↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/22

第三話 え、あなた国家最高権力者だったんですか?!

「これさ……大豪邸どころじゃなくて、完全にお城じゃん。まさかの超絶金持ち!?」


車窓から見えたその建物の威容に、私は内心で呆然と立ち尽くしていた。白亜の尖塔が幾重にも立ち並び、広大な庭園には手入れの行き届いたバラが咲き誇り、甲冑を着た騎士たちが整然と行進している。孤児院の小さな世界しか知らなかった私の脳みそには、刺激が強すぎる光景だ。だが、感心している暇など一瞬すらなかった。


私があっけに取られている間に、案内されたのはその「お城」の中にある重厚な一室だった。部屋の中央には、天蓋付きのふかふかそうなソファと、先ほど体の中で感じた魔力のようなものをかすかに発する、丸い石が置かれたテーブル。この石は特別な魔法具で、ここで話す会話が外部に一切漏れないよう音波を遮断する盗聴防止の道具らしい。

(赤龍に続いて、いかにも異世界ファンタジーっぽいアイテムの登場ね……。孤児院にいた頃は、外の世界のことなんて知る機会もなかったから新鮮だけど……)


だが、そこで繰り広げられた会話は、私の脳を本気で揺さぶるのに十分すぎるほど衝撃的な内容だった。重々しくソファに腰掛けたお貴族様――いや、その美しい青髪のお方が、腕を組んで深く重々しく口を開く。


「この孤児を、ルキハの婚約者とする」

(……うーん?? 状況がまったく読めないんだが??)


さっきまで馬車に乗る前は「孤児など我々の名を汚す! 婚約など断じて認めん!」と顔を真っ赤にして激怒していたはずだ。それがなぜ、今や「絶対に結婚させてやる」という鋼のような固い意思を感じさせる表情になっているのか。方向転換のスピードが早すぎて意味が分からない。

すると、私の隣に座っていたルキハが、待ってましたとばかりにパッと目を輝かせた。


「ええ! そうしましょう父上! これは絶対に逃してはダメです! 美しいし可愛いし、魔法もすごくて、もうヤバいです!」


(いや、いくら私が美しすぎて魔法まで使えちゃったからって、そこまでする!? 絶対ヤダ! 自由がなくなるなんて絶対に無理!!)


私は必死に猫をかぶりつつ、困惑したように目元を潤ませて尋ねてみた。


「あの……私が何かいたしてしまいましたでしょうか? 先ほどは、私の身分を理由に婚約に強く反対されているように見受けられましたが……」


「ああ。それは先ほど『まで』の話だ。お前が魔法を使えるのであれば、話は根底から変わってくる」「……え?」お貴族様は真剣な眼差しで私を見つめ返した。


「そもそも魔法とは、貴族の血筋を持つ者にしか扱えん特権なのだ。平民が魔法を身につけることなどあり得ん。……にもかかわらず、お前は貴族でもないのに、そこら辺の貴族たちどころか……この私よりも遥かに強力で圧倒的な氷魔法を使っていた」

(……え、嘘でしょ?)


自信過剰な自分をアピールしたいわけではないが、私はそこまで「規格外の怪物魔法」を使った覚えはない。

脳内で「カチコチに凍りつくイメージ」を浮かべて魔力を放出しただけだ。もしかして、この世界の魔法使いって、もっとこう……地道に長い呪文を唱えて小さな氷塊を出す程度のレベルなのだろうか?


「お前、名前はリルといったな。もしかして、どこか別の国の王族の生き残りか何かか? 苗字は何という?」


そんなことを真顔で聞かれても困る。なぜなら、私のこの体の記憶は4歳頃からしかなく、今は7歳。つまり、たった3年分の記憶しか存在しないのだ。気がついた時にはすでに孤児院の固いベッドの上にいて、「リル」と呼ばれていた。昔の家族のことなんて、両親が殺されたという噂以外、何も分からない。


「すみません。私は4歳頃からの記憶しか残っておらず、昔のことは覚えていないのです……お力になれず、申し訳ございません。……あともう一つ、大変不躾な質問をしてもよろしいでしょうか?」


「ああ、構わない」


「ではありがたく……お二方のお名前を、改めてお伺いしても?」


「え、僕たちの名前を知らないのか!?」ルキハが素で信じられないといった顔で驚く。


「はい、孤児院におりましたので、お名前を伺う機会がございませんでした」すると、父親の方がどこか申し訳なさそうに頭を下げた。


「そうか……何も説明せずに話を進めてしまって申し訳ない。私の名前はトニミスタ・ディア・アレア。……トニミスタ王国の現国王である」

(……え、国王!?)思考が一瞬フリーズした。この国の名前、確か本当にトニミスタだった気がする。嘘でしょ、ってことは――

「そして僕はこの国の第一王子、トニミスタ・ディア・ルキハだ!」


まじで!? 私、国家最高権力者親子に対してめちゃくちゃ失礼で図々しい態度取ってたじゃん!! 打ち首になってもおかしくないレベルだよ!!


