0105・ミクとシャルの事
「私にとって人間種というものは食い物でしかない。しかし同時に神々から、腐ったゴミども以外は喰うなと言われている。最強の怪物とイリュは言ったけど、そんな私でさえ神どもには勝てない。だから神どもの命には従うしかないの」
「まあ、それはそうでしょうと言う他ないんだけどね。それはともかくとして、ミクの事をお前達に伝えたのは、この先の話し合いには必要だから。そして、ミクの秘密を明かせば喰われるわよ? という脅しの為ね」
「………あー、何かすっげえ頭が痛くなってきたな。藪を突付いてもいないのに、怪物が出てきたぞ? いや、突付いたのか?」
「さあ?」
「突っついたわよ。それはいいとして、カムラ帝国の話はミクから聞いてるわ。そして東西南北の盗賊団を潰したのもミクなの。適当に盗賊の話をしたら、喰い荒らしてきたわ。ミクにとって人間種を喰う事は食事らしいから、喰っていい者が居れば喰らうの」
「成る程……で、カムラの暗部の連中は内部で揉めたと。ミクにぶっ潰された後をどうするか、それが紛糾して魔物寄せを思いついたヤツが来た訳か……。うん? 東西南北を潰した?」
「そうだね。一ヶ月くらい前かな、東西南北の盗賊団を滅ぼして根こそぎ頂いてきたのは。その後はどうなったか知らない。私はフィグレイオ獣王国に行ってたし」
「フィグレイオにか?」
「<雪原の餓狼>からの依頼で行った筈だし、探索者ギルドにミクが依頼を請けた記録が残っているんじゃない? 調べれば分かるだろうから、帰ってから受付嬢に調べさせなさい」
「でも依頼は完了してないよ? ヴェスは依頼途中で近衛に殺されたからね。最後は近衛に囲まれて一斉攻撃、切られて刺されて死亡だったから、結局依頼は宙に浮いたまま」
ミクがそう言うと、ラーディオンはチラリとシャルを見た。「どう考えても、そこに居るだろう?」と言わんばかりの態度に、イリュも気付いたようだ。
「小坊主は、いつ気づいたの?」
「そう言うって事は、やっぱりか……。見た目がまったく違うが、あんたは<雪原の餓狼>だな?」
「今はシャルティアと名乗ってるよ。とはいえ、スヴェストラ・オルネイ・カロンヴォルフかと問われたら、死ぬ前はそうだったと言っておこうかね」
「死ぬ前は……? 顔も体も変わっちまってるが、今も生きてるんだろ?」
「生きている……と言えるのかねえ。あたしは実際に近衛に殺された、それは間違い無い。ただ、その後でミクはあたしの首を切り落として持ち出してる。で、ミクの本体にくっ付けて蘇生させられたりがあって、最後にこの体に首から上をくっ付けられた訳だ」
「何がどうなったら、首から上だけで生きていられるの?」
「そんな事を聞いても無駄だと思う」
「まあ、そうだね。あたしも信じられなかったくらいさ。大体ワイバーンの血肉に骨と内臓、そしてミクの血肉が使われた体なんだよ、コレ。そしてくっ付けられた後に気絶しちまってね、気付いたら今の顔に変わってたのさ」
「ワイバーンだと!?」
「そうだよ。ミクにした依頼は王都近くのダンジョンの攻略。そしてその80階にはワイバーンが居たのさ。ミクは乱獲して大量に素材を持っててね、その血肉や骨や内臓を使った肉体がコレさ。御蔭で全盛期より遥かに強くなったよ」
「<雪原の餓狼>が更に強くなったっていうのかよ……。シャレになってねえ」
「あたしが蘇ったというか生かされてる理由は、ミクがゴミを喰う為の協力要員。つまり情報収集役として生かされてる。ちなみにだけど、あたしを奴隷にするのは無理だよ? 既にミクから<隷属の紋章>を刻まれてるからね」
「<隷属の紋章>は古い物だし、知ってる奴は居ないでしょうね。魂にまで刻む呪いの紋章なんだけど、代わりに別の奴隷系の物を完全に無効化してしまうの。そのうえ【真偽判定】すら通用しなくなる」
