第十一話 偏屈なドレス職人
ルキハに連れられて下町の路地裏にある小さな仕立て屋へ向かうと、そこには片眼鏡をかけた気むずかしい老職人・ベルグがいた。
ルキハが「新しいドレスを作ってほしい」と頼むと、ベルグは私をじっと見つめ、店の奥にある狭くて薄暗い部屋へと案内した。
ボロい椅子がギィと嫌な音を立てる室内で、ベルグと二人きりになる。
「お嬢さんは、どうして殿下と婚約されたのですか?」
ベルグからの鋭い問いに、私は「一目惚れいたしまして……」と可憐に嘘をついた。しかしベルグは「嘘は結構です」と冷たく一蹴した。
「本当の心が知りたいのですよ。この私が作るドレスに『ふさわしいお方』かどうかをね」
圧迫感に耐えかねた私は、ついに開き直って本音をぶちまけた。
「っ……分かっていて仰っているのですか!? 私は、あのお方との婚約を破棄したいのです! 使えるだけあのお方のお金を使わせ、散財させた挙句に婚約破棄してやろうと思っておりますの! 無理やり婚約させられたのですから、バチは当たりませんわ!!」
言い切った!
ベルグは口を半開きにして呆然としていたが、次の瞬間――「ははははっ!」とお腹を抱えて大爆笑し始めた。
「面白すぎる! ですが……ダメですね。あのお方を裏切るかもしれない者には、私はドレスを作れません」
その言葉に、私の悪女としてのプライドがカチンと来た。
「裏切るですって!? そんな卑怯なマネ、するわけないでしょう!! これは私とルキハの、正々堂々とした勝負なのよ! ズルして裏切るなんて、そんな格好悪い真似するわけないでしょ!! なめないで頂戴!!」
散々怒鳴り散らしたものの、ハッと我に返った時にはベルグは顔を真っ赤にして固まっていた。
(……あ、これ絶対に失敗したわ。ドレスゲットならずね)




