ。たまにある護衛とか、普通の採取系の仕事だね。それでも護衛よりは採取系の方が評価されるけど」
「護衛はそもそも傭兵どもの仕事だからな。請けるなとは言わんが、あんな訳アリを評価しろと言っても無理に決まっている。ただ採取依頼と狩猟依頼は有ったり無かったりするからなー」
「それなりに多いのはレッドアイスネークとかランサーブルの肉かな? ランサーブルの肉はともかく、レッドアイスネークの肉は毒抜きをすると精力増強効果のある肉になるからね。意外に需要があるんだよ……女性に」
「あー、それはしょうがないわよ。どんな種族でも男は歳をとると元気が無くなっていくから。でも女としてはそれじゃ楽しめないし、なら買うわよね。女性の購入者が多いのは、そういう理由からよ」
「分かりやすいねえ。シンプルな理由過ぎてむしろ好感を持つよ、あたしは。本当に歳をとってくると下がって柔くなっていくんだよ、旦那もそうで色々大変だったし……」
「ゴホンッ! とにかくマッスルベアーとスチールディアーを狩ったら、常設依頼の事を受付で言ってくれ。それで依頼の達成数は加算される。元々第5エリアまで行ける以上、そこまで周りもゴチャゴチャ言わんだろう」
「それに関してはオレ達<竜の牙>も、それとなく噂を流しとくぜ。2人が凄腕で、第5エリアまで行ってるってな。実際あっさりと行けてる以上、誰も文句なんて言わねえだろ」
「妙なのが嫉妬で喚くぐらいじゃないかな? アタシ達<鮮烈の色>も怪しまれない程度に口にしておくよ。それよりも聞いていいかい? ミクってまだワイバーンの素材を持ってたりする?」
「持ってるけど……それがどうかした? 12頭狩ったから、まだ素材はかなり余ってるよ。なんなら毒の尻尾で鞭でも作ってあげようか?」
「それは怖いから遠慮するけど、牙があるなら短剣とか作れないかなーと思ってね。牙を1本売ってほしいんだ」
「短剣ってこんな感じのヤツ?」
そう言ってミクがワイバーンの牙で作った短剣をテーブルの上に置くと、ラーディオンを含めた2組が群がった。
ミクの持つ片刃の大型ナイフは、ナイフというより短剣だが、どうやらここに居るベテランのお眼鏡に適う物だったらしい。
「こいつはスゲーな。持った時に魔力を流したが、間違いなくかなりの切れ味になるぞ。そのままでも切れ味鋭く、頑丈そうだしな。長く使えるだろうが、ちょいと良い物すぎる気も……」
「どのみち下っ端じゃ買えないだろうから問題ないでしょ? ……こりゃちょっとシャレになってないかな。ここまでの物はスゲーけど、上手く使わないと怖い武器でもあるなぁ」
「それ、どんなぶきでもおなじ。うまくつかう、おれたちのしごと」
『………』
『反応しないと思ったら、寝てるみたいですね』
「ワイバーンの素材で出来た物はやっぱり凄そうだね。これを見てると欲しくなるけど、あくまでも短剣だし……ちょっと悩む。剣には使えないだろうしさ」
「流石にそれは無理でしょ。……無理だよね?」
「無理だね。骨を練って固めて焼く事で柄にする事はできるけど、それが限度だよ。それを刃にしたところで切れ味は良くないし、元々は骨を粉にした物だから頑丈さはあるんだけど……」
「ミクが納得できないってだけで、人間種なら十分な切れ味かもしれないよ? そもそもミクの場合は頑丈さを優先しなきゃいけないだけだろ? ワイバーン製の武器でさえ、4割のパワーは出せないらしいし」
「「「「「「「「「4割……」」」」」」」」」
「そうだよ。それも【身体強化】なんて使わない、素の力の4割さ。普段どれだけパワーを抑えてるんだって話だけど、あたし達には理解不能な領域なんだろう。きっと」
「それは横に置いとくとして、剣を作っても良いけど、多分求めているような物にはならないと思うよ。魔力を篭めたら切れ味は上がるだろうけど、それぐらいじゃないかな」
「まあ、良いじゃないの。最初の剣はあたしが使って確かめるよ。具合が良ければ貰えると助かるんだけど……?」
「作ったら戻せないから別に良いけど、短剣よりは色々落ちる。それは覚悟しておいてよ?」
「ああ、分かってるさ」
その後は解散。少し遅くなったものの、ミクとシャルは第5エリアへと進む。2人は【身体強化】で5階まで走って行き、その後はマッスルベアーとスチールディアーを狩っていく。
「午前は第4エリアで適当に狩りをしてたんだけど、ここはある意味で進みやすいみたいだから、こっちで狩りをした方が良かったかな? まあ、ランクの話は戻ってからだったから、言っても仕方ないんだけどさ」
「そこまで必死になる必要もないし、適当で良いじゃない、適当で。でも常設依頼として置いておく程の物かな? エクスダート鋼の材料だっていうのは分かるんだけど」
「ミクは分かってないねえ。今の世で一番硬くて強靭な金属がエクスダート鋼だよ? 各国においても最高峰と言われる金属だ。ゴールダームはそれを輸出してるけど、当然自国の騎士にも装備させる」
「ああ、つまり数が要るって事ね」
「そうさ。当然レシピは秘匿されてるから知らないけど、結構な量の素材が必要になるらしいっていうのは聞いた事があるよ。だから簡単には集まらないみたいだし、作れないみたいなのさ」
「大量に集めてドカンと作る感じかな? ならそれまでの素材は何処かに保管されてるんだろうね。炉の近くとかだろうけど」
「そりゃそうさ。わざわざ遠くに個別に保管したりはしないだろうし、そもそも立ち入り制限されてる場所に炉があるだろうからね。秘匿するっていうのは、そういう事だし」
「エクスダート鋼は今のところ欲しい訳じゃないんだよね。ワイバーン素材である程度のパワーに耐えられるから、無理して手に入れる必要が無いし、私は剣を使わないから尚更いらない」
「まあ、魔物との戦いで剣がそこまで役に立つかと考えたら難しいのと、頑丈さにはどうしても欠けるからねえ。グレートソードぐらいならって思うも、それじゃ利点である携帯性が死んでるし」
「なんだよねえ。携帯性が無いなら、別のもっと優秀な武器を使うから、わざわざ剣に拘る理由が無い」
「あたしもこの体になってからは、ミクの言いたい事が分かるよ。とにかく自分のパワーに耐えられるのが先さ。剣じゃ片手で使っても折れかねない」
そもそものスペックが3倍を超えるというのは、今までの感覚が通用しない程に違うのであろう。未だ自分の体の感覚を探りながら戦っているシャル。
<雪原の餓狼>も調整には苦労をしているようだ。




