45. サウベリア大森林
朝、
鳥のさえずりで目が覚める。
「ふぁぁ……」
テントの入口を開けると、朝露に濡れた草原が目に入った。
俺が寝ている間に温暖前線でも通ったのかはわからないが、
風はこころなしか南に向いている気がする。
それに…
空気が澄んでいる。
気持ちいい朝だ。
鍋で簡単なスープを温め直し、パンと一緒に朝食を済ませる。
食器を片付け、テントを収納の刻印石へしまう。
「便利だなぁ」
荷物が全然かさばらない。
旅人なら誰もが欲しがる刻印石だろう。
……まあ。
俺は石しか刻めないんだけどね。
街道を西へ歩き続けること数時間、
遠くに見えていた緑の壁が、
少しずつ大きくなっていく。
「……でかい」
目の前に広がるのは、
サウベリア大森林。
皇国西部最大の森林。
地図にも「迷いやすし」とだけ書かれている。
「なるほど」
確かに広い。
見渡す限り木、
木
木
木
本当に木だらけだ。
街道は森の中へ一本だけ続いていた。
「行くか」
一歩踏み入れる。
すると、
途端に空気が変わった。
木漏れ日。
湿った土の匂い。
遠くで流れる川の音。
鳥の鳴き声。
そして……
どこかで聞こえる魔物の唸り声。
「おぉ……」
なんだろう。
怖いというより、
ワクワクする。
「……ん?」
歩いていると、足元に白い石が転がっていた。
拾い上げる。
「石英か」
透明度は低い。
でも綺麗だ。
収納。
ポイ。
さらに歩く。
「あ」
今度は赤茶色の石。
「鉄鉱石?」
収納。
ポイ。
「これも」
収納。
ポイ。
「……」
「石多くない?」
森なのに。
石だらけだ。
嬉しい。
非常に嬉しい。
気付けば街道の脇ばかり見て歩いていた。
「おっと」
危ない危ない。
道に戻る。
……いや。
あっちにも石がある。
「…………」
五分後、
俺は道を外れていた。
でも……
「……」
「最高」
石だ。
石
石
石
川辺には丸く磨かれた石、
崖には鉱脈らしき筋、
苔の隙間から顔を出す結晶。
もう天国だった。
「これも」
収納。
「これも」
収納。
「これは……あとで調べよう」
収納。
気付けば小さな山ができていた。
「いやぁ」
「森って最高だな」
そんなことを呟いた瞬間だった。
ガサッ。
「ん?」
草むらが揺れる。
次の瞬間。
灰色の影が飛び出してきた。
「グルルル……」
狼。
いや。
普通の狼じゃない。
体長は二メートル近い。
魔物だ。
サウベリア防戦では、戦ったけど……
遠距離だったから、近くで見るのは初めてかもしれない。
「旅の洗礼ってやつか」
俺は収納の刻印石から一つの石を取り出す。
昨日作ったばかりの疾風の刻印石。
「試してみるか」
石を握る。
「疾風」
足元に風が巻いた。
身体が軽い。
そんな俺に、
狼が飛びかかる。
しかし、
「遅い」
一歩横へ。
風が身体を押し、簡単に回避できた。
「なるほど」
「これは使える」
バサルトは思わず笑みを浮かべる。
旅はまだ始まったばかり。
未知の森。
未知の魔物。
そして、
まだ見ぬ石。
その全てが、俺を待っている。
だが……
ここでミスって死ぬのは嫌なので逃げさせてもらう!
そう、
命あってこその石好き人生。
鉱石市場にたどり着くまでは何があっても死ねないのだ!
そうして俺は、疾風の刻印石で灰狼から逃げたのであった。
狼に構ってるヒマがないのでささっと逃げるバルト。
まぁ、合理的ですね(^_^;)




