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40. 黒狼王

 ウォオオオオオオオオン!!

 漆黒の巨大な狼が咆哮した瞬間、

 戦場の空気が一変した。

 それまで炎を恐れていた灰狼たちが、一斉に前へ飛び出す。

「来るぞ!」

 兵士たちが武器を構える。

 だが、

 黒狼王は違った。

 ドンッ!!

 たった一歩踏み出しただけで、大地が揺れる。

「速い!」

 次の瞬間には、城壁の目前まで迫っていた。

「炎渦!」

 兵士が刻印石へ魔力を流す。

 ゴォォォォォッ!!

 巨大な炎の竜巻が黒狼王を包み込む。

「やったか!?」

 誰かが叫ぶ。

 しかし、

 炎の中から、

 ザンッ!!

 鋭い爪が炎を切り裂いた。

「なっ!?」

 黒狼王は身体をひねりながら炎を抜け出し、そのまま城壁へ飛びかかる。

 ドガァァァン!!

 石壁が大きく揺れた。

「ひびが!」

「まずい!」

「土壁!」

 俺は刻印石を発動する。

 ゴゴゴゴゴッ!!

 黒狼王の前へ分厚い壁が現れる。

 しかし、

 バキィィィッ!!

 前足の一撃。

 たった一撃で土壁が粉々になった。

「硬いだけじゃ駄目か!」

「ガルドさんさん!」

「任せろ!」

 ガルドさんが巨大な斧を振り上げる。

「おおおおおっ!!」

 ズガァァァァン!!

 斧が黒狼王の肩へ命中した。

 だが浅い。

 毛皮が硬すぎる。

「なんて防御力だ!」

 黒狼王の尾が横薙ぎに振られる。

 ブォン!!

「ぐっ!」

 ガルドさんが吹き飛ばされた。

「ガルドさんさん!」

 兵士たちが駆け寄る。

「まだだ……」

 ガルドさんは立ち上がるが、腕が震えている。

「探知」

 俺は刻印石を発動した。

 黒狼王の動きが頭へ流れ込む。

「次は右!」

「避けてください!」

 兵士たちは間一髪で回避する。

「助かった!」

 だが、

「速すぎる……」

 探知がなければ対応できない。

 俺は収納を開く。

 残っている刻印石を確認する。

 炎渦

 土壁

 収納

 探知

「……」

 何か……

 何か方法はないか。

 その時、

 黒狼王が大きく跳び上がった。

「まずい!」

 狙いは城門。

 あそこを壊されたら終わる。


 その瞬間、

 俺の頭に、一つの考えが浮かんだ。

「そうか」

「組み合わせればいいんだ」

 今まで俺は、一つの刻印石を一つずつ使っていた。

 でも、

「一緒に使えないなんて、誰も言ってない」

 俺は土壁の刻印石を発動する。

「土壁!」

 黒狼王の着地点へ巨大な壁が現れる。

 当然、

 黒狼王は壁を飛び越えようとする。

「今だ!」

 その真上へ。

「炎渦!」

 ゴォォォォォォォッ!!

 巨大な炎の竜巻。

 空中では方向転換ができない。

 黒狼王は炎へ突っ込むしかなかった。

「ウォオオオオオッ!!」

 苦しそうな咆哮が響く。

 しかし、

 まだ倒れない。

「化け物か!」

 炎を抜けた黒狼王は傷だらけになりながらも立ち上がる。

 その瞳は、なお俺を睨んでいた。


「バルト!」

 ガルドさんが叫ぶ。

「もう一発作れるか!」

「……!」

 俺は腰の収納石を見る。

 中には、

 ルビーが一つだけ残っていた。

 観賞用として最後まで取っておいた、一番美しいルビー。

「……」

 一瞬だけ迷う。

 本当に使うのか。

 でも、

 街のみんなの笑顔が浮かんだ。

「石は」

「眺めるだけじゃない」

「人を守ることもできる」

 俺は優しくルビーを握る。

「ありがとう」

「好きこそものの上手なれ」

「岩石刻印」

 この戦い、最後の刻印が始まった。

 炎の魔法陣が、ルビーの中で静かに輝き始める。

 そして、

 黒狼王が最後の突撃を開始した。

 俺は完成したばかりの刻印石を強く握り締める。

「これで終わりだ!」

 刻印師と黒狼王。

 互いの最後の一撃が、今、激突しようとしていた――。

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