「こ、国王様と第一王子様でしたか……! お気づきになれず大変失礼いたしました!」


「良い。孤児であれば勉学の機会も乏しく、知らぬことが多いのは当たり前だ。気にするな。……そして、胸が痛むがこれは決定事項だ。ルキハとお前を『婚約』させる。他国にお前の存在が知られれば戦争の引き金になりかねん。それに伴い、お前を別国の上級貴族の落胤ということにしておく」


国王様が苦しそうな、申し訳なさそうな顔をしながら、まっすぐに私を見つめて言った。その綺麗な赤色の瞳には、さすが一国を治める国王と言わざるを得ない圧倒的な迫力と重みがあり、私は完全に言葉を失った。……これはお願いではない。国家の存亡をかけた、国王からの絶対の『命令』だ。ただの孤児の私に断れるはずがない。私は静かに首を縦に振った。


「……承知いたしました」こうして私は、今日から「王宮」という名の大豪邸に身を寄せることになったのだった。


◇



部屋へ案内してくれたのは、ここで働く「ろこ」という名の若い少女だった。紅茶のようなきれいな茶髪を一つにまとめていて、落ち着いた雰囲気を纏っている。私をふかふかのソファへと促すと、心配そうに声をかけてくれた。


「リル様、お体は大丈夫でしょうか? 旦那様が『体の魔力を全部使い切って倒れたのではないかと思われるほどの魔法を発動していた』とおっしゃっていたので……」


「魔力ですか? いえ、まだ体の中に溢れるほど全然ありますよ?」


魔力という存在に気づいた時から、体の中にはずっと温かい湯船に浸かっているようなエネルギーが充満している。やっぱり私の魔力量やお肉体のスペックはおかしいのだろうか? まぁ、もし本当にこの世界で規格外のチート魔量なら、後でいくらでも利用価値がある。ラッキーだ。


「大丈夫です。お気遣いありがとうございます、ろこ」


「それは良かったです! では、本日はゆっくりお休みくださいませ」


孤児院とは比べ物にならないほど広い、王族専用の客室。孤児院と違って、一人でふかふかのシルクのベッドに横たわる。


最初は「こんな慣れない大豪邸で緊張して寝られるわけがない」と思っていたのだが、ベッドが気持ち良すぎて横になった一瞬で意識が吹き飛んだ。……孤児院のベッドは板のように固くて寒かったからなぁ。



翌朝。コンコン、と部屋のドアを叩く丁寧なノックの音で目が覚めた。


「お入りになってもよろしいでしょうか?」ろこの優しい声に「はーい」とあくび混じりで答えると、彼女が入ってきて、とてつもなく綺麗なドレスを着せてくれた。私に似合う鮮やかな青のドレスで、袖や裾に繊細なフリルがあしらわれた可愛らしい一着だ。その後、従者のサスタに朝食の席まで案内された。


王宮の廊下はバカみたいに長く、子供の足で歩くのは一苦労だ。しばらく歩くと、重厚な装飾が施された大きな扉が現れた。扉が開くと、そこには国王様、そして息をのむほど美しい王妃様、さらにルキハが揃って座っていた。案内された席につくと、すぐに豪華絢爛な朝食がズラリと運ばれてくる。芳醇な肉汁の匂いを漂わせるステーキに、カラフルな新鮮野菜のサラダ、豪華なフルーツの盛り合わせまで。


孤児院ではクリスマスすらお目にかかれないようなごちそうだ。今すぐにでも飛び付きたかったが、私はぐっと耐えた。他のみんなが手を付けるまで待つのだ。やがて国王様が一口食べ、続いて王妃様、ルキハが食べ始めた。


(……待って、これどうやって食べるの??)


私の中で猛烈な疑問とパニックが湧き上がった。料理の横には、用途の分からないナイフやフォークが何本も並んでいる。私はいままで孤児だったのだ。手掴みか、欠けたスプーン一つでガツガツ食べてきた。テーブルマナーなんて知る由もない。だが、ここで行儀悪く食べてドン引きされるのはマズい。だってここ王宮だぞ!? 国家のトップの前だぞ!? 無理ゲーすぎる!


困惑して料理に手を付けずに固まっていると、隣のルキハが不思議そうに声をかけてきた。


「お前、なんでご飯食べないの?」


「えーっとですね……お恥ずかしながら、私は孤児院で育ちましたので、食事の作法がままならず……皆様の前で行儀悪くいただくなんて、申し訳なくて……」


しおらしく俯いて言うと、ルキハは「ははっ!」と軽やかに笑った。


「礼儀か! そんなことを気にしていたのか。孤児院で育ったことは分かっているのだから、気にせず好きなように食べればいいよ」

(でも……)と思い周囲を見渡すと、国王様も王妃様も優しく微笑みながら頷いてくれている。なんと優しいロイヤルファミリー……と言いたいところだが、正解は間違いなく『可哀想な子だから許してあげよう』という同情だ。

なぜなら――「大丈夫だ、好きなだけ食べなさい。今までろくに良いものを食べてこなかったのだろう。可哀想に……こちらは気にしなくても良いのだからね」国王様が、完璧な同情と哀れみの笑みを浮かべてそう言ったからだ。


よし、なら遠慮なくいただきます!!「いただきます」私が胸の前で両手を合わせると、食卓にいた全員が


「何をしているのだ?」という顔でピタリと固まった。

「……何をしているのだ?」ルキハに突っ込まれ、私は内心で滝のような冷や汗を流しながら、焦って取り繕った。


「えーっとですね! これは私なりの……命と、作ってくださった方々への『感謝の表現』なのです! ハハッ……」


(こんなクソみたいな言い訳が通じるわけがない……! でも孤児院独自の風習とか言っておけば何とかなるか!?)