「そりゃ尋常じゃねえし、本物の呪いかよ。シャレになってねえけど、あんたは良いのか?」
「良いも何も、最強の怪物から逃げられるとでも思ってんのかい? 更に言えば、あたしがミクを騙して利用したのが原因だからねえ、流石に自業自得と言わざるを得ないよ。それに今の生活も悪くはないさ」
「あの! アタシ<雪原の餓狼>に憧れがあって! それで詳しい話を聞きたいんだけど、いいかな?」
「あー……まあ、機会があればね。あたしも昔のヤンチャは話したくない事も多いからさ。中には勢いでやっちまって、たまたま上手くいった事なんかもあるんだよ。語られてるような美談とか、英雄っぽくないのとかね」
「そりゃ、そうだろうさ。何でもかんでも上手くいく奴なんていねえよ。とりあえず話を戻そう。ワシやギルドとしては、緊急の際には協力をしてほしいんだ。特に裏組織や闇ギルドが原因の事でな」
「各国の暗部じゃなくて、裏組織や闇ギルド?」
「いや、暗部の事もそうだが、裏組織と闇ギルドを使ってきそうなんだよ。裏組織の連中も、間にゴールダームのもんを挟まれると仕事を請ける可能性が高い。奴等はそういう搦め手も使ってくるからな。こっちだって一枚岩には程遠い」
「それは組織である以上、どうしようもないでしょ。何処もそうだけど、人数が増えれば増える程に一枚岩では居られないわ。でも裏組織の方はそこまで動いてない、代わりに闇ギルドにそれっぽい動きはあるのよ」
「それは?」
「ミクがトンネルを破壊した結果、地下のトンネルが見つかって大きな問題になったでしょう? あれの件でちょっとした動きがね、あるのよ」
「あの崩落、お前さんがやってたのか……」
「崩落して使えなくなった事を理解した闇ギルドの一部が、新たに自分達で掘ろうとしてるんじゃないかっていう情報ね。でもこれ罠じゃないかと睨んでるのよ、私達を誘き出す為の」
「何であんたらを?」
「どうもね、ここ最近の裏組織や闇ギルドの壊滅を、私達の仕業だと思ってるみたいなのよ。で、今度は自分達が潰されるかもしれない。なら、こっちから罠を仕掛けて潰してやる! って感じなんでしょうねえ」
「そこまで言うって事は、確証があるんだな?」
「まあね。伊達にゴールダームの闇に長くいる訳じゃないのよ? 散々色々な事をしてきたし、派手に敵を蹴散らしてもきたわ。未だに敵も多いけど、最後に勝つのは不老の私達よ」
「「「「「「「「「不老!?」」」」」」」」」
「あたしも不老になったよ、この体になっちまった所為でね。未だに実感が無いけどさ」
「<雪原の餓狼>が不老って……。表でこうだったら、各国は怯えてるな。あの女将軍が不老になって、将軍位に永遠に居るんだぜ? 各国の軍は勘弁してくれとしかならんだろ」
「何か話が逸れてるけど、情報のすり合わせは終わった感じだね。なら私はもう行っていい? 朝から第5エリアに行こうと思ってたんだけど、あの暗部の男の所為で全くダンジョンに行けてないんだよ」
「そうなの? それは、お疲れ様。……ねえ、ミクに用があるのなら、探索者ギルドの裏依頼にすれば良いんじゃないの? どのみち実力は文句無しなんだし、人は容易く殺せる。ならランク10より上にしても大丈夫でしょ」
「成る程な、確かに何の問題も無い。<雪原の餓狼>殿も問題ないから、ギルドマスター権限で試験は通過させとこう。本人を知ってりゃ文句なく通過させられるし、昨日第4エリアを突破したっつってたからな」
「それなら周りを黙らせる事も出来るでしょう。強引にランクを上げて、裏で依頼すれば終わる話ね。元々裏依頼は良いも悪いもギルドの調停機能だもの。国によらない治安維持機構、それが探索者ギルドの前身よ」
どうやらイリュは、その組織にも関わりがあったらしい。そこは聞く気の無いミクであった。




