第十三話 迫る脅威と、薄闇の中の絶望
「ひっ……!」
喉の奥から、押し殺した短い悲鳴が漏れ出た。
鼻を突くのは、腐敗した生ゴミとドブの匂い。そして、目の前の男たちが纏う、生々しい酒と汗の饐えた臭いだった。
「見ろよ、この肌の白さ……。着てる服も、お上品な絹だぜ?」
「へへっ、どこかの貴族様の箱入り娘が、一人で散歩かい? 運が良いなぁ、俺たちはよぉ……」
舌なめずりをしながら、粗暴な男たちがじりじりと距離を詰めてくる。
粗末な革の服には油汚れがべったりとへばりつき、浮き出た血管が走る太い腕には、荒々しいタトゥーと何かに切りつけられたような古い傷痕が刻まれていた。
下品な笑みを浮かべる彼らの黄色く濁った瞳には、純粋な悪意と欲望がギラギラと渦巻いている。
(嘘でしょ……!? なんで……なんでこんなことに……!)
ドクン、ドクン、と心臓が破裂しそうなほど高く跳ね上がる。
冷や汗が全身の毛穴から一気に吹き出し、背中が氷でも押し当てられたかのように冷たくなっていく。
逃げなければ。そう頭では理解しているのに、恐怖で脚がガクガクと震え、膝が笑って地面に縫い付けられたように動かない。
前世の記憶があるとはいえ、今の私はわずか7歳の幼い少女の体だ。
男たちの丸太のように太い腕一本で、簡単に捻り潰されてしまうだろう。力づくで立ち向かうなんて、最初から勝ち目のない悪あがきでしかない。
「さぁて、大人しく来てもらおうか。大声を上げたら……この綺麗な顔に傷がつくことになるぜ?」
シャキン、と金属が擦れ合う嫌な音が響いた。
中央に立つ一番体格のいい男が、錆びついたナイフを懐から抜き出し、ニヤニヤと笑いながら刃先をこちらに向けて突きつけてくる。
(嫌だ……! 来ないで……!!)
逃げ道を求めて必死に視線を巡らせる。
だが、前方を3人の男たちに阻まれ、後方からも別の男が塞ぐように歩み寄ってきていた。左右は不気味な黒ずみで覆われた高いレンガの壁。
退路は完全に断たれ、私は路地裏の狭い行き止まりに完全に追い詰められていた。
ルキハや護衛の騎士たちの姿を探すが、この入り組んだスラム街の影に隠れて、声すら届くはずがない。
先ほどまで感じていた下町の活気や甘いパンの匂いは、遠い幻だったかのように遠のき、ここには死と絶望の冷気だけが漂っていた。
男の太く汚れた手が、私の肩を掴もうと空中を伸びてくる。
爪の間に黒い汚れが詰まったその指先が視界を覆い尽くし、圧迫感が私を押し潰す。
――もう、終わりだ。
あまりの恐怖に視界がぐにゃりと歪み、私はぎゅっと強く目を閉じることしかできなかった。
「……助けて……! ルキハ……っ!!」
声の限りに叫んだ私の悲鳴が、湿った路地裏の空気を切なく引き裂いた――。




