41. 今度はお祭りの嵐です
「これで終わりだ!」
俺は最後のルビーの刻印石へ、残っていた魔力をすべて流し込んだ。
ブゥゥゥゥン……
真紅のルビーが、まるで太陽のような輝きを放つ。
黒狼王は一直線にこちらへ突っ込んでくる。
あと数十メートル、
あと二十、
あと十。
「今だ!」
ゴォォォォォォォォォッ!!
これまでで最大の炎渦が解き放たれた。
灼熱の竜巻は黒狼王を正面から飲み込み、天へ向かって渦を巻く。
轟音、熱風、赤く染まる空。
誰もが息を呑んで、その光景を見つめていた。
炎が少しずつ収まっていく。
黒い煙が風に流される。
そして、その中心には――
黒狼王が立っていた。
「……まだ」
膝をつきながらも、黒狼王は生きていた。
毛並みは焼け焦げ、全身から煙を上げている。
それでも黄金色の瞳だけは消えていない。
ゆっくりと立ち上がろうとする。
「すごい生命力だ……」
誰かが震えた声で呟く。
「バルト!」
ガルドさんが叫ぶ。
「十分だ!」
「ここからは俺たちの仕事だ!」
巨大な斧を握り直し、前へ出る。
兵士たちも続く。
「街を守れ!」
「おおおおおっ!!」
最後の総攻撃が始まった。
槍が突き出される。
剣が振るわれる。
魔法が一斉に放たれる。
そして――
「終わりだぁぁぁぁぁっ!!」
ガルドさんの渾身の一撃が、黒狼王の首元へ叩き込まれた。
ズガァァァァン!!
巨体が大きく揺れる。
一歩、二歩。
そして、
ドォォォォン……
黒狼王は静かに大地へ倒れた。
一瞬の静寂。
誰も動かなかった。
やがて、一人の兵士が恐る恐る近付く。
黒狼王は動かない。
完全に息絶えていた。
兵士は大きく息を吸い込み、
「か、勝ったぞーーーーーー!!」
その叫びをきっかけに、街中が歓声へと包まれた。
「勝った!」
「助かった!」
「街は守られた!」
城壁の上では兵士たちが抱き合い、冒険者たちは武器を掲げる。
俺はその場へ座り込んだ。
「終わった……」
もう指一本動かす気力も残っていない。
魔力はほぼ空っぽだった。
「お疲れさん」
ガルドさんが笑いながら近付いてくる。
鎧は傷だらけ。
それでも表情は晴れやかだった。
「お前のおかげだ」
「俺一人じゃありませんよ」
「いや」
ガルドさんは首を振る。
「あの炎渦の刻印石がなかったら、最初の突撃で城門は破られていた」
「……」
「ありがとな」
その一言が、何より嬉しかった。
数日後、
街は完全に復興し、人々の表情にも笑顔が戻っていた。
そして、この日は勝利を祝う祭りの日。
大通りには屋台が並び、音楽が流れ、子どもたちが走り回る。
「すごい人だなぁ」
俺は焼き串を片手に街を歩く。
「バルトさん!」
「英雄さん!」
いつの間にか、あちこちから声を掛けられるようになっていた。
「英雄はやめてくださいよ」
苦笑しながら手を振る。
冒険者ギルドへ入ると、大きな拍手が起こった。
「おぉ!」
「刻印師だ!」
「よっ、石好き!」
皆が笑っている。
以前はFランクの新人だった俺が、今ではギルド中で知られる存在になっていた。
受付嬢も笑顔で迎えてくれる。
「バルトさん」
「今回の防衛戦、本当にお疲れさまでした」
「こちらが特別報酬になります」
差し出された革袋は、ずっしりと重かった。
「こんなに?」
「依頼報酬に加えて、街からの感謝も含まれています」
「貴重なルビーもたくさん使っていただきましたしね」
受付嬢は微笑んだ。
中を見ると、大銀貨二枚に加え、小金貨が何枚も入っていた。
「……」
俺は少しだけ考え込む。
「これだけあれば」
「石、いっぱい買えるな」
真っ先に思いつくのがそれだった。
「相変わらずですね」
受付嬢は思わず笑ってしまう。
ギルドを出ると、夕焼けが街を赤く染めていた。
俺は空を見上げる。
追放された日、
あの時はこんな未来は見えなかった。
でも今は違う。
行きたい場所がある。
見てみたい石がある。
「さて」
「次は、どんな石に出会えるかな」
自然と笑みがこぼれた。
その日の夜、
宿の部屋で地図を広げる。
目を引いたのは、西の彼方に描かれた広大な森林。
その横には、小さく文字が添えられていた。
サウベリア大森林
そして、そのさらに奥には、
行政都市アウレリア
「ここか」
石好きの旅は、まだ始まったばかりだった。
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