冷や汗ダラダラで『これまでで最高の笑顔(苦笑い)』を浮かべると、国王様はいたく感銘を受けたように深く頷いた。


「そうか。感謝か……リルは本当に、健気で良い子だな」

(通ったーーー!?!??)重度のメサイアコンプレックス思考、恐るべし。ていうか、ルキハの私の呼び方が「お前」から「リル」に変わっている。

まぁいいや。私は運ばれた豪華な朝食を、マナーを適当にごまかしながら美味しく平らげた。食事が終わると、食器がそそくさと下げられ、私の前に一枚の皮紙と小ぶりのナイフが置かれた。見ると、そこには達筆な文字で『婚約書』の文字。いわゆる婚姻届みたいなものだ。


……しかし、なんでナイフが添えてあるの? 刺されるの? 血判!?泣きそうなんだけど! 昨日今日来たばかりで早すぎでしょ!不安でビクビクしていると、国王様が重々しく口を開いた。


「お前にはルキハと結婚してもらう。お前の魔法はあまりにも危険で貴重だ。他の貴族や他国に渡すわけにはいかん。保護という形で守りやすくするためには、この婚姻が最善なのだ。17歳になるまでは結婚ができないため、まずは婚約という形を取らせてもらう」

ここで、今まで静観していた王妃様――アレン様が優しく微笑みかけてきた。


「私はこの国の王妃、アレンよ。わたくしもルキハや旦那様からあなたの話を聞いて、守ってあげたいと思ったの。だからお願い、婚約者になってちょうだいね」

(……あー、マジでムカつく!!)


こっちに拒否権なんて一切ないくせに「お願い」とか言ってくるのが本当にウザい。私は心の中で激しく毒を吐きつつ、瞳にうっすらと涙を浮かべて全力で『可哀想で健気な可憐な少女』を演じた。


「私などで……よろしいのでしたら。よろしくお願いいたします……っ。あの、これは……血判を押せばよろしいのでしょうか?」


「そうだ」

(痛いの嫌だなぁ……血とか見るのも無理なんだけど……)


私はぎゅっと目を瞑り、ナイフで自分の指先に小さな傷を作って、婚姻書に血判を押した。


「ありがとう、感謝するよ」と国王様。だが、私の腹の中の怒りは頂点に達していた。勝手に自由を奪われた挙句、これからずっとこの人たちの言いなりになきゃいけないなんて冗談じゃない。なら、こっちの要求も飲んでもらわなきゃ計算が合わない!


「あの……無理を承知でお願いがあるのですが。私は婚約者になっても、自由に生きたいと思っております。婚約者としての最低限の責務は果たしますが、それ以外の私的なお願いは一切お聞きできません。いいでしょうか? なにせ私はずっと孤児だったのです。今さら貴族の枠にはまるのは、とても苦しいのです…」泣きそうな声で訴えると、国王様は申し訳なさそうに頷いた。


「ああ、構わない。君にはずっと無理を言っているからな。自由にしてくれて構わん」

(ヨッシャ! ラッキー!! 自由に生きるぞ!!)


それにしても、何なのこの偽善者一族!? ほんとにロイヤルファミリーか!?心底ムカつく。責任を持って幸せにするのではなく、「可哀想な子を救ってあげる自分」という理想の幸せを押し付けてくるだけじゃない! 特にルキハ! 勝手に私を巻き込みやがって、マジで無理!!絶対にお前の言いなりになんてなってやるもんか。金を使いまくって散財させ、最終的に離婚する! それを目標に自由に生きてやるわ!!外面では猫を被るけれど、家の中では好き勝手に生きさせてもらうから!


食事が終わり、皆が席を立った後、室内に残っていたルキハに言い放ってやった。


「私はもう悪女ですので、私のことを嫌いになって後悔しても知りませんからね!」


「ああ、構わない! お前を救えるのは僕だけだからな。僕は絶対にお前を見捨てたりしない!」


(また『お前』に戻ってるし! 呼び捨てにするのか『お前』にするのかハッキリしなさいよ!!)捨て台詞を残し、私はプリプリと怒りながら部屋に戻った。あぁ、血判のためにつけた指先の傷がじんじん痛む。それにしても、ここにいると無駄に貴族っぽい喋り方が移ってしまうな。

……まあ、生き抜くためには役立つからいいけれど!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。